電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第163回

福岡県ロボット・システム産業振興会議の取り組み


地方からのイノベーションに期待

2016/9/9

福岡県のポテンシャルを活かした産学官連携組織

 経済産業省の工業統計調査によると、福岡県の半導体関連産業(電子部品・デバイス・電子回路製造業)の製造品出荷額は約2000億円(2013年)で、福岡県製造業の2.4%を占める重要な産業分野である。また、ロボット製造業の製品出荷額などは717億2300万円(同)で全国2位、全国有数のロボット関連産業が活発な地域といえる。
 さらに同県は、理工系大学の集積が全国第5位で、九州大、九州工業大、北九州大、福岡大、早稲田大、北九州高専で多数の研究者が半導体やロボットの研究開発を実施している。

 福岡県は15年9月、産学官連携組織の「福岡県ロボット・システム産業振興会議」を発足させた。この組織は、01年からシリコンシ-ベルト事業を展開した「福岡先端システムLSI開発拠点推進会議」、03年に発足した「ロボット産業振興会議」という両組織を統合したもので、スタート当初からパワーのある組織になっており、2年目に入り、独自事業を本格化させる。

新しいニーズに対応したロボットやシステムの開発と導入

 「福岡県ロボット・システム産業振興会議」の組織は、会長が津田純嗣安川電機会長、副会長が3氏で、安浦寛人九州大学理事・副学長、早瀬修二九州工業大学理事、高西淳夫早稲田大学教授。事務局は福岡県、北九州市、福岡市が共同で務める。事業計画は、企画運営委員会(委員長・高西淳夫早稲田大学教授、15人)で決定する。発足1年となる16年9月1日現在の会員数は、企業513、団体25、大学151、個人25、行政6、合計720。

 同振興会議の目的は、地域の産学官の連携などにより培ってきたロボットや半導体関連の技術ポテンシャルを活用し、高齢化やエネルギーなどの社会的な課題や、ITの進化による生活環境の変化などに伴う、新しいニーズに対応したロボットやシステムの開発と導入を推進し、新産業を創出するというものだ。

 ロボットというと、従来の産業用ロボットや近年注目されている人型ロボットを連想するが、同会議では、国が設置した「ロボット革命イニシアティブ協議会」が、ロボットを「デジタル化及びネットワーク化を活かしつつ高度のセンサーや人工知能を駆使して作業を行うシステム全般」と定義していることを受け、駆動機構がなく、ネットワークを通じて管理や情報処理などを行うシステムも含めて、ロボットおよびシステム(ロボット・システム)と位置づけ、幅広く対象としている。

 同振興会議の取り組みは、(1)ニーズ調査・提供(セミナーなどの開催)、(2)ニーズ対応製品開発(ロボット・システム製品開発支援事業、ロボット・システム実証実験促進事業など)、(3)市場開拓支援(大規模展示会などを通じて国内外に情報発信)、(4)持続的成長促進(・人材育成支援、・半導体設計、組み込みソフト、半導体実装技術などに関する技術者の養成講座を実施。・インキュベーションなどの支援)。

 持続的成長促進では、「福岡システムLSI総合開発センター」(福岡市早良区)、「三次元半導体研究センター」(糸島市)、「社会システム実証センター」(同)、「FAIS半導体・エレクトロニクス技術センター」(北九州市若松区)、「FAISロボット技術センター」(同)、「FAIS自動車技術センター」(同)などが活用されている。

ターゲットは「医療福祉」など3分野

 当面のターゲット分野として、市場の成長が見込まれ、福岡県の強み・特徴を活かせる(1)医療福祉、(2)エネルギーマネジメントシステム、(3)食品・農業の3つの分野に絞って取り組んでいる。

 医療福祉関連は、県内に医療機器系大学や福祉施設が集積(医学部4=全国3位、歯学部3=全国2位)していることから、機器開発ニーズや実証の場を提供可能で、介護分野では25年時点で県内に約1万人が不足するといわれており、人手による作業を補完する移乗や見守りなど介護ロボットへの期待が大きい。そして「ふくおか医療福祉関連機器開発・実証ネットワーク」があり、現場ニーズを把握した開発支援体制が構築されている。
【取り組み例】自走式カプセル内視鏡(九工大、ワークス)、介護用の移乗支援ロボット(安川電機)、歩行リハビリ支援ツール」(リーフ)など。

