電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第68回

独インフィニオンの本社・工場に潜入!


本社Campeonとドレスデン工場を見学

2014/10/24

 9月末に日本法人インフィニオンテクノロジーズジャパンの招待で、同社のドイツ本社およびドレスデン工場を見学する機会に恵まれた。同社はSTマイクロエレクトロニクスと並ぶ欧州を代表する半導体メーカーであり、最近では米インターナショナルレクティーファイアーを30億ドルで買収すると発表するなど、パワーデバイス分野を中心に事業拡大に意欲を見せている。今回は同社の現況および工場見学の様子を紹介する。

独シーメンスから分離・独立

 ご存知のとおり、インフィニオンは独シーメンスの半導体部門が分離・独立するかたちで99年に誕生した半導体専業メーカーだ。発足当時はベースバンドプロセッサー(インテルに売却)、DRAM(キマンダに分社化)などを抱え、総合半導体メーカーとして事業を展開していたが、その後、選択と集中を徹底。現在はパワーデバイスを中心に、マイコンやセンサーを展開する企業に生まれ変わっている。製品の絞り込みと同時に、対象市場やアプリケーションも車載/産業機器/エネルギー分野に注力しており、日系メーカーでいえば三菱電機や富士電機、東芝などが競合メーカーにあたる。年間の売上高は38億4300万ユーロ(13年9月期)。

 本社はドイツ・ミュンヘン郊外にあるノイビーベルクという場所だ。ミュンヘン国際空港から車で約30分のところにある。ノイビーベルク本社に行って驚いたのが、まずその広大な広さだ。日本にある本社オフィスなどとは異なり、大学のキャンパスを思わせる作りで、イメージとしてはつくばにある産総研が近いかもしれない。この本社は「Campeon」と呼ばれており、これは「Campus」と「Infineon」を組み合わせた造語なのだという。

「Campeon」は「Campus」と「Infineon」を組み合わせた造語
「Campeon」は「Campus」と「Infineon」を
組み合わせた造語
 Campeon内には、食事ができるカフェテリアはもちろん、フィットネスルームも完備。さらに驚いたのが保育所だ。定員200人という大規模な保育施設で、現在は新たに別の保育施設も建設しており、小さな子供を持つ家庭にも働きやすい環境を提供している。

車載事業、日本国内で攻勢

 同社が注力する市場の1つに車載分野があるが、周知のとおり、ドイツにはベンツやフォルクスワーゲンといった有力な完成車メーカーがあるほか、ボッシュなど自動車Tier1メーカーも存在しており、ルネサスのような日系メーカーに負けず劣らず強みを発揮している。

 同社の車載用半導体事業は欧州で1位、世界で第2位に位置する。さらに車載用半導体のうち、パワーデバイスは1位、センサーは2位、マイコンは3位となっている。

 欧州ではすでに高い実績を誇る同社の車載用半導体事業だが、日本国内ではまだまだこれからというのが実情だ。こうした日系の完成車およびTier1メーカーでの採用拡大を目指し、同社では今後5年間に日本の車載事業顧客からの売り上げ(国内外含む)を年率15%以上で伸ばしていく考えだ。

 日本の車載用半導体ビジネスは、頂点に完成車メーカーが君臨し、その下にTier1メーカー、さらにその下に半導体メーカーといったかたちで、ピラミッド型、いわゆる下請け体質がいまだに根強く残っている。これに対し、インフィニオンなど欧州勢が展開する車載用半導体のビジネスモデルは完成車メーカーやTier1メーカーと対等な関係で開発を進めており、半導体の開発だけなく、クルマ全体を念頭においたシステム提案力に長けている。同社ではこれを「Product to System(システムの深い理解)」と表現しており、今後の国内市場開拓に向けた切り札的な要素といえるのかもしれない。

今年でちょうど20周年

 ドイツ滞在2日目はCampeonでのミーティングが中心で、翌3日目は同社の前工程拠点であるドレスデン工場の見学であった。私もこの仕事に就いて日本国内のクリーンルームに入ったことは何度かあるが、海外工場のクリーンルームに入るのは初めて。非常に貴重な経験であり、今回の出張で最も楽しみにしていたものの1つである。

 ドレスデン工場は94年設立で、今年ちょうど20周年を迎える。200mmラインと300mmラインを有しており、300mmラインは世界初のパワーデバイスラインとして業界内でも注目を集めている。なお、200mmラインはマイコンやチップカード、TPMS(タイヤ空気圧モニタリングシステム)用センサーなどを生産。生産能力は週産1万枚以上となっている。

ドレスデン工場は欧州を代表する半導体集積地「シリコンサクソニー」の中核的存在
ドレスデン工場は欧州を代表する半導体集積地「シリコンサクソニー」の中核的存在
 クリーンルームの入室ルールは日本より厳格だ(日本でも同様のルールを採用しているクリーンルームもあると思うが)。まずは入室2時間以内の喫煙は禁止、メイクも禁止だ。日本のクリーンルームを見学する際は、ワイシャツなどの上からクリーンスーツを着るケースが多かったが、ここではすべて脱いで専用のTシャツとズボンに履き替え、クリーンスーツを着用した。

 ドレスデン工場の場合、とかく300mmラインに目が行きがちだが、200mmラインも他にはない特徴を兼ね備えている。その1つが完全自動化だ。300mmラインでは非常に一般的な自動化だが、200mmではあまり例がなく、日本国内の200mmラインのほとんどがオペレーターによる、いわゆる「手搬送」だ。これに対し、ドレスデンの200mmラインは天井にインターベイとイントラベイが張り巡らされており、絶えずウエハーが行き交っている。インフィニオンでは、この一連の自動化投資により、3~4年前に比べ生産能力が約45%高まったとしている(工場見学の詳細は本紙10月15日に掲載)。

 外資系半導体メーカーの本社所在地に行くというのは、記者生活のなかでも貴重な経験だ。台湾や韓国などのアジア系企業であれば、まだその機会はあるが、欧州企業となるとなかなか縁遠くなってしまう。そういった意味でも今回のドイツ出張は非常に有意義な経験をすることができた。この場を借りて、今回のプレスツアーを企画して下さった日本法人の森社長、広報担当の佐々木様、そして本社広報担当のFabianさん、Monikaさんに感謝申しあげます。ありがとうございました。

半導体産業新聞 編集部 記者 稲葉雅巳

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