電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第175回

広がる集束超音波治療


高齢化で増える脳神経疾患に朗報

2016/12/2

 高齢化に伴う脳神経疾患の増加に対し、超音波治療装置が進化を遂げて、疾患の治癒、症状の改善を果たしつつあり、患者に朗報がもたらされている。

北斗病院が国内初、パーキンソン病治験で成功

 超音波治療装置では、超音波の集束本数が208本であったが、1000本以上へと技術が進化し、脳疾患への適用が可能となった。
 北斗病院(帯広市)は2016年5月30日、国内初となるMRガイド下集束超音波治療(MRgFUS)によるパーキンソン病の臨床研究を実施した。術後、被験者の手指の動きが滑らかになり、関節のこわばりにも改善が見られるなど、成功を収めた。

 治療装置は、インサイテック社の「エクサブレート・ニューロ」で、院内の既設MRIを活用し、患者脳内の淡蒼球(患部)を確認しながら高出力の集束超音波を照射し、50~60℃の熱で破壊(凝固)する。局所麻酔のため、治療中、患者に軽作業を行ってもらい、リアルタイムで効果を確認しながら治療を進めた。

 北斗病院のほか、新百合ヶ丘総合病院(川崎市)、彩都友紘会病院(茨木市)、大西脳神経外科病院(明石市)、貞本病院(松山市)が同装置を導入し、保険未適応の本態性振戦の治療をしている。

本態性振戦では10例で平均改善率80%以上

 本態性(原因不明)の振戦(意思に反しての手や頭の規則的な震え)は、40歳以上で4%、65歳以上で5~14%の罹患率で、高齢化の進展によって治療ニーズはさらに高まると予測されている。薬物治療が主であるが、薬物が効かない場合、これまでは開頭しての外科的な切除術や放射線治療、電極で視床(患部)に電流を流す深部脳刺激療法が行われているものの、侵襲性での高齢患者への負担や合併症および副作用のリスクが伴う。

 北斗病院では、先行して15年3月から本態性振戦に対する臨床研究を行い、これまでに10例の臨床研究を終え、治療側振戦の平均改善率80%以上と大きな効果を挙げている。
 本態性振戦に続いて、熊本大学医学部の山田和慶特任教授のもと、北斗病院副院長で脳神経内科部長の金藤公人医師および脳神経外科の古川博規医師がパーキンソン病の治験を行った。

 パーキンソン病の国内の患者数は10万人以上とされている。山田特任教授は「今後、臨床研究を重ね、より多くの患者の治療につなげていきたい」と述べ、金藤医師は「まだ試験段階で症例の積み重ねが必要だが、今回の成功は大きな一歩。手術だけですべての症状が取れるわけではないが、これで薬の量を削減できれば、抗パーキンソン薬の副作用に悩まされている患者にとっても、有望な治療の選択肢になるはず」と展望する。

 北斗病院では1年で10例の治療を目指しており、臨床研究終了後は、研究結果を踏まえ、継続的な治療の提供を検討していく。

 エクサブレート・システムの治療は、子宮筋腫など世界で8000人以上が受けているが、インサイテック社は治療対象疾患の拡大へ向けて、脳腫瘍、脳卒中、脳への標的薬剤伝達についての追加的臨床試験を進めている。

インサイテック社、女性疾患では8000人に治療

 インサイテック社は、1000本以上の超音波を集束させる「エクサブレート・ニューロ」を開発し、国内外でパーキンソン病、本態性振戦の臨床研究が進んでいるが、従来の超音波208本の「エクサブレート2000」では02年以来、子宮筋腫6000人や乳がんなど世界で計8000人以上が治療を受けている。

 日本では、子宮筋腫用にGEヘルスケア・ジャパンが10年から販売を開始。15年6月には大幅に改良した同2100を投入し、同年10月には有痛性骨転移がんによる疼痛緩和治療向けの装置を追加した。

 一般的には、MRガイド下FUS(Focused Ultrasound Surgery=集束超音波療法)と呼ばれ、保険未適応のため、乳がんで150万円程度、子宮筋腫で50万円以上とされる。

世界16カ国・国内38カ所でHIFU療法施行

 超音波治療装置では、タカイ医科工業(株)がHIFU(High Intensity Focused Ultrasound=高密度焦点式超音波)を用いた「SONABLATE500」を保険適応の前立腺肥大症と保険未適応の前立腺がん用に販売している。

 HIFUは、FUSと異なり、超音波の発生源が1個で、そこからの4MHzの強力超音波がレンズにより集束され、その振動エネルギーが組織の吸収係数に応じて熱に変換され、焦点領域の温度を80~100℃に上昇させることで、治療部位を凝固壊死させる。焦点領域以外の正常組織には影響を与えない。また、治療範囲を確認するのも超音波画像で、治療用の超音波を発生させるプローブに付帯しているため、装置は非常にコンパクトだ。

 前立腺がんは、欧米の最も多くの男性が罹患するがんで、日本でも食生活の変化などから、1975年の発症患者約2000人から、2000年には2.3万人、06年には4.2万人へと急増。20年には7.8万人以上となり、肺がんに次いで罹患数の2位になると予測されている。

 海外ではHIFU療法が16カ国で施行され、国内では38カ所の医療機関が施行する。世界で初めて99年1月に施行を開始した東海大学医学部付属八王子病院では、14年末までに1700件以上を施行し、転移のない限局性前立腺がん、術前血清PSA(前立腺特異抗原)20ng以下などが良好な結果となるとしている。

ホルモン療法と同等額も 待たれる保険適用

 同療法を手がける(医)社団ときわ会は、80万~100万円の費用がかかるが、これは月3万円×36カ月の保険適応の抗男性ホルモン治療費と同等である。しかし、治療成績は全摘手術と同等とされ、また、低侵襲かつ入院期間が約4日間で済むことなど、全摘を受けられない患者への適応が可能であり、保険適応に期待を寄せている。

 タカイ医科工業では、薬事申請を進めており、必要な追加データなどを揃えるなどして、早期の保険適応を目指している。

電子デバイス産業新聞 大阪支局長 倉知良次

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