 エネルギーマネジメントシステム関連では、同県が固定価格買取制度のもと新規導入された発電設備の容量が全国トップクラスで、再エネ導入の先進地域であり、水素エネルギー分野に関するオールジャパンの産学官連携組織である「水素エネルギー戦略会議」を04年に立ち上げ、水素エネルギー社会実現に向けたプロジェクトを展開中で連携による成果が期待できる。

 食品・農業関連では、食品製造業は同県の基幹産業であり、今後、自動化による生産性の向上の余地が大きく、また、IT化による質の高い農産物の安定的生産供給が期待されている。
【取り組み例】食材ピッキング箱詰めロボット(安川電機)、自動箱詰めライン(ファクシム)、食・農クラウド(富士通九州システムス)。

 県では様々な分野の先端成長産業を実施しており、各プロジェクトと連携することで、出口戦略の強化を図っていく。

福岡県IoT推進ラボでアルコール濃度検知システム

 16年度の新たな取り組みとして、(1)福岡県IoT推進ラボの取り組み、(2)福岡県Ruby・コンテンツビジネス振興会議との連携、(3)「ふくおか医療福祉関連機器開発・実証ネットワーク」の新規事業との連携、(4)パワー半導体に対応した部品内蔵基板関連技術の開発、(5)ロボット・システム産業を強化するための企業人材の育成が挙げられる。

 16年7月に県が「福岡県IoT推進ラボ」として提案したIoTプロジェクト創出の取り組みが、経済産業省から地方版IoT推進ラボの1つとして選定された。選定を受けたことで得られる「全国の企業などとのマッチング」や「専門家の派遣」といった国の支援に加え、県による製品開発のための補助金や実証の場の提供などの、様々な支援制度を総動員して、地域の課題を解決し、豊かな社会を実現する製品やサービスの開発を加速していく。

 IoTの活用により開発を進めているプロジェクトとしては、▽バスやトラックにおける呼気のアルコール濃度検知システム=バスやトラックなどの車内に設置したセンサーで呼気のアルコール濃度を常時検知し、飲酒運転の危険性がある場合はインターネットを介して通知するシステム、▽第1次産業の生産施設などにおける制御システム=農水産物の品質や生産性を高めるため、イチゴのハウスや、ノリの乾燥加工施設において、温度や湿度などの環境情報と、そこで生産される品質の情報を解析し、施設内を最適な条件に制御するシステム―がある。

16年度支援事業6テーマを採択

 16年度のロボット・システム関連製品開発支援事業として6テーマが採択されている。

 6つのテーマの内容は、「顕微鏡下手術支援ロボット・システムの開発((株)ロジカルプロダクト)、非悪性皮膚がんを対象とした光線力学療養ウエアラブル治療機器の開発((合)プレアデステクノロジーズ)、「電子回路基板の多品種変量生産を実現する常圧過熱水蒸気を用いた高熱効率・均一過熱リフロー装置」の商品化(KNE(株))、「農場の田畑などを監視するIoT機器を簡単に管理運用できるプラットホームシステムの開発・事業化」(富士通九州ネットワークテクノロジース(株))、「LED光源を用いた紅タデの多段式水耕システム」の開発」((株)福岡園芸)、「運動競技場でコートを製作する自動ライン引きロボット」((株)アダチスポーツ)。

 また、ロボット・システム関連製品実証実験のテーマも公募済みで、10月初旬ごろ、採択先を決定する見通しだ。

地方から新産業創出へ

 地方の時代といわれて久しいが、福岡県は産学官連携による推進組織「福岡県ロボット・システム産業振興会議」を中核に、これまでに培ってきた先進的な半導体やロボット関連の基盤技術を融合・活用することで、新たなニーズに対応したロボットやシステムの開発・導入を促進し、新産業の創出を目指している。

電子デバイス産業新聞 福岡支局長 松山悟

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