電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内

異業種との再編が「カスタム」に活きる


~日本半導体、新たな出口戦略~

2016/5/27

 ここに来て、日本で半導体メーカー+電子部品メーカー、あるいは半導体メーカー+メカトロニクス企業といった組み合わせの事業再編劇が目立ってきた。いずれも出口戦略をサーバーやPCではなく、IoTやロボット、医療などに置いている。こうした組み合わせは他国ではほぼ見られず、日本独自と言え、出口戦略として「正解」、日本勢の新たな成長戦略だと受け取っている。

 IoTを巡る再編劇では、インテルによるアルテラの買収に代表されるとおり、海外では半導体メーカー同士が事業を統合し、異業種との連携でサービスを生み出そうとしている。一方、日本では「IoT市場へ打って出るために必要なものは」という視点から半導体メーカーが必要とされており、海外と視点が異なる点が逆にチャンスになりうると考えている。

 周知のとおり、PCやスマートフォンは、リファレンスさえあれば、いまや誰でも作れる。だが、IoTやロボット、医療は少量多品種であり、用途に応じたカスタム化が不可欠だ。こうした用途では、逆転の発想による「レガシーのブラッシュアップ」が求められている。日本勢が得意としてきた「カスタム」で生き残る戦略こそ、IoT時代に求められる要素だ。

 IoTを活用する事例は世界中で増えている。例えば、エアバスはIoTを活用したモノづくりで航空機の製造コストを大きく下げようとしている。農業では、センサーの活用で水や肥料の使用量を劇的に下げようとしているし、橋梁や道路などのインフラにセンサーを取り付けて老朽化を見極める取り組みも始まっている。バイタルメーターによって疾患の予兆を監視する予防医学で、医療費を削減あるいは保険料を安価にする動きもある。

 こうしたビッグデータを処理する部分はアマゾンやグーグルが事業を拡大しており、日本勢の存在感は薄い。だが、末端(エッジ)でいかに効率よく有用なデータを取得するか、ここにIoTの価値がある。

 今のところ、海外勢はエッジでどうビジネスを展開するかという点に関心が薄く、エッジは主にベンチャー企業がビジネスプランを考える立場にある。今なら日本勢はここに活路を見出すことが可能だ。極論すれば、最終製品の製造は海外のパートナーに任せてもよい。せめて、ここに使うデバイス、機器の設計は日本で手がけるようなビジネススキームを早急に立ち上げていく必要がある。

 一方で、IoTに不可欠なセンサーなどのデバイス製造に関して言えば、これを日本で製造していくメーカーには一定の規模が必要とされる。半導体工場に投資を継続していかないと、製品自体の魅力がなくなるためだ。半導体工場に対して一定の投資を継続していくには、売上高として2000億円程度の規模感が必要だろう。

 そうした意味でも、既存の8インチ工場への再投資が不可欠である。既存の8インチ工場は、製造設備が古く、スループットも低く、改善の余地が大きい。コスト削減への挑戦、効率化の追求、300mm技術の200mmへの転用といった点だけでも、日本勢にやれることはまだまだ数多くある。場合によっては、半導体に多額の資金を投じている中国の戦略をうまく利用する手もあっていい。ポジティブな方向に動き始めた日本半導体メーカーの新たな一手に期待している。
(本稿は、南川氏へのインタビューをもとに編集長 津村明宏が構成した)




IHS Technology 日本調査部ディレクター 南川明、
お問い合わせは(E-Mail : forum@ihs.com)まで。
サイト内検索