電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第170回

メモリー半導体は韓国経済の救世主か


2016/10/28

 韓国半導体メーカーが最も得意とするメモリー半導体の市況が好調だ。ここ2年間、下落し続けてきたメモリー半導体の価格が急激に反騰しているからだ。これによって、サムスン電子半導体部門とSKハイニックスの2016年7~9月期の営業利益は大きく増加する見通しだ。


 このほど、韓国証券街ではサムスン電子半導体事業部とSKハイニックスの下期実績の展望値を上方修正した。15年10~12月期から2兆ウォン(約1905億円)台半ばに止まっていたサムスン電子半導体事業部の営業利益は、7~9月期に3兆ウォンを上回ると予測されている。Galaxy Note 7の全量リコールおよび販売停止騒ぎに伴って無線事業部の業績が急降下しても、半導体事業部が全社利益の減少幅を穴埋めする見通しだ。

 また、SKハイニックスの場合、7~9月期の営業利益は7000億ウォン(約666億円)台が期待されている。同社の営業利益はDRAM市況の悪化によって、15年10~12月期から16年4~6月期までは下落が続いていた。

メモリー半導体市場は好況期へ

 半導体業界では、メモリー価格の値上がりとPC市場の回復などでメモリー半導体市場が好況期に入ったと分析されている。DRAMは主要メジャーメーカーが生産量を大きく増やさなかった。7~9月期に入ってからは供給を需要が上回り、価格上昇につながった。
 
 市場調査専門機関のDRAMエクスチェンジによれば、16年8月末時点のDRAM固定取引価格(4Gb DDR3基準)は1.38米ドルで前月比2.99%アップしている。7月の7.2%アップに続いて、2カ月連続で価格が上昇した。
 
 今後、メモリー業界ではDRAMよりも3D-NAND型フラッシュの増設が集中的に実施される。つまり、DRAMの供給量が急激には増えないということを意味している。

PC市場も回復勢に転じる

 メモリー需要の多くを占めるPC市場も回復に転じている。しばらく、PC出荷量はなかなか反転の兆しが見えなかったが、最近、世界PCチップ市場で占有率98%強を誇るインテルが肯定的な展望を提示した。インテルは7~9月期の売上高展望値を既存の149億米ドルから156億米ドルに上方修正した。新型CPUである第7世代コアプロセッサーの出荷以降、主要PCメーカーがチップの在庫を補充しているためだ。

 また、DRAMの供給量拡大も制限されている。メモリーメーカーの売上高はNAND型フラッシュよりDRAMのほうが多いことから、DRAM供給量が急激に増えない限り、価格下落はないというわけだ。

SKハイニックスの最新鋭21nm級モバイルDRAM
SKハイニックスの最新鋭21nm級モバイルDRAM
 韓国メモリーメーカーの好調な業績の背景は、それぞれ異なる。SKハイニックスは次世代21nm DRAMの比率を拡大したのが功を奏した。同社の21nm級モバイルDRAMは、アップルが10月に発売したiPhone7シリーズに搭載された。

 サムスン電子は競合メーカーより工程転換が早かったことから、コスト面で継続的に優位性を保っている。同社の主力は20nm DRAMである。18nm DRAMはまだ本格量産には踏み切っていない。マーケットに大きな影響を及ぼさないレベルで競合相手が原価を下げると、それより低い原価で勝負に臨むのが、サムスン流なのである。

韓国半導体装置メーカーの業績も改善

 他方、メモリー半導体市場が活況を呈することによって、韓国半導体装置メーカーの業績も改善している。投資がメモリー半導体に集中することに伴って、一部の装置メーカーは嬉しい悲鳴をあげているほどだ。

空からみるSKハイニックスの利川本社工場の全景
空からみるSKハイニックスの
利川本社工場の全景
 韓国国内ではサムスン電子(京畿道平澤市)とSKハイニックス(京畿道利川市)が大規模な3D-NAND型フラッシュ工場を建設している。インテルも中国大連の3D-NAND型フラッシュ工場を強化しつつ、韓国装置メーカーへの発注を検討している。

 また、マイクロンとXMC(中国)なども大型3D-NANDフラッシュ投資を予告している。これら3D-NAND型フラッシュに対する投資総額は50兆ウォン(約4兆7619億円)に迫ると推計されている。3D-NAND型フラッシュを作る工程は、平面NAND型フラッシュに比べて複雑といわれている。同じ量のウエハーを生産する場合、3D-NAND型のほうがより多くの装置が必要というわけだ。

 メモリー半導体価格の好調ぶりは、低成長に喘ぐ韓国経済にとっては救世主かもしれない。韓国国内総生産(GDP)の30%強を占めるサムスン電子と現代自動車が苦戦を強いられているなか、メモリー半導体からの収益増こそが、さらなる景況悪化を食い止めているかたちになっているのだ。

電子デバイス産業新聞 ソウル支局長 嚴在漢

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