電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第206回

ボンディングワイヤートップの田中貴金属の創業は明治18年なのだ


~アクティブなM&A実行、半導体前工程にも注力し新事業に展開~

2016/10/28

 「田中貴金属グループの始まりは明治18(1885年)年、東京・日本橋茅場町において江島屋田中商店の創業に始まるのだ。当初は両替商としての商いであった。明治25年になって貴金属ジュエリーの分野に進出している。昭和5年にはフランスからキネー技師を招聘し、触媒用白金網の国産化に成功した。今年で創業131年を迎えたことになる」

田中貴金属工業 取締役専務 平野伊三夫氏
田中貴金属工業 取締役専務 平野伊三夫氏
 しみじみとした口調でこう語るのは田中貴金属グループの中核企業である田中貴金属工業の取締役専務の平野伊三夫氏である。平野氏は静岡県浜松市出身、父親は部屋の内装を手がける職人であった。父の働く姿を見て、やはりモノづくりや職人の世界に行きたいと思ったのだ。東京都立小平高校を出て日本大学理工学部に進み工業化学を学ぶ。卒論は「炭酸カルシウムの結晶制御」というものであった。そして知名度としては今一つである田中貴金属工業に入社するが、その歴史の古いことを知って驚くのだ。

 「田中グループは一見して金の商いや貴金属ジュエリーなどを中心に扱っているように見えるが、実のところは取り扱いの約70%が工業向けとなっているのだ。特に著名であるのは、半導体の後工程で使われるボンディングワイヤーであり、これは世界シェア約40%を握り、常にトップを走っている。また、燃料電池向けの触媒は白金や合金を使うものであるが、これまた60%のシェアを持っている」(平野専務)

 田中貴金属グループの2015年の売り上げは約1兆円強となっている。金という素材は文字どおり黄金の輝きを持ち、その物性の高さから多くのものに使われている。自動車のパワーウィンドウや集中ドアロックなどスイッチを押すと一斉に電気が流れる機器の電気接合部分には不可欠なものとなっている。また、モバイル機器充電部のコネクターをはじめ液晶パネル、レンズ、バッテリー、フラッシュメモリーなど約100カ所に金をベースとした田中貴金属グループの製品が使われているのだ。

 成長著しい電子部品の水晶振動子を気密封止するための封止材としても同社の貴金属が活躍している。また、LEDを構成する材料にも金・プラチナなど貴金属材料が電極やバリアメタル、積層金属薄膜として使われているのだ。さらに、メディカル系としては妊娠検査薬、インフルエンザなどの体外診断キットにおける検出ラインの発色剤には金コロイド(ナノサイズの金粒子)が使われている。

 一見して地味系とも思われる同グループであるが、ここに来ての経営戦略としてはかなりアクティブに転じている。最近のことであるが、同グループの約2分の1のスケールを持つスイスのメタロー社をあっさりと買収し、グループに加えてしまった。そしてまた、将来の発展をにらんで新事業カンパニーを立ち上げたが、このプレジデントが前記の平野専務なのだ。

 「これからのキーワードは何といってもIoTであろう。車載向けのパワーデバイスの拡大に向けた新材料の開発を急ピッチで進めている。また、これまで扱っていなかった半導体前工程向けの接合・封止にも注力している。半導体は今や7nm世代の材料をいかに開発するかにかかっている。当社は後工程で地位を築いたが、今後は前工程にも一気に展開していく考えだ」(平野専務)

 また国内における最近の設備投資としては、16年4月に神奈川県平塚工場(これは一番初めの工場)内に新棟を建設した。老朽化の解消とともに、電気接点、電子部品用材料の増産に備えるためだ。平野専務に田中貴金属工業グループの社風はいかがなものであるのか、と聞いたところ、次のような明確な答えが返ってきた。

 「わがグループの経営は実に自由度が高い。かなり勝手にやっているが、常に一致団結する。それもこれも、創業家の田中家が現役でずーっと存続していることが大きい」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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