電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第148回

躍進「スバル」が打つ次の一手


~2021年には独自開発のEVを市場投入へ~

2016/5/27

 4月28日に行われた富士重工業(株)(スバル)の2016年3月期決算発表では、代表取締役社長 吉永泰之氏の“お詫びシーン”が度々見られた。しかしそれは、燃費試験における不正行為で謝罪する三菱自動車やスズキとは大きく異なり、「米国や日本において生産が需要に追いついていない」という嬉しい悲鳴による顧客へのお詫びであった。

 実際、米国におけるスバル車の在庫は、まったく足りていないのが実情だ。「一般的には60日分の在庫を持つが、当社では20日分、ものによっては10日分しかない。販売ディーラーからは、在庫不足をいつも怒られる」と吉永社長は語る。また、日本においても、ほぼすべての車種で納車まで3カ月待ちの状況であり、生産能力の増強は同社にとって喫緊の課題と言えるのだ。

17年4月1日付での社名変更を発表する吉永社長
17年4月1日付での
社名変更を発表する吉永社長
 一方、同社は17年4月1日付で社名を「株式会社SUBARU」に変更すると発表した。併せて、産業機器カンパニーを自動車部門へ統合。産機関連の開発案件を停止(既存製品の製造・販売・サービスは当面継続)し、その開発人員を順次自動車部門へ投入することで自動車部門の競争力強化を図っていく構えだ。

16年度には初の世界販売100万台超えを計画

 15年度におけるスバル車の世界販売台数は、前年度比5.2%増の95万8000台。国内では、新型効果の一巡した登録車が前年実績を下回ったことなどにより、同10.7%減の14万5000台にとどまった。一方、海外市場では「レガシィ」「アウトバック」が期を通じて好調に推移したことに加え、成長市場である北米において特に「インプレッサ」「クロストレック」が順調に伸長した。主要地域別に見ると、北米が同10.6%増の63万台、欧州が同0.4%増の4万8000台、中国が同17.5%減の4万4000台、その他が同17.8%増の9万台となった。

 今回同社では、中期経営計画「際立とう2020」の最終年度である20年度を見据えた新たな販売計画を発表した。そのなかで、16年度には引き続き好調な北米での増加などを背景に105万台と、同社として初の100万台超えの販売目標を打ち出した。さらに、今後は日本、中国では現状レベルを維持しつつ、北米市場のさらなる拡大、その他市場での底上げに取り組むことで、20年度には「120万台+α」を目指していく構えだ。


生産戦略を見直し、18年度に113万台体制へ

 先述の販売計画見直しに伴い、生産能力についても、従来計画から一部前倒しでの増強を進め、18年度に113万台体制を構築する。1月18日に発表していた従来計画では、16年末に103万台(米国:39.4万台、国内:63.6万台)、20年度に105万台(米国:40万台、国内:65万台)であったが、今回発表した計画では、2年ほど前倒しで増強を進め、18年度には113.2万台(米国:43.6万台、国内:69.6万台)とする方針だ。16年末時点での103.6万台から、18年度は9.6万台の増強となるが、「工場・ラインの新設ではなく、既存工場内での“ちょこっと能増”で達成したい」と吉永社長は語る。

 なお、同社北米生産拠点のSIA(Subaru of Indiana Automotive)では、5月にトヨタ「カムリ」の受託生産を終了。これにより、7月から同ラインでアウトバックの生産を開始し、供給不足の早期改善を図っていくとしている。

19年にダウンサイジングターボ、21年にはEVを市場投入

スバルグローバルプラットフォーム
スバルグローバルプラットフォーム
 スバルは、3月に次世代プラットフォームとして開発を進めてきた「SUBARU GLOBAL PLATFORM(スバルグローバルプラットフォーム)」の概要を公開した。25年までを見据え、今年発売予定の次期インプレッサから採用する新たなプラットフォームであり、車体・シャシー各部の剛性の大幅な向上(現行比1.7~2倍)やサスペンションなど足回りの機構の進化、さらなる低重心化により、ドライバーの意思に忠実な高い操舵応答性を可能としている。また、フレーム構造の最適化や各部パーツの結合強化などにより、車体ねじり剛性を現行比1.7倍に向上。車体の共振や歪みを分散することで、不快な振動・騒音のない快適性を実現。さらに、サスペンション取付け部の剛性を向上することで、車体側をたわませることなくサスペンションの緩衝性能を十分に機能させ、路面の凹凸を感じさせない快適な乗り心地を実現するとともに、リヤスタビライザーを車体に直接取り付けており、車体の揺れを現行比で50%低減している。

 一方、環境対応関連としては、16年からの直噴ユニットの拡大展開、18年からのプラグインハイブリッドの展開を計画していたが、今回新たに19年からの「新設計ダウンサイジングターボ」、21年からの電気自動車の市場投入計画を明らかにした。「内燃機関の大幅な効率改善と電動化を組み合わせることで、各地域の規制に対応していく」(吉永社長)としている。

安全性・信頼性の進化

スバルの「EyeSighit」
スバルの「EyeSighit」
 スバルの安全運転支援システムの代名詞とも言えるのが、ステレオカメラのみで各種機能を実現する「EyeSight(アイサイト)」だ。08年の発表以降、認識性能などを向上し、14年からは「アイサイト(Ver.3)」を展開中だ。

 同社では、アイサイトで実証された安全性と信頼性をさらに進化させ、自動運転技術の市場投入も進めていく。具体的なロードマップとしては、17年に自動車専用道路の同一車線上においてレーンをキープする渋滞追従機能、そして20年には車線変更も含めた高速道路自動運転を実現させる計画だ。

 さらに同社では、「自動車事故をゼロにする」という究極の目標に向け、アイサイトをベースとした事故回避性能の徹底追求、人工知能(AI)の開発にも取り組んでいく。このAIおよびクラウドについてはIBMと協業。4月から先進安全システムの膨大な実験映像データを集約して統合的に管理するシステムを構築し、運用を開始している。今後は、IBMクラウドをベースとした自動車業界向けのIoTソリューションを活用した新たなシステム構築の検討や、高度な運転支援の実現に向けたクラウドおよびAI分野における最新技術の特性を把握し、技術適用の可能性などを見極めていく。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 清水聡氏

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