電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第181回

TDK(株) 代表取締役社長 石黒成直氏


全社一丸で収益力強化
三本柱核に成長戦略を具現化

2016/7/29

TDK(株) 代表取締役社長 石黒成直氏
 TDK(株)は、石黒成直氏が6月29日付で新たに代表取締役社長に就任した。急激な円高、ユーロ問題、スマートフォン(スマホ)の成長鈍化など、刻々と変わる市場環境のなか、今後を左右する次代に向けた舵取りを担う。成長戦略の種は蒔かれた。やるべきは顧客ニーズに合致したソリューションの提供であり、具体的には3本の柱が浮上する。センサー&アクチュエーター、エネルギーユニット、次世代電子部品。石黒氏はこの3本の柱を主軸に、成長戦略の実現と収益力強化に向けて動き出した。

―― まずは新社長ご就任の所信から。
 石黒 前社長の上釜は、TDKのビジネス活性化を念頭に、各事業分野に新しい種を蒔いた。私の責務は、その種から出た芽を育て、幹を太くし、実を成すことにある。当社成長戦略の実現こそが、私に課せられた最大のミッションである。また、経営面では同業他社と比較し、収益力の弱さも克服しなければならない。ただし、私一人の力では実現不可能。社員の協力があってこそ、実は結ぶ。主役は社員にある。この所信は、社内イントラネットを介し、動画とともに配信した。英語と中国語にも翻訳し、世界規模でTDKグループ社員に伝えた。

―― 円高やユーロ問題、あるいはスマホの成長鈍化など、景況感はここ3~4年前とは大きく変わってきた。
 石黒 市場は生き物。刻々と変化する市況に一喜一憂していては、ビジネスは成り立たない。市場の変化に左右されない、強靭な企業体質を作り上げる必要がある。それには付加価値の高い、No.1製品をどう増やしていくかが重要である。また、“モノづくり”のテコ入れも必須だ。モノづくりのテコ入れに関しては、当社独自の「インダストリー4.5」を実行する。4.0が目指す生産効率の向上だけでなく、製造製品のトレーサビリティー、予兆管理、傾向管理、設備予防保全など、ゼロディフェクトの考え方も併せて追求するのが4.5。製造装置も独自開発を行い、今秋稼働予定の新棟である本荘工場と稲倉工場に導入する。両工場をマザー工場とし、当社の他の工場にも展開してロケーションフリーな生産体制を構築する。これにより市況の影響を受けない強いモノづくり体制を推進していく。当然の結果として、従来の生産ロスが排除され、収益力改善にも貢献することになる。

―― では、付加価値の高いNo.1製品とは。
 石黒 それこそが私の責務である成長戦略の具現化だ。実現に向けては、3本の柱を見据えている。1つの柱はセンサー&アクチュエーター、もう1本の柱はエネルギーユニット、そして3つ目の柱が次世代電子部品である。
 まずはセンサー関連の成長戦略について、X軸とY軸で4分割した分布図をイメージしてもらいたい。X軸は左側が磁気センサーで、右側は非磁気センサー。一方のY軸は上方向に車載、下方向に非車載。市場攻略は左上の領域、車載と磁気センサーで構成されるマーケットから攻める。まずスイスのホール素子センサー大手のミクロナスセミコンダクタを買収した。ミクロナスはセンサー技術のみならず、ASICをはじめとした半導体技術も保有している。センサーモジュールでの展開に期待し、買収に踏み切った。また、ビジネス面では大手のティア1との交流も深く、真のユーザーニーズを入手することができる。

―― その他の領域の攻略法は。
 石黒 左下は磁気センサーと非車載の領域。スマホを代表とするモバイル情報端末機器など、民生機器と磁気センサーの融合になる。HDDヘッドの進化を原点とするTMR素子を含むMR素子のモジュール提供が視野に入っている。車載でありながら、非磁気センサーと融合する右上の市場領域は、圧力センサーや温度センサーが候補に挙がってこよう。非車載と非磁気センサーの領域となる右下の市場も合わせ、これから戦略を具現化していきたい。

―― エネルギーユニットに関しては。
 石黒 電気自動車(EV)で多用されるDC/DCコンバーターを筆頭に、2次電池やワイヤレス給電などが候補になる。これらをいかに組み合わせるかが焦点となろう。EVだけを取り上げても、ハイブリッド車(HV)も含め、走行中および駐車中のワイヤレス給電が浮上してくる。当然、2次電池の弱点となる急速充電もクリアしなければならない。さらに言えば、ワイヤレス給電実現のためのコンデンサー開発など、電池にとどまらず、受動部品にまで及んでくる。また、ハードウエアとソフトウエアを組み合わせたユニットにも力を入れていく。エネルギー関連市場の攻略に向けた青写真を描くのも、私の責務である。

―― 次世代の電子部品開発については。
 石黒 かつて半導体は薄膜工法、電子部品は厚膜工法で製造していた。しかし、HDDヘッドの製造に端を発した薄膜技術の進化は電子部品にも押し寄せ、技術的には両デバイスの境目がなくなりつつある。薄膜技術を応用することで、高アスペクト比のパターン形成を行い、新種のインダクターを生み出すことも可能だ。ただし、市場ニーズとコストが釣り合うかどうかが課題だ。軽薄短小と性能の両立が求められる電子部品の製造において、薄膜技術の採用は広がっていくだろう。今後、量産に関しては、ルネサス エレクトロニクスから譲受した山形県の鶴岡工場を活用する。

―― 次世代をにらみ、市場投入できそうな新種の電子部品は。
 石黒 IC内蔵基板の「SESUB(セサブ)」がある。プリント配線板の進化系ではなく、ICと受動部品を取り込んだ、半導体パッケージに近いイメージ。一種のSiP(システム・イン・パッケージ)と表現することができる。すでに小型機器での採用実績を持っている。また、商品開発においては、クアルコムとの協業による効果にも期待している。

―― 数多くの選択肢が見えてきていますが、これから取り掛かるべき責務とは。
 石黒 グループ内のアセットをうまく組み合わせ、磁気ヘッドで行ってきたような社内競争で技術を高めるなど、数多くの選択肢から着実な成果に結びつけていく、つまりビジネスとして実を結ぶこと。出口を考えるのが私の仕事だ。

(聞き手・編集長 津村明宏/松下晋司記者)
(本紙2016年7月28日号1面 掲載)

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