電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第161回

次世代自動車のキーテクノロジー


~IoTが「ぶつからないクルマ」を実現~

2016/8/26

交通死亡事故ゼロを目指して

 今後のクルマ社会の発展においては「交通事故・ゼロ」「高齢者の自由な移動」「環境負荷の低減」「渋滞の解消」「快適な移動」の大きく5つが期待されている。

 なかでも現在の喫緊の課題となっているのが、交通死亡事故の低減である。日本では、2013年に閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言」において、“18年に交通事故死亡者数を2500人以下。20年までに世界で最も安全な道路交通社会を実現する”と掲げており、その実現にはさらなる安全技術の向上が求められる。

 国内においては、1950年代から右肩上がりで交通事故発生件数、死者数が増加したことを受け、69年に運転席でのシートベルト設置が義務化。さらに87年からはエアバッグの搭載が急速に普及し、交通事故の年間死者数はピークの約3分の1となる4117人にまで減少した。しかし、ここ数年その減少スピードは緩やかになっており、さらなる犠牲者の低減には、各種センサーを活用した先進安全運転支援システム(ADAS)の搭載、さらには車車間・路車間通信などのIoTを融合した「ぶつからないクルマ」の実現が不可欠となる。


センサー技術がカギを握る

 ドライバーは、クルマを運転する際に、周辺状況を把握・監視する「認知」、危険要因が迫った場合の事故回避に向けた「判断」、そして車両の運動制御を行う「操作」という運転行動を繰り返し行っている。死傷者事故の人的要因比率を見ると、前方不注意が約3割、安全不確認が約4割(交通事故総合分析センター調べ)で、いわゆる認知ミスが7割を占める。また、判断ミスが2割、操作ミスが1割となっており、事故回避においては、これら認知・判断・操作を最大限に支援することが必要となる。

 トヨタ自動車では、歩行者検知機能搭載の衝突回避支援パッケージ「Toyota Safety Sense P」や、高速度域や夜間、車線逸脱などのシーンをカバーする「Toyota Safety Sense C」を提供している。Sense Pでは、ミリ波レーダーと単眼カメラを併用した高精度な検知センサーを開発し、それに基づく総合的な制御により、クルマだけでなく、歩行者の認知も可能とし、事故の回避や衝突被害の軽減をサポートする。

 日産自動車のPFCW(前方衝突予測警報)は、2台前を走る車両の車間・相対速度を新型ミリ波レーダーでモニタリングすることで、自車からは見えない前方の状況の変化を検知し、ドライバーに知らせることが可能な技術だ。危険と判断した場合には、表示や音、シートベルトの巻き上げによって注意を促す。

 スバルの運転支援システム「アイサイト」は、14年にVer.3を発表。ステレオカメラ画像のカラー化・高性能化により、さらに多くの対象物を複数同時に認識可能としている。広角・望遠とも従来比で40%の向上を図っており、対車両の追突時の衝突回避性能を50km/h以下での追突回避および被害軽減性能に引き上げている(従来は30km/h以下)。

 このように、ADASにおいては、遠方の車両検知に有効で、雨・霧・雪などの影響を受けにくいミリ波レーダーと、物体(車両や歩行者)や白線などを識別できるカメラ(イメージセンサー)が、システムの性能を左右するキーデバイスとなっている。

 ミリ波レーダー向けチップソリューションを牽引するインフィニオン・テクノロジーズは、「16年には小型・中型車でレーダーチップの採用が拡大する」と見ており、年間1000万個の出荷を視野に入れる。現在は、19年の市場投入を目指し第3世代品を開発中で、周波数の上限を400GHzに高めるほか、周辺デバイスのマイコンなどもチップセットとして提供していく計画だ。なお、同市場は77GHz品で同社と争うNXP(フリースケール)、後方検知などを主目的とする24GHz品に強いSTマイクロエレクトロニクスの3社でほぼ寡占状態にある。

「死角の見える化」を実現へ

 先述の世界最先端IT国家創造宣言においては、世界で最も安全な道路交通社会を実現する目標に向けて「車の自律系システムと、車と車、道路と車との情報交換などを組み合わせ、2020年代中には自動走行システムの試用を開始する」としている。

 “車と車、道路と車との情報交換”とは、クルマ(Vehicle)とモノ(X)を通信によってつなぐ「V2X」を指す。道路脇や交差点に設置された通信システム(路側機)や歩行者が持つスマートフォンなどと、車に搭載されたOBU(On Boad Unit)を、クラウドを介さずにつなぐことができれば、右左折時や交差点進入・通過時の衝突防止支援や先行車両の車両情報を活用してタイミング良く車間を最適化するC-ACC、交差点に設置されたセンサー情報との連動による歩行者横断見落とし防止に加え、急カーブにより渋滞が見えない際や、見通しの悪いところでの出会い頭の衝突防止など、いわゆる死角の見える化を可能にすることができる。


 今のところ、V2X搭載に向けた自動車メーカーの取り組みには、アクセルの踏み方に差が見られるが、ここ1~3年の内には、各社からV2X搭載車が市場に投入される見通しだ。このため、市場としては「16年は21.3万台と限定的だが、以降は年平均80%以上の高成長率で推移し、25年には5718万台規模にまで拡大する」とアナリストは予測する。

 積極的な取り組みを行っている自動車メーカーの1つがトヨタ自動車だ。同社では、ITS専用の無線通信を活用した協調型運転支援システムを15年後半からレクサスやプリウスなどの一部新型車に採用している。

 同システムは、760MHzによる路車間・車車間通信を活用したシステムで、車載センサーでは捉えきれない情報を取得することで、自律系のADASを補完し、さらなる事故低減に寄与する。また、同社では車車間通信を採用した「通信利用型レーダークルーズコントロール」を開発。従来のミリ波レーダーによる先行車両との車間距離、相対速度の検知に加え、車車間通信で得た先行車両の加減速情報を活用することで追従性能を高めて、燃費向上や渋滞の緩和・解消なども視野に入れている。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 清水聡

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