電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第194回

IoT革命で半導体メモリー一気上昇、世界で20の大型新工場


~東芝はナノインプリントとEUVの2挺拳銃で勝負~

2016/8/5

 20~30年に1回ともいうべき半導体メモリーブームがやって来る。このブームをもたらすのは成熟化したIT産業ではない。IoT(Internet of Things)で増大するデータセンターの建設ラッシュだ。そして、記憶媒体がこれまでのHDDからフラッシュメモリーという半導体をモジュール化したSSDに変わっていく。

 なるほど、IoTという第4の産業革命ともいうべき技術革新で「いつでもどこでも、すべてのモノとコトをネットにつないで社会インフラを変えていく」という世界は、データ処理量をこれまでの8ゼタバイトから5倍以上の44ゼタバイトに拡大させていくことは間違いのないところだろう。

 そしてまた、データセンターの記憶媒体が劇的な変化を遂げつつあるのだ。ほんの数年前までは圧倒的な主役であったHDDが一気に後退し始めた。データセンターで使われるサーバー大手のHPによれば「今やHDDは全体の20%まで落ち、これに代わってフラッシュメモリー主体のSSDが40%を占めている。残る40%はSSDとHDDのハイブリッドだ。2020年の東京オリンピックまでには、世界のすべてのデータセンターはフラッシュメモリー一色になるだろう」としている。

 こうなれば、フラッシュメモリーを量産する東芝、サムスン、マイクロン、SKハイニックスにビッグチャンスがやって来る。少なくとも、ここ数年間で世界中に1棟あたり5000億円規模の投資が必要なフラッシュメモリー新工場が20棟以上必要というのだから、コトは穏やかではない。フラッシュメモリーの生産シェアは東芝が数量で世界トップ、金額ではサムスンがトップであるから、この2社には特にすさまじい追い風が吹いてくることが明らかになってきたのだ。

四日市工場 新・第2製造棟
四日市工場 新・第2製造棟
 日本最古の電機会社である東芝は140年の歴史を持つカンパニーであるが、不正会計処理をきっかけに一気に業績不振に陥った。将来期待の切り札である医療部門の子会社、東芝メディカルをキヤノンに売り払い、伝統の家電部門も中国の美的集団に売り、やっとの思いでクライシスを抜け出した。しかして、持てる最後の力を振り絞り、三重県四日市に15万m²の土地を取得し、約1兆円を投じる最新のフラッシュメモリー新工場を来年にも着工する。この四日市新工場はまさに、のたうちまわっている東芝を地獄から救済するミラクル・エンジェルとなることは必至なのだ。

四日市工場 新・第2製造棟
四日市工場 新・第2製造棟
 東芝はキヤノン、大日本印刷と共同でナノインプリント露光という画期的な半導体製造プロセスを完成させており、これを使えば競合のサムスンに対して露光コストが1/3で作れることになる。すなわち、フラッシュメモリーのプライスで優位に立つ。そしてまた、国家プロジェクトにもなっているEUV(極端紫外線)露光もほぼ同時に完成させており、前人未到の5nmプロセスでフラッシュメモリーの作り込みも狙っている。ナノインプリント露光とEUVという二挺拳銃で戦う東芝は、この業績悪化の中で起死回生の逆転のチャンスを狙っていた、といえよう。さらに、加えてAI(人工知能)による分析システムを取り入れ、ディープラーニングの活用で分析時間を1/3に短縮し、生産性向上を図ろうとしているのだ。

四日市工場 新・第2製造棟(クリーンルーム内)
四日市工場 新・第2製造棟(クリーンルーム内)
 一方、IoTの活用は物流の世界にも広がってきた。DRAMを搭載したRFIDタグをすべての製造物、配送品に付けてIoTシステムに乗せようという企業が多く出てきたのだ。物流大手の幹部にヒアリングすれば「それは当然の流れであり、ローコスト/ロープライスのDRAMが大量に必要になる」との答えが返ってきた。こうした流れをキャッチし、世界のDRAMメーカーはIoT物流専用のDRAM量産をターゲットにし始めた。SKハイニックス、マイクロンなどはパソコン向けDRAM不振で直近の業績は良くないものの、やはりIoTの流れに何としても乗りたいと考えているのだ。

 IoTの世界的な広がりは、電子デバイスにも一大インパクトをもたらすといわれてきたが、まずはフラッシュメモリー、DRAMという半導体メモリーにおいて巨大設備投資が到来する。半導体業界における「どのような時代にあってもメモリーは不滅」という格言は今も生きているのだ。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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