電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第165回

これからの新日本無線


「使う」半導体への脱却

2016/9/23

 新日本無線の成長が軌道に乗ってきた。同社は2011年度に大胆な事業構造改革を行い、生産体制や事業ポートフォリオの見直しに取り組んだ。結果、12年度には黒字転換を果たし、以後、増収増益を維持している。16年度(17年3月期)は10年ぶりに売上高が500億円台に回復する見込みだ。

 まずは、この10年間で新日本無線がどのような再建に取り組んできたのか、簡単に振り返ってみる。同社は07年度までは売上高600億円台を維持していたが、08年度には500億円を割り込み、43億円の営業赤字(15年ぶり)を計上するなど、急速に業績が悪化した。09年度も業績低迷が続き、全セグメントで減収となり、2期連続で営業赤字となった。
 そこで、対応策として後工程(組立)の海外移管(タイ)を進め、さらには、11年9月に「事業構造改革プラン」を策定し、生産体制、製品構成、研究開発、人件費を根本的に見直す施策を打ち出した。

 改革プラン初年度となる11年度は、主力の半導体の受注が減少し、売上高は前期比で11.7%の減収となり、事業構造改革のための特別損失48億円を計上したことで、41億円の大幅な営業赤字を余儀なくされた。
 2年目を迎えた12年度も、半導体が伸び悩み、売上高は前年同期比で1割弱の減収となった。ただし事業構造改革により、人件費、減価償却費、棚卸資産&廃棄費用の低減、さらには研究開発テーマの絞り込みによる経費削減など、合計74億円の固定費削減効果があったことから収益性は大きく改善し、大幅な黒字転換を果たした。
 そして、13年度以降は収益が安定し、13~15年度の3期連続で増収増益を続けている。16年度には、売上高が500億円台に回復する見通しだ。


SAW、GaAs ICは好調

 現在、新日本無線の製品戦略は、既存製品を強化する「DEFENCE」と、新事業の創出や新たな産業分野への進出を図る「FORWARD」の2つに分類される。「FORWARD」については、SAW(弾性表面波)フィルターやMEMSマイクなどに力を入れている。

SAWフィルターウエハー
SAWフィルターウエハー
 SAWフィルターは、特定の周波数の信号を取り出すフィルターとして、主に携帯電話やスマートフォン(スマホ)、タブレット端末、TVチューナー、GPSなどに広く利用されている。新日本無線は、日本無線から同事業を引き継ぎ、現在、最終製品まで自社で生産する製品ビジネス(車載用リモートキーレスエントリー、GPS、特定小電力、通信機器など)と、電子部品メーカーにSAWウエハーを供給するファウンドリービジネス(全体の8割)の2つのアプローチで拡販に取り組んでいる。

 15年度のSAW事業の売上高は36億6700万円で、14年度の25億6600万円に対し4割の増収だった。15年度はSAW需要拡大に伴うウエハー不足で、期初計画(売上高41億円)は未達に終わったが、16年度は44億5000万円の売上高(前年同期比2割増)を計画するなど、さらなる成長を見込んでいる。

 MEMSマイク(トランデューサー)の販売も好調に推移している。MEMSマイクは13年3月から本格量産を開始しており、最近では、スマホ向けに需要が急増している。
 14年度のMEMSマイクの売上高は15億1300万円だったが、15年度は1割増の16億5200万円と堅調に推移した。16年度はさらに売上高が増える見込みで、今のところ、5割増の25億円を見込んでいる。

 スマホの多バンド化に伴い、スマホ1台あたりに搭載されるSAWフィルターの個数が急速に増えているが、SAWフィルターが増えれば、スイッチとして使用するGaAs ICも必然的に増えることから、新日本無線でもGaAs ICの販売が急増している。GaAs ICの売上高は14年度が43億4500万円だったが、15年度は7割増の74億600万円まで増えた。もっとも、16年度は需要が低調に推移すると予測しており、売上高は15年度比1割減の65億4100万円にとどまるもよう。

デュアル・ファブ化推進

川越製作所
川越製作所
 新日本無線の主力工場で、開発・製造の最大拠点となるのが川越製作所(埼玉県ふじみ野市)である。川越製作所では、半導体の前工程(ウエハープロセス)のほか、マイクロ波コンポーネントの組立、さらにはSAWフィルターの一貫生産を行っている。SAWウエハーの生産能力は月産2万4000~2万5000枚(ファウンドリー向け2万枚/月)だ。

 ちなみに、前工程の拠点は川越製作所のほかにNJR福岡(福岡市西区)がある。加えて、UMC(台湾)の8インチラインも活用している。一方、後工程(組立)は佐賀エレクトロニックス(佐賀県吉野ヶ里町)とタイNJR(チェンマイ)で行っている。

 川越製作所とNJR福岡は7~8割のプロセスが共通しており、人も装置も流動化が進んでいる。BCP(事業継続計画)の観点から、ウエハープロセス(5インチ)の6~7割が川越、NJR福岡の両方で生産可能な体制を整えている。
 そして、ウエハープロセスだけでなく、ウエハーテストや後工程においても、デュアル・ファブ化を実現している。ウエハーテストは川越と佐賀エレクトロニックス、後工程は佐賀エレクトロニックスとタイNJRでそれぞれ対応できるようになっている。

 川越製作所では、GaAs ICのウエハープロセスからウエハーテスト、チップ加工まで一貫生産している。GaAsウエハーの生産能力は13年の時点で月産1400枚だったが、15年に2回の増産投資を実施するなど、生産能力を月産2700枚まで拡充した。
 一方、旺盛な需要に対応するため、外部ファブ(6インチ)も活用しており、全体の生産能力は月産4000枚(4インチウエハー換算)となっている。今後の増産対応については、外部ファブの積極活用、さらには、自社ラインの6インチ化などを検討している。

