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第182回

(株)ジャパンセミコンダクター 取締役社長 森重哉氏


アナログファンドリーを展開
生産能力2倍が目標

2016/8/5

(株)ジャパンセミコンダクター 取締役社長 森重哉氏
 40年以上にわたって培ってきた製造技術力をベースにして、「世界を相手にして戦うこと」を意識した社名を冠して2016年4月に設立されたのが(株)ジャパンセミコンダクター(岩手県北上市北工業団地6-6、Tel.0197-71-3003)だ。TSV(シリコン貫通ビア)やイメージセンサー用カラーフィルターといったユニークな工程を持ち、アナログ専業のファンドリーとして独自の事業戦略を展開しつつある。取締役社長の森重哉氏に現在の取り組みや今後の展望を伺った。

―― 貴社の概要から。
 森 1970年代に設立された岩手東芝エレクトロニクスと東芝の大分工場を統合して設立された。岩手に約750人、大分に約1250人が在籍しており、東芝への出向者を含めて約2200人の従業員を擁している。組織上の位置づけは、東芝ストレージ&デバイスソリューション社のミックスドシグナルIC事業部の傘下にある。
 設立にあわせて約50人の技術者で組織する「ファンダリビジネス推進部」を立ち上げ、外部からのファンドリー受注拡大に努めるとともに、機能の一部を川崎市に「川崎分室」として設置した。海外からの受注を増やしていくため、東芝の台湾および米国拠点で当社の営業活動をサポートする体制も敷いている。
 WLCSPソリューションも取り揃えており、後工程に関する要望があった場合でも協力会社を含めて対応することが可能だ。

―― 事業規模は。
 森 売上高で1500億円弱の規模がある。主要生産品目としてミックスドシグナル(MS)、イメージセンサー、MCU/ASIC、ディスクリートの4つを掲げ、売上構成比は順に60%、20%、15%、5%だ。岩手と大分でほぼ同じ製品を製造できる体制が整っていることが強みだ。

―― 生産能力および製造プロセスの特色は。
 森 岩手工場に8インチ、大分工場に6インチと8インチの製造ラインを保有し、8インチでは0.45μm~90nm、6インチでは1~0.35μmルールに対応可能だ。
 MSに関してはアナログのパワーや車載、オーディオ用、ワイヤレス関連に強みを持っており、例としてアナログMSでは0.13~6μmルール、DRAM混載MSでは90nm~0.25μmルール、リニアイメージセンサー用には0.4~1.2μmルールを提供できる。なかでも、高耐圧アナログ技術としてオン抵抗の低い0.13μmプロセスを提供できるのは世界でも最先端だと考えており、当社の大きな特色の1つになっている。

―― ファンドリービジネスをどのように進めていますか。
 森 2つある。1つは、既存のピュアファンドリーと同様に、当社が持つIPとプロセス技術で顧客の製品を受託製造するケース。もう1つは、顧客の技術をポーディングして専用ラインを構築することだ。場合によってはプロセスのチューニングやカスタマイズも手がける。
 現在は全社の売り上げベースで東芝製品の製造が95%を占め、ファンドリーはまだ5%に過ぎないが、ファンドリーを19年までに30%まで高める目標を掲げている。

―― 既存のピュアファンドリーとどのように差別化していきますか。
 森 開発TATの短縮だ。一般的に8インチ品の納期は21日だが、当社はこれよりも早く製造し納品することが可能である。並行して自社IPも拡充し、提供できるライブラリを充実させていく準備を進めている。
 ファンドリー比率の向上に関しては、ポーディングを増やしていくことで実現したい。岩手では02年からファンドリー事業を手がけており、台湾の顧客からポーディングした専用ラインを構築しているが、現在まで受注量は増えている。TSVもセンサー関連でかなり需要がある。自社IPの充実とポーディングにおけるカスタム対応を増やすことにより、顧客を拡大したい。実際のところ、17~18年に向けた内定案件が国内外からいくつか出始めている。

―― ファンドリービジネスを拡充するうえでは生産能力も重要な要素です。
 森 そのとおりだ。まずは、ファンドリー受注の拡大で岩手と大分のライン生産性をさらに高めると、現在より20%の能力アップを図ることができる。18年までにフル稼働に引き上げていくつもりだ。
 加えて、建て増しをせずに現有の生産キャパシティーを2倍にするロードマップを描いている。大分では、製品ミックスを変えてきたことでクリーンルーム(CR)に空きができた。岩手にも未施工エリアが残っており、これを活用していく。具体的には、大分では6インチの生産品が減少していくのにあわせて、CRの空きスペースを含めて8インチへのコンバートを進めたい。
 8インチの中古装置が入手しづらい環境にあるのは十分承知している。当社は長い歴史のなかで、かねて製造装置メーカーと共同で装置の開発も手がけてきた。直近では、300mmのコンセプトを盛り込んだ8インチ用ローコストの新装置を提供していただく動きが出ている。アナログのファンドリーでは8インチの0.25~0.35μmプロセスがボリュームゾーンであるが、当社のファブにはまだ拡張性があると理解していただきたい。
 加えて申し上げると、地震などの自然災害に強いファブづくりも進めている。東日本大震災の教訓を生かすため、岩手では装置ごとに免震システムを搭載したり、地震警報システムを導入するといった対応を採っており、現在では東日本大震災級の揺れが起きても石英部品が割れない対策ができている。現在では、かつての3分の1の日数で再立ち上げができる仕組みを構築済みだ。
 現在はこれを大分にも展開しつつある。4月の熊本地震では大分エリアも大きな揺れに見舞われたが、こうした対策の甲斐もあって、GWまでにすべてリカバーすることができた。

―― ファンドリー事業会社として完全に独立するお考えは。
 森 確かにそれが理想かもしれないが、設立したばかりの当社にはまだそこまでの実力はない。まずは東芝時代から培ってきた信用力をもとに実力を蓄え、自社IPの拡充などファンドリーに必要なものを揃えていくことが先決だ。

―― 今後の抱負をお聞かせ下さい。
 森 当社に限らず、日本全体でもアナログのエンジニアが少ない。幸いにして当社は4月に約35人の新卒を採用できたが、OBを含めて人材採用にはフレキシビリティーを持たせ、人材を充実させていきたいと考えている。

(聞き手・編集長 津村明宏)
(本紙2016年8月4日号1、3面 掲載)

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