電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第105回

太陽光発電2015、上期10大トピックス


拡大する市場、加速する技術開発

2015/7/17

 世界の太陽光発電市場は、中国、日本などアジア・パシフィック(APAC)が牽引役となり、順調に拡大している。2014年の導入量は40GW(SolarPower Europe調べ)に達したが、15年はさらに上回る50GW超が見込まれている。そこで、15年上期を振り返り、市場&技術開発における主なトピックスをまとめてみた。

(1)15年もプラス成長

 欧州の太陽光発電関連の業界団体であるSolarPower Europe(旧EPIA)の調査によると、14年における太陽光発電の世界導入量は40GWで、13年の37GWに対し8%の増加となった。中国が10.6GW、日本が9.7GW、米国が6.5GW導入するなど、引き続き市場を牽引した。一方、ドイツは市場の縮小が続いており、14年は1.9GWにとどまった。ドイツに代わって欧州最大市場に躍り出た英国は2.4GWを導入した。ちなみに、中国、日本、米国、英国、ドイツの合計導入量は31.1GWで、トップ5で世界導入量全体の8割弱を占めている。


 14年の累積導入量は178GWに達したが、欧州のシェアは5割(13年は6割)に低下した。国別では、依然としてドイツ(累積導入量38GW)がトップで、以下、中国(29.4GW)、日本(23.6GW)、米国(19GW)、イタリア(18GW)が続いている。
 15年の導入量については、多くの調査機関が50GW以上と試算しており、SolarPower Europeも積極的な支援施策や新興国の普及が加速するハイ・シナリオでは60GWの年間導入量が期待できるとしている。中国が17GW前後、日本が9~10GW、米国および欧州は9GW前後の導入が期待されている。インドは15年の導入量が1.8GWと急増するもようだ。

(2)中国メーカー躍進

 14年度(14年12月期)は主要PVメーカーの業績が好転した一年だった。米国のFirst SolarとSunPower、中国のCanadian Solar、Trina Solar、JA Solar、Jinko Solarはいずれも増収で、売上高の増加、粗利益率の改善で、営業利益も軒並み増加した。

 ただ、15年度1~3月期(第1四半期)は米国勢2社が低迷する一方で、中国勢は出荷量、売上高を大きく伸ばすなど明暗が分かれた。Canadianは前年同期比8割強の増収、Trinaも同25%の増収だった。両社はいずれもモジュール出荷量が1GWを超えた。また、事業統合したHanwha Q Cells(韓国)も売上高が大きく増えた。
 一方、First Solar、SunPower、Hanwha Q Cells、Yingli、Renesolaは赤字で、TrinaとJAは減益になるなど、1~3月期は減益もしくは営業赤字に転落する企業が増えた。

四半期で1GW超を出荷(Canadian Solar)
四半期で1GW超を出荷(Canadian Solar)
 国内メーカーは14年度(15年3月期)は収益が厳しかった。シャープ、三菱電機はPV事業が減収で、京セラ、パナソニックは増収だったが、京セラは大幅な減益となり、シャープは営業赤字に転落した。ソーラーフロンティアの親会社である昭和シェル石油は、14年度(14年12月期)のエネルギーソリューション事業は減収増益だった。

 15年度もPVの事業環境は厳しさが続く見通し。シャープは、販売数量がさらに減少するとし、売上高は1800億円にとどまると予測。ただ、収益改善が進むことから、50億円の営業黒字を見込んでいる。京セラは14年度と同水準の販売量を計画しているが、価格下落が進むことから、売上高は伸び悩むもよう。三菱電機も15年度は販売数量、売上高のいずれも14年度実績を下回ると予測している。
 パナソニックは15年度も国内住宅向けが好調に推移するとし、15年度は14年度を上回る販売量を見込んでいる。昭和シェル石油も販売数量は増加するが、価格下落が続くとし、15年度は営業赤字が30億円まで拡大する見通し。

(3)出荷量4GWの戦い

 14年は3.6GWのモジュールを出荷したTrinaがトップに立ったが、各社も軒並み生産・出荷量を増やした。Canadianは2.8GW、JinkoおよびJAも2GW超、Renesolaは2GW弱を出荷した。一方、13年トップだったYingliの出荷量は3.3GWにとどまった。
 15年については、Trinaが4.4~4.6GW、Canadianが4.0~4.3GW、JAが3.6~4.0GW、Yingliが3.6GW、Hanwha Q Cellsが3.2~3.4GW、Jinkoが2.7~3.0GWの出荷を計画するなど、生き残りをかけた出荷競争のハードルは4GWまで上がってきた。

 生産では、First Solarが15年度に生産能力を2.5GWまで増強するほか、SunPowerもフィリピンにセルの新工場(350MW)を建設中。マレーシアではJAがセルの新工場建設を進めるほか、Jinkoもセル(500MW)およびモジュール(450MW)の新工場を5月から稼働させた。
 Trinaはタイにセル&モジュール工場を建設中で、15年末にはセル&モジュールの生産能力をそれぞれ3.5GW、4.8GWに増強する。加えて、インドに2GWのモジュール工場も計画している。Hanwha Q Cellsも韓国にセル(1.25GW)およびモジュール(250MW)の生産ラインを新増設する計画を発表している。

