電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第156回

宇宙空間でビジネスを


~衛星にセンサー乗っけてIoT~

2016/7/22

「IoT宇宙版」に注目

 スマートフォン(スマホ)の次は車載。車載を牽引役に産業機器分野が立ち上がり、やがてはエネルギーや農業、ロボット、医療・ヘルス関連も新市場を形成する。形成当初は各分野の電子機器単体がメーン市場になるが、その後、センシング技術の発達によりIoT時代が到来。さらにはIoTによるセンサー取得情報をベースに、ビッグデータの世界が構築されていく。

 電子デバイス業界が描く、ビジネス成長の青写真である。本当はここにもう1つ、宇宙産業も追加したいのだが、宇宙はちょっと特殊。限られた業界のみが、クローズされたネットワークの中で技術を進化させ、収益を享受できる領域。参入できるものなら参入したいが、ハードルが高そうで、とてもとても。そう思われている方が多いであろう。

 ところがどっこい、この宇宙産業が民間ベースに降りてきそうな気配が漂ってきた。衛星にセンサーを搭載し、大気圏から地球を俯瞰。かつセンサー機能を発揮すれば、地上探索では不可能な、広範囲の情報を地球規模で入手することができる。この取得データでビジネスを展開するのである。もちろん、データ提供だけでなく、衛星製造ビジネスも成立する。IoT宇宙版の進化の方向性は、ウオッチングしておいた方がよさそうだ。衛星製造だけでも、今後、年間で数千億円規模に達すると推定されている。

ポイントは超小型衛星

 人工衛星とは、惑星(地球)の軌道上に存在し、具体的な目的を持つ人工天体である。具体的な目的は通信や放送、測位などである。人工衛星の種類は周回する軌道で2つに分別され、1つは静止軌道、もう1つが低高度周回軌道である。

 前者は高度3万5786kmに位置し、地球の自転と同期で周回しているため、静止しているように見える。地上から遠距離にあるため、大電力を要するが高性能。地球環境システムのメカニズムを解明する「Tera」や気象衛星の「ひまわり8号」が有名で、大型衛星と称される。

 宇宙産業というと、すぐこの領域が頭に浮かぶが、今回のテーマであるIoT宇宙版の視点からは、全くの論外である。

 後者は高度400~1000kmに位置し、約90分で地球を一周する。地上から近距離のため、運用範囲や時間が限定されるが、IoT用途ならこれで十分。前者の大型衛星に対し、小型衛星と称される。

 センサー搭載のIoT利用を前提に、より簡易な製造プロセスでかつ低コストを追求し、民間参入の障壁を下げる衛星として、超小型衛星がある。目安のサイズにして30×30×30cm、重さにして最大で10kg程度。これこそがIoT宇宙版用として最適な超小型衛星である。

リモートセンシング稼働中

 現在、すでにリモートセンシングによる様々な探索が進行中である。衛星に搭載するセンサーは、光学系もしくは電波(レーダー)系である。

 光学系は、自然色だけでなく、抽出目的に従って配色を選択する。太陽光反射の波長を必要なバンドごとに組み合わせ、画像化を行う。一方のレーダー系は、反射波の位相特性を利用し、歪みを計測。また、反射波の電波強度で、表面の特性を推定する。

 具体的な活用例は、光学系ならば資源探査。鉱物からの特徴的な太陽光反射率を利用し、地上における鉱物含有率を測定できる。環境監視の視点からは、植林による森林の改善効果も光学系で一目瞭然となる。レーダー利用では、洪水などの災害監視や地震による地表のずれ観測も可能である。

 打ち上げる衛星の数に関しては、1機でも機体の姿勢変更(±20°)より、特定地域の観測ができる。1機あたりの直下観測領域は77km幅のため、複数の衛星(例えば5機)で観測することにより、全地球の直下観測も可能である。

周波数配分とデブリの課題

 IoT宇宙版のビジネスには、すでに欧米の超小型専用衛星システム・搭載機器メーカーが続々と進出中。それもベンチャー企業のみならず、大型衛星で実績を持つ大手メーカーも、今後の同市場拡大をにらみ、参入を急いでいる。

 おそらく、ここ数年内に千数機の超小型衛星が打ち上げられると予測されている。限られた宇宙空間内での周波数の分配が問題になってこよう。宇宙環境の視点からは、すべての超小型衛星が機能するとは限らず、故障や破壊でごみとなる衛星も多数生まれてくる。こうしたデブリ(破片など)の増大に伴い、高度400~1000kmの空間がごみだらけになる可能性がある。


謝辞
三原荘一郎氏
三原荘一郎氏
 本稿は7月8日・博多にて、パワーデバイス・イネーブリング協会主催により開催された「SiCパワー実用化に向けての高度信頼性 ~宇宙・航空ビジネスへの展開も踏まえて~」より、「小型衛星の開発と今後の利用動向について」と題て行われた宇宙システム開発利用推進機構・技術本部長 三原荘一郎氏の講演内容を要約したものである。
 三原氏は東京大学大学院で航空工学を専攻後、1979年に三菱電機(株)に入社。防衛機器や気象観測衛星ひまわり7号を開発。現在、ハイパースペクトラムセンサーを国際宇宙ステーションに搭載するプロジェクトなどを担当している。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松下晋司

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