電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第76回

佐賀のシンクロトロン光研究センターはかなりの優れものだ!!


~電子デバイスの利用支援は2012年度26%でトップ、2013年度も20%~

2014/12/19

 佐賀県が2006年2月に設置・開所した九州シンクロトロン光研究センターは産業利用支援を主目的とするものだが、その支援実績を見ると、かなりの優れものだと評価できよう。利用内訳は電子デバイス、エネルギー、素材・原料をメーンにバイオメディカル、ディスプレーまで及んでおり、2013年度の産学官の外部利用者に供した放射光(シンクロトロン光)の利用時間数は、何と3633時間となっている。X線トポグラフィによる化合物半導体単結晶ウエハーの評価、X線イメージングによる信号ケーブル用高分子材料のCT観察など、高品質な製品化に直結する支援はもっと全国に知られて良いだろう。

 同センターは、この種のものとしては九州で唯一の施設であり、実験ホールの放射光源である電子蓄積リング1.4GeV300mAと、入射器の電子リニアック255MeVを擁し、設置可能ビームラインは12~15本、既設ビームラインは8本となっている。同センターの放射光は極紫外線からX線までの連続した波長(光子エネルギー)範囲で使うことができる。さらに、レーザー光のように鋭く集中した平行光であり、強度は通常のX線管の1000倍から1万倍に及ぶのだ。

九州シンクロトロン光研究センター 副所長 平井康晴氏
九州シンクロトロン光研究センター
副所長 平井康晴氏
 同センターの副所長を務める平井康晴氏は、神戸市出身で灘高等学校を経て東京大学大学院の物理工学専門課程を修了し(工学博士)、(株)日立製作所の中央研究所と基礎研究所で長く勤務した実績を持つ。筑波のKEK-PFと兵庫県佐用郡のSPring-8でのビームラインの建設と、それらを使った高温超伝導体材料の分析や、胞子などの単一細胞内の三次元元素分布の観察に成功したことなどが思い出に残っている、という。

 「九州シンクロトロン光研究センターのハードウエアは国内では中規模だが、利用における強味は極紫外線からX線までの放射光をフルに使って、半導体材料などの分析、MEMS部品の微細加工、作物の突然変異育種などの研究をほぼ同時並行で出来ることだ。実際これらの研究では成果が得られはじめている。また、X線を高いSN比で単色化できるので半導体ウエハーの欠陥もしっかりと見ることができるのだ。」(平井副所長)

 半導体単結晶材料の欠陥評価については、SiC単結晶の高品質化につながる結果を出している。高温で大電流動作が可能なパワー半導体デバイス用材料であるSiCは、デバイス形成時のイオン打ち込みで生成する欠陥などが動作不良につながるため、単色X線や白色X線によるトポグラフィ欠陥観察を行い、充分な成果を出したという。また、ケータイ、スマホなどに搭載される小型・大容量のセラミックコンデンサーは、さらなる高品質化が求められているが、そのための材料開発の一環としてCaを添加したBaTiO3材料のXAFS法による構造解析を行い、高機能化への知見が得られている。その他にもサファイア基板、ダイヤモンド、酸化ガリウム、などの欠陥の調べ込みという点で、同センターの活躍の場はますます拡がっている。

 2012年度の利用支援実績を見れば、電子デバイスがトップで全体の26%、次いで電池・触媒が22%となっている。2013年度はエネルギーがトップで同27%、次いで素材・原料22%、電子デバイス20%となっている。

 「リチウムイオン電池、燃料電池、太陽電池などの材料評価の案件が非常に増えている。また製薬や医療機器などのメーカーも利用率が上昇している。しかし、利用者の方は必ずしも放射光利用に精通している訳ではない。そこで、私たちは利用者の方と一緒に考えて課題解決を支援したいと思っている。それがイノベーションを創出し、利用分野を拡大するための原点と考えている。これからも成果につながるための支援に全力を挙げていきたいと思う」(平井副所長)

 ところで、エリア別の利用内訳を見れば、2013年度で九州42%、関東25%、近畿18%、中部10%、中国2%、北海道1%、東北1%、四国1%となっている。やはり九州が多いのは当然のことであるが、関東や近畿からの利用も増えているのだ。これだけの優れものの九州シンクロトロン光研究センターの知名度がさらに上がり、国内外の利用がもっと広範囲に拡がっていくことを期待したい。

半導体産業新聞 特別編集委員 泉谷渉

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