(4)価格下落続く

 14年以降、PV用ポリシリコン、セル&モジュールの価格は比較的安定的に推移している。台湾Energy TrendおよびPV Insightsの調査によると、ポリシリコンは13年にはkgあたり14~15ドルまで下落し、14年初頭には19~20ドルまで回復したが、現在は15ドル前後で推移している。当初、需給バランスが改善したことから、15年は価格上昇に向かうと期待されたが、ポリシリコンメーカーの生産性改善による生産能力の拡大とそれに伴う在庫の増加で、今のところ価格上昇には至っていないようだ。

 ウエハーおよびセル&モジュールは下落が続いているが、下げ幅は鈍化しつつある。高効率多結晶ウエハーは、0.8ドル/枚、単結晶ウエハーは1ドル/枚前後で推移している。
 セルの価格は、台湾製および中国製の高効率多結晶がいずれも0.3ドル/W前後で推移している。結晶Siモジュールの価格(W単価)についても、13年初頭に0.65ドル、14年末に0.6ドルだったが、現在は0.5ドル前後で推移している。米IHSでは、今後もモジュールの価格下落が続くとし、19年には結晶Siモジュールの平均価格は0.45ドル/Wまで下がると予測している。

(5)蓄電池に価格破壊の波

Powerwall(Tesla)
Powerwall(Tesla)
 固定価格買取制度(FIT)の価格改定、さらには、電力会社による系統接続容量の制限といった問題が表面化するなか、住宅用太陽光発電において、蓄電池を組み合わせた自家消費型システムの提案が増えている。太陽光発電で発電した電力を蓄電池に貯めることで、夜間や停電時でも安心して電気を使うことができる。さらに、電力料金の低減も期待できる。
 シャープ、京セラ、パナソニック、ソーラーフロンティアなどの国内PVメーカーは15年に入って相次ぎPV用蓄電池システムを発表した。一方、三菱電機は、定置型蓄電池ではなく、大容量(12~24kWh)の蓄電容量を備えた電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)を利用したスマートハウスソリューションを提案している。

 ただ、PV用蓄電池システムの価格は300万円超と高額なのが実情で、普及にはさらなる価格低減が必要である。そうしたなか、米Teslaが超格安蓄電池を武器に家庭用蓄電池市場に参入してきた。Teslaの家庭用蓄電池「Powerwall」は7kWhモデルで3000ドル、10kWhモデルでも3500ドルとバーゲンプライス(いずれも電池のみ)の価格設定が魅力だ。耐久性や信頼性の懸念は残るが、一応10年間の保証がついている。果たして、格安蓄電池が追い風となり、自家消費型PVシステムの普及が進むだろうか。

(6)ペロブスカイトは大面積化へ

 PVの技術開発で最もホットな話題がペロブスカイトである。ペロブスカイトはバンドギャップが1.55~1.6eV、高い光吸収係数、高電圧、塗布&低温成膜、長いキャリア拡散長、安価な製造コストといった多くの特徴がある。当初は色素増感太陽電池(DSC)の増感剤として提案されたが、近年はホール輸送材と組み合わせた全固体型で高い変換効率が報告されている。

 公認の世界最高効率はKRICT(韓国)の20.1%(0.1cm²)だが、物質・材料研究機構(NIMS)が1cm²で15%の効率を実現している。
 材料や構造の最適化で27~30%の効率が狙えるが、他の太陽電池と組み合わせたハイブリッド型では40%の変換効率が期待できる。高効率化には、ペロブスカイト層の平坦性および緻密性、ホール輸送層の薄膜化、直列抵抗の低減、界面での再結合抑制などが重要となる。

ペロブスカイト太陽電池(imec)
ペロブスカイト太陽電池(imec)
 耐久性向上、コスト低減に向け、P3HTや銅チオシアン化合物(CuSCN)などの新規ホール輸送材、また、ホール輸送材を使わないデバイス、鉛フリーのスズペロブスカイト、さらには、強い光閉じ込め効果が期待できる2次元構造などが提案されている。
 そして、CSEM(スイス)が5cm角のミニモジュール(6セル直列)で6.6%、imec(ベルギー)は16cm²(開口部)のミニモジュールで変換効率8%を達成するなど、実用化を見据えた大面積化の取り組みが活発化している。

(7)CdTe vs 多結晶Si

 結晶Siに対し、圧倒的なコストパフォーマンスで市場を席巻してきたCdTe太陽電池だが、変換効率でも、ついに多結晶Siに追いついた。米First Solarは15年6月、CdTe太陽電池モジュールで変換効率18.6%(開口部面積)を達成したことを発表した。CdTeでは世界最高効率で、PERC構造の多結晶Siをも上回る効率になるという。

