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第155回

SNEC2016(中国の太陽電池展示会)レポート


過去最高規模の導入・設備投資が復活!

2016/7/15

中国の16年導入予測は20GW

 中国はこの数年、太陽電池パネルの生産と消費で世界トップを独走している。2015年は2位の日本と3位の米国の導入量を足した15GWを導入し、世界の太陽電池需要の30%を消費した。16年1~3月期はすでに前年同期比30%増の7.1GWを導入。7月に補助金の減額が予定されているが、年間を通じて20GW規模の導入が見込まれる。中国の太陽電池業界は数年ぶりに生産と投資ともに非常に活発な年となる。5月下旬に開催されたSNEC展示会で聞いた中国の太陽電池業界の最新事情を紹介する。

n型単結晶、PERCなど技術開発進む

 大手太陽電池メーカーは技術開発や工場拡張にも積極的だ。n型単結晶や高変換効率多結晶、PERC(裏面パッシベーション)型など新技術の開発が進んでいる。展示会場を回ると、大手メーカーのブースはどこもこれらの技術展示で溢れていた。ジンコソーラーはこれらの技術を組み合わせ、16年末までに多結晶型セルで変換効率20.5%の実現を予定している。これらの高変換効率タイプの太陽電池パネルは、中国国内のマーケットというより、日米欧などの先進国市場向けの製品だ。

今年の中国の大手メーカーは、技術開発や設備投資に積極的
今年の中国の大手メーカーは、
技術開発や設備投資に積極的
 中国企業による日本市場に向けた営業展開も続く。トリナ・ソーラーやJAソーラー、カナディアンソーラー(CSI)など大手企業は一堂に日本オフィスを開設して久しい。中堅メーカーも日本での営業展開に力を入れている。HT-SAAE(航天機電、上海市)は15年、1GW弱の太陽電池モジュールを出荷した。日本向けはこのうちの15%で、しかもその8割が日本メーカーからのOEM生産だ。日本ではあまり見かけないブランドだが、東京にセールスオフィスも開設した。

ギガクラス工場が勢ぞろい

 最近の太陽電池メーカーのセル年産能力ランキングを見ると、日本企業がトップ10から消えた。そのかわりに、15年は中国メーカーが6社もランク入りしている。残り4社は独Qセルズを買収した韓国のハンファQセルズ(3位)、米ファーストソーラー(5位)、台湾のモーテック(8位)とネオソーラー(9位)。上位10社で世界の太陽電池需要の半数以上を供給しているが、そのなかでも中国6社の生産比率が圧倒的に大きい。世界No.1に2年連続輝いたトリナ・ソーラーは3.63GWを出荷。2位のJAソーラーは僅差の3.62GWを出荷した。今やギガクラスでなければ、大手とはいえない。

景気がよくなって、実績数字を大きく展示するブースが復活した
景気がよくなって、
実績数字を大きく展示するブースが復活した
 16年は「太陽電池氷河期」と呼ばれた不況期から数年ぶりに回復し、中国で再び太陽電池工場の大型投資ブームが起きている。上海市で5月に開催されたSNEC展示会は、展示棟十数館を使っての巨大なイベントとなった。大手メーカーの展示ブースにはかなりの数の説明員が動員され、不況の時とはうって変わってどのブースも熱気に包まれていた。かつて太陽電池バブルが起きていた08~10年は、他社よりも生産能力が大きいことと拡張スピードが速いことが武器だった。どのメーカーも技術水準が似通っていたので、スケールメリットによるコスト削減でモジュール価格を他社より安くして売り勝つのが、当時の必勝パターンだった。今年は技術力を示す新技術の展示と、ビジネス拡大の勢いを感じさせる導入実績やキャパ計画などの数値を露骨に見せるブースも目立った。

海外工場の投資が増加

 景気低迷や環境問題の対策として、多くの国が補助金を使って新エネルギー開発を後押ししてきた。日米欧の太陽光発電の導入量はそれぞれ8GW前後の規模があり、中国メーカーにとっても魅力的なマーケットだ。しかし、欧米政府は格安の中国製太陽電池に対して、反ダンピングと反補助金課税をかけて輸入を規制している。対する中国メーカーは、海外工場の建設を進めて課税回避の策をとっている。

 中国企業は今のところ、トルコやマレーシア、タイなどに続き、インドやベトナムにも工場建設の範囲を広げている。トリナ・ソーラーはインドに年産能力500MWのセルとモジュール工場を建設している。CSUNエナジー(中電電気光伏、江蘇省南京市)は16年末までにベトナム工場を年産能力200MWに拡張する。

中国製太陽電池の買い付けに来たインド人をよく見かけた
中国製太陽電池の買い付けに来た
インド人をよく見かけた
 このほかにも複数の企業がタイやマレーシアなどに生産基地を展開している。この数年は世界最大の中国市場と環境対策が進んでいる日米欧の先進国マーケットを狙い、将来的には経済成長が続く東南アジアやインドなどの新興国マーケットに展開していく布石を打っている。中国が主するAIIB(アジアインフラ投資銀行)の流れに乗って、中国から世界中にメガソーラー(大規模太陽光発電所)を建設しに行く時代が来るだろう。

 中国の太陽光発電設備の導入は、全体の80~90%がメガソーラー向けとなっている。都市部は戸建て住宅が少なく、日本のように個人家庭用のルーフトップ市場はほぼないに等しい。今後は法人事業者(公共施設や商業施設、工場)などの屋根向けに補助金が拡大され、メガソーラーの比率は徐々に下がってくると予測される。しかし、これがなかなか全国的なトレンドに発展せず、業界関係者を焦らせている。すでに太陽光発電設備の過剰設置が問題となっている甘粛省と新疆ウイグル自治区、雲南省の3省・自治区ではメガソーラーの新設が今年は認めらなくなってしまった。

農村の集合住宅に太陽光発電を設置する事例が増えようとしている
農村の集合住宅に太陽光発電を設置する
事例が増えようとしている
 新たな導入の取り組みとして、山東省は「脱貧困プロジェクト(貧困地域の開発プロジェクト)」を掲げ、農村地域に太陽光発電の設置奨励を始めている。湖南省長沙市のある農村では、農民が個人住宅の屋根に太陽光発電を設置するケースが出始めたという。2階建ての戸建て住宅の屋根に発電容量5kWくらいのソーラーパネルを設置すると、約3万元(約46万円)の費用がかかる。日本の相場よりも設置費用は安くて済むが、中国の地方の農民の消費力からするとまだ高い。しかし、「地元の自治体から、設置時に1.7万元(約26万円)まで補助金が出る」(SNEC出展の太陽電池メーカー営業)ようになり、村中で設置するブームが起きているという話もある。

 中国の農民戸籍人口は約9億人、出稼ぎ者を除いても農村には6億人がいるといわれる。大まかに見て世帯数で2億世帯、将来的に農村の集合住宅や個人住宅に太陽光発電設備が設置されるようになれば、巨大なマーケットになり得るだろう。

電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善

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