電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第174回

クルマと人工知能の融合


~AIが作る自動車の安心・安全・快適~

2016/11/25

 1980年代、アメリカのテレビドラマ「ナイトライダー」が日本でも放送された。主人公のマイケル・ナイトが、人工知能(AI)を搭載したクルマ「ナイト2000(キット)」を相棒に数々の難事件を解決していくというストーリーだ。当時小学生であった筆者も、ワクワクしながら放送を楽しみにしていたが、半ば遠い未来の“夢物語”という感覚で視聴していた。しかし、あれから30年以上が経った今、その夢物語が近い将来には現実のものとして我々が手にできる可能性が見えてきた。

国内自動車メーカーにおけるAI技術開発

 現在、自動車産業(自動車メーカー)においては、このAI関連の研究開発が急ピッチで進められている。業界のリーディングメーカーであるトヨタでは、2016年1月に人工知能技術の研究・開発拠点として、新会社「TOYOTA RESEARCH INSTITUTE, INC(TRI)」を米シリコンバレーに設立。20年までの5年間で約10億ドルを投資する計画だ。

TRI CEOのギル・プラット氏
TRI CEOのギル・プラット氏
 また、TRIは16年8月にAI関連の研究においてミシガン大学との連携を発表。クルマの安全性向上、生活支援ロボットや自動運転などの領域で連携して研究を行っていく計画で、今後4年間の投資額は2200万ドルを見込む。そのほか同社では、米国の非営利団体であるOpen Source Robotics Foundation(OSRF)とも連携しており、より包括的な研究開発体制を構築している。

 ホンダは、ソフトバンクと協力し、ソフトバンク傘下のcocoro SB(株)が開発したAI技術「感情エンジン」のモビリティーへの活用に向けた共同研究を進めている。この研究では、ドライバーとの会話音声やクルマが持つ各種センサー・カメラなどの情報を活用することで、クルマがドライバーの感情を推定するとともに、自らが感情をもって対話することを目指すという。クルマが様々な経験をドライバーと共有し成長することで、「運転者はモビリティーが相棒になったような感情を抱き、さらなる愛着を感じることができるようになる」としている。

 スバルは、日本IBMと高度運転支援システム分野における、実験映像データの解析システムの構築、ならびにクラウドおよびAI技術に関する協業を進めていく。「アイサイト」による膨大な実験映像データを集約して統合的に管理するシステムを構築し、16年4月からすでにその運用をスタートさせている。さらに今後は、IBMクラウドをベースとした自動車業界向けのIoTソリューション「IBM Watson Internet of Things for Automotive」を活用した新システムの構築や、クラウドおよびAI分野における最新技術の特性を把握し、高度運転支援システムにおける技術適用の可能性の検証などを進めていく。

 日産は、15年10月に発表した「Nissan IDS Concept」(電気自動車と自動運転を具現化したコンセプトカー)において、進化した車両制御技術、安全技術と最新のAI技術を統合した自動運転技術で、自動運転車の実用化をリードしていく方針を打ち出している。

ディープラーニングでAIが進化

クルマとAIの融合 イメージ(提供:トヨタ自動車)
クルマとAIの融合 イメージ(提供:トヨタ自動車)
 現在、AIは機械学習・ディープラーニングとともに、データから学習する人工知能として大きな脚光を浴び、クルマに限らず幅広い分野で、その応用を目指して活発な研究開発競争が繰り広げられている。ディープラーニングは、人間の脳の構造と同じような神経回路(ニューラルネットワーク)をコンピュータ上に形成。画像や言語などをより多く入力し、訓練することで、そこに含まれる高度な概念を自然に引き出すことができる。

 従来のAIでは、人間が現実世界の対象物を観察し、特徴量の抽出を見抜いてモデルの構築を行っていた。その後の処理は自動で行えるが、モデル化の最初の部分には人の介在が必要で、それがボトルネックとなっていた。しかし、ディープラーニングでは、大量のデータ(ウェブやビッグデータ)から、何を表現すべきかを自動的に獲得する。これが、従来の人工知能とディープラーニングによるAIとの最大の違いとなる。

 実際、大規模画像認識のコンペティションである「ILSVRC」では、AIにディープラーニングが採用される以前は、エラー率27%程度。それが、同手法が採用された12年には約16%へと向上、その後ニューラルネットにおける階層の多層化とともに年々エラー率は向上し、15年には4.8%という驚異的なレベルにまで向上している。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 清水聡

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