電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第191回

トレックス・セミコンダクター(株) 代表取締役 社長執行役員 芝宮孝司氏/フェニテックセミコンダクター(株) 代表取締役 副社長 谷英昭氏


「異例の買収」で企業価値向上
設計・製造の一体化で車載強化へ

2016/10/7

トレックス・セミコンダクター(株) 代表取締役 社長執行役員 芝宮孝司氏/フェニテックセミコンダクター(株) 代表取締役 副社長 谷英昭氏
  芝宮氏(左)と谷氏
 トレックス・セミコンダクター(株)(東京都中央区新川1-24-1、Tel.03-6222-2851)は、4月にフェニテックセミコンダクター(株)(岡山県井原市)を買収し、子会社化した。ファブレスがファンドリーを買収するというのは業界内でもきわめて異例であり、両社の今後の事業展開に大きな注目が集まっている。買収の経緯や今後の取り組みを両社のトップマネジメントに聞いた。

―― 今回の買収は子会社が親会社を傘下に入れたかたちになりますね。
 芝宮  フェニテックは1978年にシンコー電気(株)として設立され、当初は国内大手半導体メーカーのグループ企業としてディスクリートを製造してきた。このなかで自社ブランドの電源系CMOS ICを設計しようと立ち上げたのがトレックスの前身であり、以後はそれぞれがファンドリー、ファブレスとして独自に事業拡大を進めてきた。
 この間、資本関係はかつてより薄くなったものの、トレックスにとってフェニテックは重要なウエハー製造委託先の1社であり続け、トレックスが2014年4月にジャスダックへ上場(現在は東証二部)した時点で、フェニテックは株式の19%を持つ株主の1つであった。

―― 改めて買収の狙いをお聞かせ下さい。
 芝宮 トレックスが得意とする小型・省電力の電源ICは、性能の尖ったトップレベルの製品を生み出すため、そのほとんどがマイナーチェンジした専用に近いプロセスで製造されている。もちろんフェニテックを含めて複数の製造委託先を確保しているが、昨今の国際的な業界再編や工場の統廃合は、トレックスにとって大きなリスクになり得る。いかなる時も安定した製造委託先を確保したいという思いを以前からずっと強く持っていた。特に、トレックスが注力している車載分野を拡大していくにはファブが不可欠だと考えた。ただし、フェニテック以外の既存の製造委託先には今後も変わらぬ製造支援をお願いしている。

―― 買収提案を受けた時の率直な感想は。
 谷 好機だと思った。トレックスがフェニテックの筆頭株主になるという事実もさることながら、ファンドリーとしての実績を高く評価していただいた。

―― ファンドリービジネスに影響はないですか。
 谷 あえて申し添えておきたいのだが、ファンドリー事業はトレックスのファブレス事業とは別であり、今までもこれからも顧客との守秘義務を貫く。
 もちろんすべての顧客に了承をいただいたうえでの買収だったが、当初は心配もした。だが、フェニテックが製造しているディスクリートの半分は、フェニテックが独自に設計して製造まで請け負って顧客のブランドで提供するODM品であり、トレックスの製品と競合しない。これに加えて、上場企業の傘下に入って経営の安定化が図られるという観点から、すべての顧客に好意的に受け取っていただいた。なかには、以前から「両社が再び一緒になったほうがよい」とアドバイスして下さる方もいた。

―― 足元の市況はいかがですか。
 芝宮 トレックスにとっては為替の影響が大きい。収益の押し下げ要因の7割以上が為替だ。比率は小さいものの、民生品向けの需要に関しては熊本地震の影響もある。また、中国経済の減速も感じており、下期は不透明感が強い。
 谷 フェニテックも中国と為替の影響を受けていることに加え、パワーIC系で主要顧客の在庫調整の影響が大きく出ている。

―― 今後シナジーをどう引き出していきますか。
 芝宮 まずは車載、産業機器ビジネス拡大のため、高品質な製品を長期間、安定供給する仕組み作りをフェニテックとともに構築していきたい。一方で、主力のCMOS電源ICに関しては、トレックスの設計とフェニテックの製造プロセスが一体となった開発を推進していくことで、ナノアンペアクラスの低消費電流化やさらなる高精度化、小型化を実現することが可能となる。また、大電流製品などにおいては、フェニテックが得意とするディスクリート製品などの周辺デバイスを含めた最適化で、電源ソリューションとしての付加価値を上げていきたい。
 谷 買収に先立つ15年夏、フェニテックはヤマハから6インチの鹿児島工場を取得した。0.18μmのCMOSプロセスはフェニテックになかった価値ある技術であり、優れた品質管理のノウハウも持ち合わせている。また、ファンドリーである当社には販路がなかったが、今後はトレックスから多くの営業情報が寄せられる。ファンドリー事業にアプリの新鮮味を生かしやすくなるだろう。

―― SiCデバイスの量産も検討中ですね。
 谷 次世代のファンドリーメニューに加えたい。現在は4インチで、エピやインプラは外注だが、需要動向と投資のタイミングを見極めていく必要がある。材料コストの低減も重要であり、将来的にはトレックスにも使っていただけるようなプロセスに仕上げたい。

―― 設備投資戦略も重要になってきますね。
 芝宮 ファブレスとファンドリーでは設備投資の金額も戦略も大きく違う。すでにフェニテックから要望をいただいているが、優先順位をどう付けていくかを精査していく。
 相互理解をさらに深めるため、すでに人事交流を始めた。両社のプロセス技術者を派遣し合っており、ファブでどのように製造しているかを現場で学べるのはとても有意義だ。まずは人的投資を重視し、これからもっと交流させたい。


(聞き手・編集長 津村明宏)
(本紙2016年10月6日号1面 掲載)

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