 CdTeのセル変換効率は11年に17.3%を達成して以来、順次、改善が進んでおり、15年1月には21.5%の世界最高効率を実現した。一方、モジュールについても効率改善が進んでおり、14年3月に17%を達成したが、15年6月には18.6%(NREL公認)を達成し、CdTe太陽電池モジュールの最高効率を更新した。なお、この効率はモジュール総面積に換算すると18.2%に相当し、これはPERC構造の多結晶Si太陽電池モジュールの17.7%を上回る効率になるとFirst Solarでは説明している。ちなみに、現在量産中のモジュール変換効率は平均14.7%である。
 CdTeのモジュール効率が多結晶Siに追いついたことで、今後ますますSi系と化合物薄膜系(CdTe、CIGSなど)のコスト競争が加速しそうだ。

(8)CIGSの進む道

 CdTeと同様、ポスト多結晶Siを目指して開発が進むのがCIGSである。CIGSはR&DではZSW(ドイツ)が21.7%、Solibro(ドイツ)が21.0%、NREL(米国)が20.0%、EMAP(スイス)が20.4%、ソーラーフロンティアが20.9%、AISTが20.6%を実現している。モジュールではTSMCが16.5%(1m²以上)の効率を報告しており、ソーラーフロンティアも30cm角で17.8%、大型モジュール(1228cm²)で14.6%を達成している。Manz(ドイツ)も量産サイズのモジュールで16%を実現している。

フレキシブルCIGS(ソーラーフロンティア)
フレキシブルCIGS(ソーラーフロンティア)
 欧州では、ZSW主導によるCIGS開発プロジェクト「Sharc25」がスタートしており、100MWの量産規模でモジュール製造コスト0.35ユーロ/W、システムコスト0.6ユーロ/W、セル効率25%を目指している。
 一方、商業化ではソーラーフロンティア、Hanergy(中国)、Avancis(ドイツ)、STION(米国)、TSMCソーラー(台湾)が量産もしくは工場建設を進めているが、年産1GWの生産体制を確立しているのはソーラーフロンティアのみである。

 ソーラーフロンティアは現在、出力170W(変換効率13.8%)のモジュールを量産しているが、15年4月に稼働した東北工場(宮城)では、出力180W(モジュール効率15%超)の新型モジュールを生産する。また、16年にはモジュール効率16%を目指す。
 さらに、同社はCIGSの用途開発の一環として、薄い金属基板と高機能の樹脂製カバーフィルムを使用した軽量&フレキシブルCIGS太陽電池モジュールを開発した。モジュールの厚さは1.5mmで、ガラスおよびフレームを使用しないことで、モジュール重量を従来の3分の1に軽量化した。シンガポールの空港に設置するなど、実用化に向けた実証試験を開始している。

(9)太陽エネルギーの新たな活用法

 太陽エネルギーの新たな活用法として人工光合成が注目されている。豊田中央研究所、パナソニック、東芝、さらにはNEDOの人工光合成プロジェクト「ARPChem」が人工光合成の実用化に向けた研究を進めており、AISTも15年から本格的に人工光合成の研究に乗り出している。

 人工光合成の最大の目的は、太陽エネルギーで水を電気分解し、水素を取り出すことだ。水素社会の到来に備え、クリーンエネルギーから水素を製造する技術の確立は不可避だが、水の電気分解で製造した水素や酸素は経済的にはコストが高い、といった課題が指摘されている。AISTの試算では、30年におけるPV製造コスト目標である7円/kWhを達成しても、化石資源を用いた水素の製造コストを下回るのは難しいようだ。

 そこで有望なのが人工光合成による過酸化水素、過硫酸、次亜塩素酸などの有用化学品の合成だ。過酸化水素、過硫酸は半導体の洗浄など、次亜塩素酸は飲料水の浄化などに利用されている。AISTは太陽光のみで、アノード、カソードの両電極から過酸化水素を生成できる技術の開発に成功している。一方、豊田中央研究所、パナソニックは水の電気分解と二酸化炭素の還元を同時に行うことでギ酸およびメタン、また、東芝は一酸化炭素の合成に取り組んでいる。
 いずれにしても、人工光合成の実用化のカギは、PVと同様に、太陽エネルギーの変換効率向上にかかっている。


(10)新プロジェクト相次ぎ始動

 NEDOは14年9月に策定した「NEDO PV Challenges」の中で、PVの発電コストを20年までに14円/kwh、30年までに7円/kwhとする目標を掲げている。14円/kwhでグリッドパリティ、7円/kwhで従来型火力発電を下回る発電コスト、いわゆるジェネレーションパリティが実現する。

 この目標を達成するため、15年度からスタートした新プロジェクトが「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発」である。同プロジェクトには、バックコンタクト型ヘテロ接合、超高効率&低コストIII-V族化合物、さらには、効率競争が激化しているペロブスカイトなど、22件のテーマが採択されている。


 PVの大量導入かつ大量廃棄時代に備えて、今後はメンテナンスやリサイクルの技術開発が重要となるが、15年度には、PVモジュールの低コストリサイクル処理技術、撤去・回収関連技術を開発する「太陽光発電リサイクル技術開発」、さらには、発電コストを低減するためのBOSコスト削減技術、さらには自動診断や故障の回避、自動修復など、PVシステムのモニタリング&メンテナンス技術を開発する「太陽光発電システム効率向上・維持管理技術開発」の各プロジェクトもスタートする。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

サイト内検索