電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第143回

2016年/電子情報産業の市場動向


~17年から下り坂かも~

2016/4/22

 日本人は心配性の人が多いように思う。
 不況下では出口が見えないと右往左往。少し右肩上がりになっても、一時的なものと懐疑的。好景気の真っ只中にあっては、次の不況到来の影に怯え、事業戦略にアグレッシブさを欠く。石橋を叩いて渡る前に、もう一度叩いて再確認し、やっと渡る国民気質のようだ。

 半導体やLCD(液晶)ディスプレーのアプリケーションとなる電子情報機器は、2012年ごろから好景気を継続中。心配性が頭をもたげ、そろそろ失速するのではないかと不安を抱えながらも、どうにかここまできた。気になる16年の景気動向だが、電子情報技術産業協会(JEITA)がまとめた「電子情報産業の世界生産見通し」によると、16年も15年並みのマーケット規模を維持しそうである。

全体動向

1.15年見込みと16年見通し
 15年の世界経済は、米国を中心に先進諸国が緩やかな成長路線を維持。一方、中国を筆頭に新興諸国は鈍化傾向にある。こうしたなか、高速無線通信網の広がりとともにマルチバンド化を加速させたスマートフォン(スマホ)、あるいは大画面化・高付加価値化を進める薄型テレビが堅調に市場を拡大した。また、為替変動による上ぶれも功を奏し、15年の電子情報産業の市場規模は318兆870億円となった。

 16年は欧米経済が原油安などを背景に引き続き成長を持続。また、日本経済も消費拡大と企業の増益による設備投資増加など、堅調に推移すると推定。懸念の新興諸国では、インドや東南アジアが台頭し、消費拡大とともにインフラ整備に拍車がかかる。

 一方、アプリケーションの視点からは、スマホの成長率は鈍化するものの、電子デバイスの搭載員数は増加する。また、自動車用途もADAS(先進運転支援システム)の進展に伴い、電子デバイス需要は増加するであろう。このため、16年は前年比3%増の327兆2898億円の市場を形成することになる。

2.世界生産高10年間の推移
 電子情報産業の世界生産高推移を10年間で見ると、全体では06年の216兆円から15年の318兆円へ、マーケット規模は約1.5倍も拡大している。

 分野別では、スマホなど通信機器分野が30兆円から60兆円に、ITソリューション・サービス分野が47兆円から84兆円に、ともに倍増の勢いである。一方、AV機器分野およびコンピューター・情報端末機器分野は06年当時から主従が逆転。昨今の社会世相を明確に裏付ける結果となった。

 AV機器の機能はスマホに取り込まれ、パソコンに依存していた作業もスマホが代行。スマホの仕事量が増えるに伴い、SI開発やソフトウエアの分野も大きく市場を伸ばしたことになる。


薄型テレビの市場動向

 15年の薄型テレビの世界市場は14兆6759億円、16年は2%増の14兆9139億円になる見込みである。
 先進諸国では65型以上の大画面や高機能・高性能品など、高価格帯の需要が根強い。また、新興諸国ではブラジルのオリンピック効果により、4Kへの関心が増大しつつある。このため、14年は前年比18%増の12兆2289億円、15年は同20%増の14兆6759億円を達成した。

 今後、日本においては、地上デジタル放送完全移行時の購買層が買い替え時期を迎えることになり、4Kテレビの需要が増大すると予測する。また、20年の東京オリンピックのほか、ワールドカップ開催も控えており、買い替え動機とスポーツイベントの相乗効果でマーケットは拡大するであろう。

携帯電話(スマホ含む)の市場動向

 携帯電話の世界市場は14年が前年比19%増の35兆3465億円、15年は同20%増の42兆5646億円であった。

 LTE(高速通信サービス)の進展により2.5G、3G、4Gへと進化するスマホ。高画素カメラ機能の搭載や大画面化のニーズなど、金額面でのプラス要因はあるものの、世界的にはスマホの普及拡大は一巡したものと推定。新興国への輸出拡大も期待できるが、普及するのは低価格製品。このため台数の伸びは鈍化し、前年比1桁台の成長と見込み、16年は7%増の45兆5224億円と予測する。

パソコンの市場動向

 14年4月の旧OSサポート終了に伴う買い替え特需の反動で、数量は減少傾向にある。また、基本性能の向上や製品寿命の長期化から、買い替えサイクルも伸びる傾向にあり、市場を押し上げる要因が見当たらない。さらには若者のパソコン利用が減少し、スマホやタブレット端末の利用が増えているのもマイナス要因である。このため、パソコン市場は1桁成長から一転、15年の22兆495億円に対し、16年は5%減の21兆374億円にとどまる見通しである。

サーバー・ストレージの市場動向

 パソコンと違い、データセンターを核とするサーバー・ストレージ市場は期待できそうだ。今後、サーバーの統合や仮想化が進むことで、台数の抑制はあるものの、IoTの進展とそれに伴うビッグデータの高速処理、あるいは複合的なセキュリティー対応などが要求される。このニーズに応える大容量メモリーの搭載、多重ネットワークを構築する高性能サーバーの導入など、同分野の市場は拡大していくものと思われる。
 14年の市場規模は7兆3378億円、15年は22%増の8兆9265億円、16年は8%増で、9兆6305億円に達する。

 かつて、半導体市況を表現する「シリコンサイクル」という言葉があった。サイクルの山が好景気で、谷が不況期である。山を迎える時期はほぼ決まっており、それがオリンピック&米国の大統領選イヤーである。16年はその当たり年。

 シリコンサイクルはもはや死語でも、多少は余韻を残しているはず。今年1年、電子デバイス業界は引き続き好況感を享受できると推測する。ただ、17年からは下り坂に向かいそうだ。
 好況時にあって、早くも17年以降を心配する筆者には、日本人の血が流れているようだ。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松下晋司

サイト内検索