電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第169回

NEDIA戦略マップを読み解く(1)


~“きづき”の作業~

2016/10/21

 日本電子デバイス産業協会(NEDIA)は、電子デバイスビジネスにおける新事業の創出とイノベーションを目的に、「NEDIA戦略マップ2015」を上梓した。

 この手の書籍で、ぱっと頭に浮かぶのが、新規ロードマップの登場。実際、編集に携わったのが、故大見忠弘教授を委員長とするNEDIAロードマップ委員会。国際半導体技術ロードマップ(ITRS)以来、久しくロードマップを目にしていなかったこともあり、飢えた犬のようにページをめくった。

松本哲郎氏
松本哲郎氏
 ところが、いつも目にする時間軸でプロットされた、タイムテーブルの大きな表が見当たらない。このロードマップのない、戦略マップをいかに解読すればよいのか。作成担当者の一人である、松本哲郎氏に解きほぐしてもらった。今回の背景を含め、方向性、戦略の計3回に分けて報告する。松本氏は日立製作所の出身、半導体産業研究所(SIRIJ)勤務の経歴を持つ。

ロードマップは死んだ

 戦略マップが読者に訴える最大のポイントが“きづき”。今はまだ見えない、将来の市場に“気付く”ことである。どのようにして気付けばよいのか、それを背景、方向性、戦略の3視野からアプローチを試みたのが本書。まだ完結しておらず、あと2~3年の歳月を要することになろう。

 従来のロードマップには2タイプがあった。バックキャスト型とフォアキャスト型である。前者は将来の社会課題などを想定し、時間軸を5年ないし10年に設定。段階を経て、必要な技術を積み上げていくタイプ。後者は現在の技術力を認識したうえで、時間軸に従い、未来社会に到達するタイプ。どちらの手法にしろ、共通点はすべての人に将来の姿が見えていること。誰もが共通認識する未来社会に、新市場やイノベーションは生まれない。展開されるのは、目の前に見えることだけを焦点にした、ビジネス競争である。

 ITRSを米国の戦略と表現する人がいる。本当に狙う新市場の真の姿はクローズし、そこで必要な技術だけをオープンにする。ロードマップで進化の段取りを見せ、ビジネス競争を展開することで、技術レベルを引き上げていく。到達点に達すると、その技術をツールとして使用し、米国が真の新市場を抑え込む戦略である。これが本当の話かどうかは不明だが、戦略マップの意図する“きづき”の意味は理解できる。


若者に期待する“きづき”

 意味は理解できるが、書き手を含めた40代以上には、“きづき”の作業は難しそう。残されたビジネス人生を想像すると、悠長なことは言っておられず、目に見えるビジネス競争に突進したくなる。とにかく銭儲けをして、社内で安定した椅子を保っておきたいと。今なら、さしずめIoTやAIが標的になる。

 かつてPCにときめいていた頃を思い出してほしいと松本氏は指摘する。当時、PCを意識して使っていた。しかし、そのPCにもインターネットが組み込まれ、かつスマートフォンに進化し、いつしかツールの感覚になった。これが大事で、IoTもAIも当面は意識するであろうが、PCと同様、進化を繰り返し、インフラの1つとして拡散し、空気のような存在になる。そのときこそ、“きづき”の作業が意味を成してくる。

 空気のようなツールを使って、社会に貢献できること、多くの人が喜ぶこと、これらを模索することが“きづき”の作業であり、その延長線上に新市場の土俵を作り上げることができる。だからこそ、“きづき”の作業は、若者への期待大となる。

 具体的には、現在起きている様々なイノベーションを俯瞰し、かつ理解と分析を行う。そのうえで戦略を立て、事業を起こす。すると必ず、変化が起きる。その変化に気付くことで、新ビジネスが姿を現してくる。

 では、“きづき”の作業が行えるよう、どのようにマインドをチェンジすればよいのか。それが方向性である。技術の方向性、市場の方向性を見定めると、時代は「モノ」から「コト」に動いていることに気付く。モノとは製品もしくはハードの意味、コトとは付加価値もしくはサービスの意味合いである。次回はこの方向性について解説する。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松下晋司

サイト内検索