電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第106回

日立は医療部門7000億円達成を掲げ、全速全開で東芝を追撃


~MRI、超音波、CTなどが得意技で、コンパクト装置は世界シェア約11%~

2014/10/24

 その地域で最高レベルの病院に行って、半日以上待たされた経験はどなたもお持ちであろう。朝の8時から出かけていってもう夕方になんなんとするころ、やっと診療室に呼ばれてみれば診断はたったの3分、という例はよくあるのだ。病院に来るのだから体調が良くないのは当たり前。そのうえに半日以上も待たされれば、誰でもクタクタになって帰ることになる。

 ところが、である。筆者はたいした病気ではないが、定期健康診断もかねて年に数回程度、横浜を代表する基幹的総合病院に通っている。この病院には受付、診断室および待合室のすべてのゾーンに大きな電子ディスプレーがあり、患者の待ち時間が分かるように配慮されている。つまり自分の順番はいつ来るかが分かるのだから、いらいらと待つこともなく、外に出て買い物をしたり、お茶を飲んだりすることもできる。パソコンを持っていれば外の喫茶店で仕事もできるし、煙草をふかしたり、読書したり、昨夜知り合ったクラブのお姉さまにお誘いメールをすることもできる。ITを活用した患者に対するITサービスはこうして全国各地に広がりつつある、といえよう。

100年企業の底力(そこぢから)を見せて日立は「医療」で斗う
100年企業の底力(そこぢから)を見せて
日立は「医療」で斗う
 医療ITサービスにまっしぐらという点では、大型コンピューターによる社会インフラ事業を得意とする日立グループの出番といえるだろう。先ごろ戦略的医療子会社である日立メディコを本体に取り込み、日立ハイテクにおいても医療機器分野の充実を図っている。日立メディコはMRI、超音波、CT、X線の4本柱で展開している。ちなみに世界の超音波市場は52億8500万ドルで、コンパクト装置からプレミアム装置まで今後も順調に伸びると予想され、なかでもコンパクト装置は16年まで年平均7.8%の成長が見込まれる。放射線科、循環器科、産婦人科が3大領域であり、日立グループの世界シェアは約11%を占める。

 「日立製作所はバリバリの100年企業であるが、ここに来てまさに本領発揮といったところだ。リーマンショック時の2008年に、明治維新以来140年余りで日本企業が出した最大の赤字8000億円という不名誉な記録を持つあの日立が、野武士のように復活してきた。ここ2年連続で最高レベルの黒字を出しており、医療、鉄道、エネルギーなど社会インフラに徹底シフトする戦略が日立の底力を引き出したといえよう」(大手証券アナリスト)

 ITサービスでは電子カルテシステム、検査情報管理システム、医用画像管理システムなど主に病院向けのシステムを日立メディコが担当。医事会計システム、健診システム、クリニック/歯科診療向け電子カルテシステム、薬局向け電子薬暦システムなどを日立メディカルコンピュータが展開している。医療ITサービスも拡大しており、データの「安心バックアップサービス」も提供し、厳重なセキュリティー管理下の東西2拠点のセンターで対応している。

 「先ごろ日立にとっては最大のライバルである東芝が3本目の事業の柱を医療分野に設定し、2017年度にその分野で1兆円達成を掲げた。これに対して日立グループもついに、のろしを上げたのだ。日立グループの医療関連の売り上げは、現状で約2000億円といったところだが、何とこれをここ2~3年の間に一気に7000億円まで引き上げるというのだから驚きだ。最近では東京女子医科大学と共同でiPS細胞などの再生医療に用いる細胞シートを自動で培養できる小型装置を開発した。角膜や食道の再生医療に大きな前進を果たす技術だ」(大手証券アナリスト)

 日立のテレビコマーシャルでは、「この木なんの木気になる木」とかいう歌が流れ、どでかい木が映し出される。その後に日立グループの各社がテロップとして流れる。筆者はこれを見て、こんなにグループの数が多ければこれを統治するのは大変なことだな、と思っていた。日立の社風は、かったるいとか生ぬるいとか、スピードがないとか、巷間言われているが、日立には日本中のすべての会社が持っていない勲章があるのだ。それは明治以来、100年間にわたって売り上げランキングベスト10位に必ず入っていることだ。どんなにかったるくとも日立はただ1社、この100年間をトップカンパニーとして生き残ったのだ。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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