電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第133回

「今までの延長線上に解はない。不連続な変化が必要だ」


~新生の半導体企業「ソシオネクスト」を率いる西口泰夫氏の言葉~

2015/5/22

(株)ソシオネクスト 代表取締役会長 CEO 西口泰夫氏
(株)ソシオネクスト 
代表取締役会長 CEO 西口泰夫氏
 とにかく、何と言われようと日立、三菱電機、NEC連合軍のルネサス エレクトロニクスは設立5年で初の黒字を計上した。売上高は5年間で3割以上も縮小したが、2015年3月期決算で823億円の黒字を計上し、設立以来の苦境から脱出したのだ。

 痛みを伴う改革ではあった。4万8000人もいた社員を2万1000人まで削減、生産拠点も22カ所から9カ所に削減した。それでも、生き残りを賭けてルネサスは闘い続ける。まだ、売り上げは約8000億円あるのだ。得意の車載半導体に磨きをかければ、一流の技術が大きなステージにつながることは充分に考えられよう。

 さて、2015年3月のこと、ルネサスに続く事業切り出し・統合型の半導体企業が誕生した。富士通とパナソニックの半導体事業を統合し、しかもファブレスで戦うソシオネクスト(横浜市港北区新横浜2-10-23、Tel.045-568-1000)である。この新生半導体企業は工場を持たないが、それでも約1500億円の売り上げがあり、設計エンジニア2200人を擁するカンパニーであり、これを率いるのが元京セラ社長の西口泰夫氏(代表取締役会長・兼CEO)だ。

 先ごろ表敬訪問させていただいたが、歴戦の強者である西口氏は厳しい顔をしながらも少し微笑み、筆者を軽くハグしてくれた。京セラ時代の鬼のような活躍をリポートさせていただいた筆者は、こうしたかたちで西口氏に再びお目にかかるとは夢にも思わなかった。しかして、ニッポン半導体再生の一翼を担うことになった西口氏は、はっきりとこう語ったのだ。

 「統合効果で一番重要なことは、企業資産を守ることだ。つまりは、富士通とパナソニックが保有する人の資産の流出に歯止めをかけることだ。ニッポン半導体は残念ながらこの10年間で多くの優秀な人材を外に切り出していった。その結果として、競争力を大きく失い、海外勢に名をなさしめた。何としてもこれを止める」

 ソシオネクストは、映像、イメージング、ネットワーク分野で長年培ってきたグローバルトップクラスのテクノロジーリソースを多く持っている。それらは、ブルーレイレコーダー分野で多くの実績を持っているコーデック機能を持つシステムLSIであり、世界最小クラスのNo.2、24GHz CMOS電波センサーであり、世界最小、最低消費電力でWiGig準拠の60GHz高速無線データ通信などである。また、車載ディスプレーの3D、2Dグラフィックによる洗練された統合HMIシステムもあり、デジカメ、車載端末、情報端末、デジタルAVなど様々なアプリに活用できる高性能なシステムLSIとソフトウエアを提供できるプロフェッショナル軍団が新たに生まれたのだ。

 「確かにこれまでに保有している知財は豊富だ。IP、特許は数万件を持っており、これが最大の資産だといってよいだろう。国内No.1のカスタムSoCベンダーであることは間違いない。しかして、重要なことは、こうした過去の資産を活かしつつも、今までの延長線上に解はないのだ。このカンパニーは不連続な変化を遂げていかなければならない。仕事のやり方を変えていくのだ」(西口氏)

 西口氏は、「もはや背水の陣なのだ。後はない。先に進むのみ」という社内意識をどう高めるか、について注力していきたいという。イメージングとネットワークという2つのキーワードを軸に据えながら、どれだけ新規の開発を生み出せるか、また新規の顧客を獲得できるかが、このカンパニーの命運を握っている。

 秋口には中期経営計画を策定し、明確なロードマップが示されることになろう。方向性ははっきりとしており、社内のセットのための半導体開発からグローバルなステージに出ていく、ということなのだ。このため、米国、英国、中国などに拠点を築き、多くの海外の有力企業にハイパフォーマンスで低消費電力のSoCビジネスを仕掛けてゆく。40~50ナノプロセスから16ナノプロセスまでカバーする体制を築いていくのも重要だろう。

  「一番大切なことは、ソシオネクストの存在価値を世界に発信していくことだ。持続的成長で利益を上げ、みんながハッピーになる会社にしたい」
 こう語る西口氏の視線は、かつての京セラトップの頃と同じであり、このすばらしいリーダーのもとに成功してもらいたい、と切に思う。今、重要なことは、「ニッポン半導体は死んでいない」というメッセージを世界の隅々まで届けることなのだから。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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