電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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PLASやCFDなど新技術に注目


~FPD製造技術&設備投資動向~

2016/8/26

シニアディレクター チャールズ・アニス氏
シニアディレクター チャールズ・アニス氏
 大手調査会社のIHSは、7月27~28日に国内最多の受講者数を誇るFPD市場総合セミナー「第31回 IHSディスプレイ産業フォーラム」を東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)にて開催した。そのなかで「FPD製造技術&設備投資動向」のセッションを担当したシニアディレクターのチャールズ・アニス氏に、有機ELへの投資で盛り上がる業界の動向や今後注目される新技術について話を伺った。

 ―― FPD業界では相変わらず旺盛な設備投資が続いていますね。
 アニス 製造装置メーカーもここまで伸びるとは想定していなかっただろう。IHSの予測では、FPD製造装置市場は2016年に129億ドル、17年に130億ドル、18年に118億ドルと推移するとみており、いずれも1月時点の予測を上方修正した。
 ただし、投資が旺盛だった04~05年とは状況が異なる。すべての装置メーカー、特に韓国と日本の企業にとって好機だが、装置の種類や顧客基盤、専門性に応じて、受ける恩恵は大きく変化する。

 ―― 一方で、韓国を中心に液晶製造ラインの閉鎖計画が続々と浮上しています。
 アニス サムスンディスプレー(SDC)が第7世代(7G=1870×2200mm)の「L7-1」を年内にも閉鎖することが今後の需給バランスに大きく影響する。L7-1は世界の大型液晶パネル生産量の3.5%を占める。閉鎖によって17~18年の大型液晶パネルの供給が一気に引き締まり、需給にタイト感が出てきそうだ。
 中国では、パネルメーカーよりも政府がFPDに投資しており、大型液晶工場を相次いで新設していることに加え、既存工場の稼働率も落としていない。SDCは中国をよく理解したうえで素早い決断をした。
 一方で、中国の増産で苦境に立たされてきた台湾メーカーは、SDCのL7-1閉鎖で今後を検討する時間的な余裕ができた。単なる偶然、あるいは予期せぬ結果と言えるだろう。

 ―― 日本のパネルメーカーはいかがですか。
 アニス 厳しい状況に追い込まれている。ジャパンディスプレイ(JDI)とシャープが有機ELで競争できるかが今後の焦点になる。大型液晶では、パナソニックが姫路8.5G(2200×2500mm)の4万枚程度を閉鎖し、残る1~1.5万枚分を自動車やモバイル、産業用などのニッチ用途に運用しているが、9月以降も大型パネルおよび32インチの製造を継続する計画があるのか、現在のところはっきりしない。しかし、シャープは亀山第2工場で32インチの生産を再開している。

 ―― シャープは酸化物TFTの需要増加が今後期待できるのでは。
 アニス もしアップルが強い関心を持たなければ、IGZOはもっとニッチな技術にとどまっていただろう。現在もiPad9.7インチへの供給を続けており、アップルは今後、タブレットからノートPCへIGZOを全面採用していく流れにある。60Hzから30Hzへの低消費電力化や、アップルが有機ELのバックプレーンに採用予定だといわれているLTPO(Low Temperature Polycrystalline Oxide)など、開発すべき技術テーマも多く抱えている。

 ―― LTPO実用化の見通しは。
 アニス 実用化できればメリットは大きいが、構造がかなり複雑だ。現在のインセル低温ポリシリコン(LTPS)は12~13枚のマスクを要するが、LTPOは15枚程度になるのではと考えており、製造上のリスクが高くなりそうだ。

 ―― 有機ELでは新たな成膜技術「CFD(Collimated Flux Deposition)」に注目していますね。
 アニス CFDは、蒸着マスクと蒸着源のあいだにコリメーターを配置し、ガラス基板側をスキャンして成膜する技術で、現在のファインメタルマスク(FMM)技術よりも小型のマスクを使えるため、大型基板へのスケールアップが容易だ。詳細は異なるかもしれないが、SDCは非常に似通った基礎アプローチを試みたことがある。だが、シャープが2Gで326ppiのRGB有機ELの試作に成功した。WOLEDやインクジェット成膜に対抗できる技術として今後期待でき、とても興味深いが、商業生産での実現可能性がまだ不明瞭で、実現できるのは19年以降ではないかと考えている。

 ―― 講演ではPLAS(Partial Laser Anneal Silicon)にも触れました。
 アニス PLASは、TFTのチャネル領域だけを局所結晶化する技術だ。すでに光源メーカーのギガフォトン、装置メーカーのブイ・テクノロジーがシャープと協業し、10Gでサンプルパネルを試作しており、すでに技術の完成度が高い。アモルファスTFTとマスク枚数が変わらず、LTPSには及ばないものの、酸化物TFT以上の電子移動度が実現できるため、今後がかなり有望な技術だと考えている。

 ―― 量子ドット材料を用いたダイレクト色変換技術にも言及しました。
 アニス 量子ドット材料メーカーの米ナノシスが提案している技術で、要はカラーレジストに量子ドット材料を入れて液晶の輝度や色域を高めるというものだ。相対的に、液晶製造プロセスに統合しやすいかが重要になるが、標準的なカラーフィルタープロセスや有機ELに比べると、おそらくは技術的な困難が伴うだろう。やはり大量生産を実現するには多くの課題があり、反射の問題が最も重要だということへの対応がまだはっきりしていない。

(聞き手・編集長 津村明宏)

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