電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第154回

進むCO2フリー水素への取り組み


脱化石燃料で真の水素社会に移行

2016/7/8

 家庭用燃料電池「エネファーム」、燃料電池車(FCV)の実用化に伴い、着実に近づく水素社会。2020年ごろには水素発電の事業所での導入も期待されている。この分野において我が国はその急先鋒であることは周知の事実だ。
 ただし、真の水素社会実現のためにはクリアすべき大きな課題がある。それは水素製造において依然として水素源に化石燃料を活用している点だ。「燃料電池は環境に優しい」と言われながらも実際には水素製造時にCO2を排出している。一方で、水素製造時にCO2を排出しない「CO2フリー水素」の取り組みも進んでいる。CO2フリー水素の動きを追ってみた。

 現在、水素源は改質水素や副生水素がメーンだ。前者は天然ガスなどを改質して製造した水素。例えば、製油所などでは以前から石油精製で水素が活用されてきた。後者は化学工場などの加工プロセスで生じる水素で、アンモニア合成、メタノール合成などで副次的に発生する。改質水素においては水素製造時にCO2を排出する。これは天然ガスなどから改質して水素を製造するオンサイト型水素ステーションにおいても同様だ。

福島県を水素社会の先進モデルに

 一方、CO2フリー水素は水素製造時にCO2を排出しないものだ。代表的なのが水の電気分解によるもので、反応に使う電力には再生可能エネルギーを活用する。最近では「福島新エネ社会構想実現会議」に注目が集まっている。これは新エネルギー社会実現に向けたモデルを福島県で創出し、かつそのモデルを世界に発信することで、県を再エネや水素社会を切り拓く先駆けの地とすることを目指すものだ。内閣をはじめ、各省庁、福島県、東京都、東京電力、東北電力、福島洋上風力コンソーシアム、太陽光発電協会などが参画している。水素の規模はFCV1万台分。20年に開催される東京オリンピック・パラリンピックに向けて「福島県産水素」として東京都などに供給する予定だ。

 水素製造に使う再生可能エネルギーの規模は1万kW。これには福島県で導入している複数の洋上風力発電も含まれる。県では、いわき市沖に「ふくしま未来」(出力2MW)が構築されているが、16年には福島県楢葉町沖に新たに2基・計12MWが完成する予定だ。そのうちの1基は7MWで、洋上風力では世界最大規模となる。

 県では2040年までに再エネ導入比率を100%とする計画を進めている。15年度は26.6%だが、18年度30%、30年度60%に拡大するという。また、県では国内唯一の再エネ特化型の研究所である「産業技術総合研究所福島再生可能エネルギー研究所」が設立されている。

ホンダ・東芝、自立型システムで水素を製造

 ホンダおよび東芝は、CO2フリー水素を製造できる自立型システムの開発に取り組んでいる。ホンダは系統電力や太陽光発電により、その場で水素を製造する「スマート水素ステーション(Smart Hydrogen Station:SHS)」を開発。最大の特徴が水素の製造から貯蔵、供給までのプロセスにおいて一貫してCO2を排出しない点だ。キーとなるのが同社独自技術の高圧水電解システム。水素製造と圧縮を一体化することでコンプレッサーを不要とし、小型・低騒音化を実現する。

 同社によると、系統電力と太陽光発電を併用した場合、24時間で1.5kgの水素を製造できる。この1.5kgの水素は、同社のFCV「CLARITY FUEL CELL」が約90マイル(約150km)走行できる量に相当。同車は満充填5kgで、約500kmの走行が可能だ。
 出荷実績は、12年に埼玉県庁内に1号機を導入したほか、14年にはより小型化に対応したパッケージ型を、さいたま市のごみ処理施設「さいたま市東部環境センター」および北九州市の「北九州市エコタウンセンター」にそれぞれ設置している。

東芝のH2One
東芝のH2One
 一方、東芝は自立型エネルギー供給システム「H2One」を開発している。太陽光発電、蓄電池、水電気分解装置、水素貯蔵タンク、燃料電池を組み合わせたもので、太陽光発電で発電した電気で水を電気分解し、発生させた水素をタンクに貯蔵。電気と温水を供給するFCの燃料として活用する。水と太陽光発電のみで稼働するため、災害時にライフラインが寸断されても自立して電気と温水を供給可能。出荷先は川崎マリエン、ハウステンボス、横浜市など。

トヨタら、CO2フリー水素の実証実験

 トヨタ、東芝、岩谷産業、神奈川県、横浜市、川崎市は風力発電で製造したCO2フリー水素をFCフォークリフトへ供給する実証実験を開始する。具体的には、横浜市風力発電所「ハマウィング」内に水を電気分解する水素製造装置および水素貯蔵・圧縮システムを導入し、製造した水素を簡易水素充填車で輸送。横浜・川崎市内の青果市場・工場・倉庫などのFCフォークリフトで利用するといった水素サプライチェーンの構築を目指す。従来のガソリンフォークリフトを利用したケースと比較して約80%の削減を見込んでおり、コスト試算やCO2削減効果などを検証していく。併せて、水素サプライチェーンの事業可能性についても評価する。

 スケジュールとしては、16年秋ごろから試験運用、17年度から本格運用をそれぞれ開始する。FCフォークリフトの導入台数は、試験運用時が2施設各1台(計2台)、本格運用時が4施設各3台(計12台)。

 このほか、バイオマス由来の水素を活用する動きも活発だ。その1つが下水処理場で発生する消化汚泥から水素を製造するもの。これは消化汚泥を消化槽でメタン発酵することでメタンガスを発生させ、このメタンガスを水蒸気改質して水素を製造する。
 メリットとしては、生活で常に発生する下水・雨水を活用することによる安定供給、下水処理場で自然に収集できることによる高い経済性などが挙げられる。一方で、デメリットはCO2が発生すること。これに対してはCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)技術により回収・貯留するほか、植物育成に活用するといった方法が検討されている。

 代表的な取り組みが国土交通省の「下水道革新的技術実証事業(B-DASH)」の一環による「水素リーダー都市プロジェクト」(期間14~15年度)。これは福岡市中部水処理センター内に水素製造設備・水素ステーション設置し、センターで発生するメタンガスから水素を製造し、水素ステーションでFCVに供給するもの。水素の製造能力・品質、エネルギー創出効果などを実証し、福岡市、三菱化工機、豊田通商、九州大学が参画した。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東哲也

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