電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内

カギはコストとオープンマインド


~産業機器市場~

2014/10/14

 本紙6月11日号で南川明アナリストが本コラム「メガトレンドが引き起こすエレクトロニクス需要」で、人口増、都市化、資源不足、先進国の高齢化といった世界のメガトレンドと、これらの諸問題を解決するエレクトロニクス機器市場の拡大について述べた。

 筆者も同様に、エレクトロニクス業界、とりわけIoT(Internet of Things)やM2M(Machine to Machine)の恩恵を受ける産業機器市場で今後5~10年間に大きなパラダイムシフトが起きると考えている。

 インターネットで我々の生活は大きく変わり、無くてはならないものになった。しかし、B2Bの世界では、インターネットによる大きな変化の歴史は比較的浅い。多くの日本企業の高付加価値事業であるFA・IAなど産業機器のデジタルネットワーク化は大きなビジネスチャンスになる。しかし、成長市場では強力な海外メーカーとの競争も想定しなければならない。

 図は、FAや重電機器といった産業機器グローバル大手5社の過去5年間の売上高成長率をX軸、直近の年度決算の営業利益率をY軸、バルーンの大きさを売上高に表している。


 2013年度は日系2社ともに好決算だったが、利益率では欧米系を下回った。いずれもエレクトロニクス業界では相対的に好業績を上げ、成長市場であるエネルギーや鉄道といったインフラ、自動車やオートメーションなどの関連分野で積極的にプロジェクトを獲得、収益成長につなげている。それぞれの成功事例を成長するグローバル市場で拡大展開していくことが、今後の課題とうかがえる。

 一方、海外大手はグローバル戦略という点で日系メーカーに先行している。13年度における日立の海外売上高は44%程度、三菱電機は40%弱だったが、GEは46%、シーメンスは86%を自国以外の地域で売り上げた。世界一の経済規模、安定成長が続く米国をホームグラウンドとするGEはともかく、規模・成長率ともに限定的な日本や欧州を基盤とする企業には、グローバル市場での収益拡大が成長シナリオに不可欠だ。

 最も利益率が高いGEは、IoTを活用してユーザーの悩みをいかに解決するか、といったソリューション志向を強調している。シーメンスやABBもまた、メガトレンドで想定されている問題を自動化やデジタルネットワーク化された産業機器で解決する「インダストリー4.0」のコンセプトに基づき、製品やサービスの開発を進めている。

 日本企業も同様に、インフラやオートメーションといった成長事業でグローバル市場への拡大展開を目指しているが、課題となるのが、(1)グローバル展開(どこで稼ぐか)、(2)ハードorノンハード 何を収益の源泉とするか(どう稼ぐか)の2点である。

 (1)について言うと、海外進出を強化している日系メーカーの多くが機器・部品の現地生産を一部で進めているが、産業機器は品質や信頼性のハードルが高いため、コストの最適化が課題となる。GEやシーメンスは消費地に近いアジアで生産する一方、コア部品は自国で性能や信頼性を確保。ブラックボックス化したものを世界標準品とし、収益拡大につなげようとしている。

 例えば、日本の重電機器は、電力各社の仕様に沿って周辺機器までカスタマイズしなければならないなど、産業・インフラ関連システムの多くは国内顧客へのカスタム志向が強い。現生産体制では海外メーカーに比べて大幅なコスト高になることもしばしばだ。

 一方、海外メーカーの多くは、地域や製品の隔たりを超えて標準化・プラットフォーム化を進め、異なる機器に搭載されるディスプレーや部品を共通化する活動で、日系メーカーにはるかに先行している。

 足元の業績が大きく改善したからといって、現体制をそのまま海外にコピーするだけの展開では、テレビや携帯電話などと同じ轍を踏むことになりかねない。グローバル展開を進めるにあたり、消費地に近接した生産やアウトソーシングによるコストダウンに加え、心臓部のブラックボックス化・標準化が不可欠だ。

 (2)に関して、海外メーカーと日系メーカーが大きく異なる点が、産業機器分野におけるノンハードの収益だ。海外メーカーは、インフラや製造ラインにおけるGoogleやSAPのようなソリューションプロバイダーの地位を目指しており、そのためにソフトウエア開発投資やM&Aを積極的に行っている。

 特に、サービス収益の拡大を進めているGEは、年間受注額の50%近くがサービスやオペレーションメンテナンスなどのノンハードからの収益だ。日系メーカーもサービス売上高比率の向上を目指しているが、まだ30%程度と低い。

 アナリストの視点からいえば、サービスやメンテナンスの収入は、収益の安定化に加え、ネットワークやクラウドを活用して顧客に新たな付加価値を提供できるため、ライフサイクルの長い産業機器分野では特に注力すべきといえる。

 大手電機メーカーの多くがシステム部門を持っているが、縦割り組織の日系メーカーは事業部間の連携が海外メーカーに比べて少ない、と筆者は推定している。海外メーカーの制御システムは、センサーネットワークの活用で機器の不具合をいち早く検出し、オンラインでサポートする。日系メーカーはソフト/ハードウエア、品質管理、メンテナンスといった「違う畑」が部門間の隔たりを超えて連携し、ダウンタイムや重大事故を低減している。

 IoTの普及で産業機器のデジタル化、ネットワーク化が進むとすれば、こうしたクロスセクション活動がさらに重要になる。

 結論として、日系メーカーが産業機器市場でグローバル展開するにあたっては、標準化やプラットフォーム化でコストダウンしたうえで、システムやサービスなどノンハードの部分で付加価値を提供するビジネスモデルの重要性を改めて強調しておきたい。



IHS Technology アナリスト ジャパンリサーチ 大庭光恵、
お問い合わせは(E-Mail : forum@ihs.com)まで。

サイト内検索