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第183回

ファナック(株) 取締役専務執行役員 ロボット事業本部長 稲葉清典氏


IoT基盤を16年後半から提供へ
筑西市に工場用地を取得

2016/8/12

ファナック(株) 取締役専務執行役員 ロボット事業本部長 稲葉清典氏
 ファナック(株)(山梨県忍野村、Tel.0555-84-5555)は、工作機械用NC(数値制御)装置で世界首位のメーカーとして知られ、産業用ロボットについても世界最多の累計40万台以上の出荷実績を有する。直近でも製造業向けIoTプラットフォームの開発や新たなロボット工場用地の取得などを進めている。取締役専務執行役員でロボット事業本部長の稲葉清典氏に話を聞いた。

―― 貴社のロボット事業の強みは。
 稲葉 当社では「壊れない、壊れる前に知らせる、壊れてもすぐ直せる」を合言葉に「サービスファースト」の精神を常に根底に据えている。その1つとして、当社製品をお客様がお使いいただく限り、製品の保守をし続ける「生涯保守」を掲げている。その際に最大の問題となるのが部品の確保だが、ロボットの場合、当社が強みを持つサーボモーターはもちろんのこと、センサーやエンコーダー、制御装置など重要な要素部品はすべて自社で設計・製造を行っている。
 外部購入部品に関しても、製品の稼働台数や想定される使用期間などを計算し、必要な量は確実に確保するようにしており、部品の在庫がなくなってお客様のサポートができなくなるということはない。こういった取り組みを1つずつ積み上げることで、20年以上稼働しているロボットも少なくなく、お客様から高い信頼をいただいている。

―― 需要動向について。
 稲葉 2015年度のロボット部門売上高は前年度比20%増の1883億円と好調だった。中国、米州、欧州など海外が好調で、国内市場も伸長した。用途別でも全般的に堅調に推移した。16年度は急速な円高などの影響で不透明な部分もあるが、出荷台数ベースでみると全般的に堅調に推移しており、台数ベースでは2桁の伸びを見せている。

―― 生産体制は。
 稲葉 当社のロボット製品は本社工場ですべて生産しており、月産5000台の生産能力を有している。そのなかで先ほど述べたような需要の伸びに伴い、少し手狭になってきたことから、茨城県筑西市においてロボット用工場の建設用地28.7万m²を6月に取得した。建設スケジュールや生産能力は今後の市場動向を見て検討していく。

―― ロボットを海外生産するお考えは。
 稲葉 現在、本社工場では3000台のロボットが稼働し、ロボットをはじめとした様々な製品を生産している。また、ロボット製品は異なる品種であっても共通のモジュールを活用するなど、コスト対応力を高めている。加えて、生産台数などを勘案すると、ロボットは国内で生産した方が価格競争力を高めることができるため、海外生産は検討していない。

―― 新たな取り組みは。
 稲葉 シスコ、ロックウェル・オートメーション、(株)Preferred Networks(東京都千代田区)と連携し、製造業向けのIoTプラットフォーム「FIELD(FANUC Intelligent Edge Link and Drive)システム」を開発し、16年後半からの提供開始を予定している。このシステムは様々な企業が参加できる製造業初のオープンプラットフォームで、アプリケーション開発者、センサー・周辺デバイスメーカー、システムインテグレーターなどがシステム上で設備効率、生産高、品質を向上させるソリューションを構築することができる。
 また、人工知能(機械学習機能)を含む高度な機能を備えたシステムを活用することで、機械などから収集したデータをネットワークのエッジ(製造現場の領域)でリアルタイムに処理でき、機械が互いに柔軟かつ賢く協調するため、これまでになかった高度な生産システムを実現することも可能だ。

―― ロボットの用途拡大も今後重要になりますね。
 稲葉 そのとおりだ。現在、製造現場で自動化・ロボット化できている部分は2~3割だと感じており、人手で行っている作業工程もまだ多い。ただ、こうした部分は従来のロボットでは置き換えが難しい。そこで突破口の1つとなりえるのが、安全柵を必要とせず、人との作業も可能な協働ロボットだ。当社では15年3月に可搬重量35kgタイプの協働ロボットを発表し、4kg/7kg可搬タイプもラインアップする予定だ。ここに先述のようなFIELDシステムを融合すると、ロボットが導入できる用途や可能性が広がり、自動化できていない残り7~8割への展開も加速していけるだろう。

―― 今後の抱負を。
 稲葉 当社は40万台以上のロボットを出荷してきたメーカーであると同時に、3000台のロボットを活用するユーザーでもある。このロボットユーザーとしての視点、つまりモノづくりの現場の視点を常に設計・開発の中心に据えている。当社が冒頭に述べたように信頼性を徹底的に追求するのも、それが製造現場で最も重要なダウンタイムの減少につながるからであり、ロボット事業についてもFIELDシステムなどの最先端技術と同時に現場の視点を常に大事にしていきたい。

(聞き手・浮島哲志記者)
(本紙2016年8月11日号1面 掲載)

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