生産子会社も成長加速

NJR福岡
NJR福岡
 新日本無線本体だけでなく、生産子会社で前工程を担当するNJR福岡、同じく後工程を担当する佐賀エレクトロニックスも成長戦略に向けた取り組みを加速している。
 NJR福岡は、三菱電機から製造ラインを取得して、03年4月から操業を開始した。現在、バイポーラおよびBiCMOSの製造ライン(5&6インチ)が稼働しており、民生用IC、車載用IC、さらには民生&車載ディスクリートの各製品を製造している。

 NJR福岡の生産能力は5インチ換算で月産7万1300枚。内訳はダイオードが5割、3~7μm BiCMOS ICが3割、0.8~2μm BICDMOS ICが1割強、残りがMOSFET・IGBTとなっている。
 生産品目で見ると、民生用ICが5割を占めており、以下、民生用ディスクリートが3割、車載IC、車載ディスクリートが各1割となっている。用途はエアコン、冷蔵庫、店舗用HID照明、デジタルカメラ用電源IC、TVゲーム用電源IC、AVアンプ用電子ボリューム、HEVシステム用IC、パワステ用ドライバーなどだ。

 14年度の売上高は83億円だったが、15年度は三菱電機からのパワーデバイスの受注が急減したことから、大幅な減収(61億円)となった。
 もっとも、売上高は創業以来、増減を繰り返している。04年度は100億円超の売上高があったが、その後、下降線を辿り、09年度には62億円まで落ち込んだ。10~11年度は80億円台に回復したが、12年度は61億円に減少。13~14年度で80億円前後に回復したが、15年度には再び61億円まで売上高を落とした。ただ、創業以来、黒字は維持しているという。
 15年度は大幅な減収となったが、16年度から上昇基調に転じるとし、16年度は67億円、17~18年度は70億円台の売上高を見込んでいる。
 15年度の出荷枚数(5インチウエハー換算)は3万3900枚/月で、14年度の5万枚/月から3割強の減少となった。16年度以降は出荷が増加すると期待しており、17~18年度は5万枚/月に達すると予測している。

佐賀エレクトロニックス
佐賀エレクトロニックス
 1965年設立の佐賀エレクトロニックスは、九州初の半導体工場として、60年代には各種ダイオードの生産を行い、90年代以降は本格的に半導体パッケージの生産を開始した。00年度には売上高が240億円に達し、従業員も1000人を超えたが、これを境に、同社の業績は下降を始める。
 00年代前半のITバブルの崩壊、さらには00年代後半のリーマンショックが追い打ちをかけ、売上高が急減した。そして、新日本無線の事業構造改革に伴うタイへの生産移管が進んだことで、14年度には売上高が52億円と、ピーク時の5分の1まで落ち込み、従業員も3分の1まで減少した。

 業績の回復を図るため、製品ポートフォリオの見直しに取り組んだ。構造改革前は民生用リードフレームパッケージの比率が大きかったが、構造改革後は、車載用MAP(モールド・アレイ・パッケージ)など、新製品が増えてきた。15年度後半から、スマホ向けのFEM(フロントエンドモジュール)やSAWフィルターなどの受動部品も相次ぎ量産を開始した。
 こうした取り組みの結果、15年度から売上高が上昇に転じている。15年度の売上高は14年度比1割増の58億円だったが、16年度は64億円を計画するなど、さらなる増収を見込んでいる。18年度の目標は90億円だが、早期に100億円の売上高を目指すという。

これからの新日本無線

 従来のベースライン製品で売上高を維持しつつ、「FORWARD」製品でプラス成長を図る、という戦略は、今のところ順調に進んでいるようだ。一方で、自社生産の縮小や撤退した事業もある。例えば、MEMSマイクは、NJR福岡、川越製作所、台湾UMC(8インチ)で生産していたが、8インチ化に伴い、すべて外注に移行した。
 また、佐賀エレクトロニックスでは、事業構造改革後の成長戦略として、サンドブラスト技術を応用したガラス加工ビジネスや高輝度LEDモジュール製品などを検討していたが、いずれも撤退している。

 今後の成長分野として着目しているのが、車載や情報通信、さらにはHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)などの産業機器向け製品(電源用、オペアンプなど)だ。15年度における同社の産業機器向け電子デバイス製品の売上高は32億円で、12年度(16億円)実績に対して倍増となった。16年度の売上高は35億円を予測するなど、さらなる成長を見込んでいる。

 佐賀エレクトロニックスでは、これまではウエハーテストや部品組立、受動部品などが中心だったが、今後はモジュール製品のような半導体を使ったソリューションの提供に力を入れる。とりわけ、車載とセンサー(IoT)に力を入れる。
 センサーICでは、テストコストの低減が大きな技術課題となっているが、佐賀エレクトロニックスは基板上で特性試験を行い、最後にダイシングし、テーピングを行うという、センサーIC用の新しいテストシステムを開発した。これにより、装置コストは3分の1、テストコストは5分の1に圧縮できるという。

 さらに、従来のバーコードやタブレットを利用した作業点検手順の確認を、将来はメガネ型ディスプレーに置き換えることを検討している。実は、市場投入しているイオナイザー監視システムも、もともとは自社の生産向上のために開発したシステムである。
 佐賀で確立したノウハウをタイに移転することで、後工程拠点全体のレベルアップを図る。そして、このノウハウを外販することで、新たな収益源の確保も期待できそうだ。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

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