電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第138回

「本当に革新的な変化はすぐ当たり前になるのだ」


~JPCA Show 2015で講演したNTTの森内一成氏が語る世界初の「布」~

2015/6/26

JPCAショーは新アプリのロボットなどにも注力している(NOKのブース)
JPCAショーは新アプリのロボットなどにも
注力している(NOKのブース)
 「~のせる つなぐ つくる そして、ひろげる~」をテーマに、今年も6月3~5日にかけて東京ビッグサイトでJPCA Showが華々しく開催された。世界唯一・最大の電子機器トータルソリューション展示会となるJPCA Showは、電子回路技術をはじめ実装プロセス、ラージエレクトロニクス、パッケージ技術などが一堂に会した展示会として定着しており、今回で実に45回目を迎えた。筆者が所属する電子デバイス産業新聞も主催者の一角に加えていただいている。

 さて、初日の6月3日の午前中に行われた基調講演であるが、日本電信電話(NTT)研究企画部門のチーフプロデューサである森内一成氏の講演は実に面白かった。タイトルは「感じる機能素材hitoeが導く未来」というものであり、要するに生体反応をかなりの確度で計れる画期的な素材を上市し、すでに日常的に使われるシャツとして販売しているのだ。
 「NTTには2500人の研究者がおり、私は唯一の文科系です。しかしてNTTの最先端総合技術研究所がやったものをポーンと商品にしてしまいました。文科系の感性というものも製品開発には必要なのかもしれません」(森内氏)

 この「hitoe」というウエアデバイスは、多くの人のクロスオーバーがあって初めて実現したのだ。体につけて簡単に心拍数を計るという技術は、ある外科医が開発した。それならばということで、NTTの素材陣は、今や炭素繊維で国内外に知られる東レの開発陣と接触した。東レは極細繊維のナノファイバーを持っており、当初はシルクにコーティングして組み込もうとした。しかし、洗濯できないことが分かり、これはだめになった。シャツの裏地に心拍数を読み取る導電性高分子を繊維の上に塗る、というアイデアはすばらしかったが、一頓挫したのだ。そこで出てきたのは、繊維の中に導電性高分子を染み込ませるというウルトラアイデアであった。
 「NTTの素材と東レの繊維がクロスオーバーし、世界初の生体検査できる布ができたわけです。日常性のシャツから入りたいと考え、ゴールドウインから発売することにしました。そして、端末が必要だからNTTドコモを巻き込め!!という勢いになり、hitoeは世に出ることになりました」(森内氏)

 肌に優しく親水性があり、金属ではないのに電気を通すという画期的な布ができたことは驚きだ。製品発表を行い、各スタッフともにテンションが非常に上がっていたが、このシャツを使ったあるマラソンランナーから苦情が来た。つまり、走っているときにある一部の肌が擦れてしまうという報告がされたのだ。ただちに販売を停止する。たった1人のアピールから、それこそ死に物狂いで対策を講じた。1カ月後にトランスミッター接合部に対策を施した改修品を作り、販売を再開する。そして、かなりの数が市場に投入されたのだ。
 「あったらいいな、という未来をプロデュースするために、このhitoeという素材が生まれたのだと思います。このhitoeのシャツを着て動き回り、心拍で音楽を作ることにも挑戦しました。さらに加速度センサーを入れてみたらどうだろう、ということで実験をしています」(森内氏)

 この画期的な新素材であるhitoeは、繊研新聞社により第45回繊研合繊賞を受賞する栄誉に輝いた。一般消費者向けに市場投入したが、最近では法人向けの営業にも取り組んでいる。東京オリンピック開催の2020年までは都内の建設ラッシュが続くと見て、ゼネコンにも売り込んだ。大林組は現場作業員の健康安全管理ができる、という観点からこの製品をテストしてみることにした。

 また、hitoeから得られる生体信号である心拍数、ストレス検知、消費エネルギー、運動強度などを分析するロジックも開発中だ。さらには、病院内で使用すれば介護や日常的な測定にもつなげられると考え、医療機器とのコラボレーションも検討中であるという。ちなみに、人間はリラックスしている時と揺らいでいる時は明らかに生体信号が違う。それゆえに、hitoeを使ってリラックスする方法も考えられるのだ。
 「本当に革新的な変化はすぐに当たり前になります。スマホはまさにそのすばらしい例であり、あらゆる機能を盛り込んだウルトラ電子機器としてあっという間に世界に広がり、日常的現象となりました。私たちは、このhitoeによって静かに起きてくる劇的変化を狙いたいのです」(森内氏)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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