電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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日本企業の根源にある「3つの競争力」


~IoT社会における日本のポジション~

2016/12/2

 ちょうど半年ほど前、本連載にIoT市場についてのインタビューを掲載いただいた。前回は自動車、産業機器からコンシューマー機器まで広範囲にわたるベンダーへのヒアリングをもとに更新している、当社のIoTデバイスの出荷予測がどのような希望的観測によって組み上げられ、現実はどのように推移してきたかについて触れた。

 今回は、読者の皆様が多く関与されている、日本企業や日本市場のIoT社会におけるポジションに少し踏み込んでみたい。

 図は2013~15年における主なIoTデバイス市場の成長率(CAGR、金額ベース)と日本企業のシェア増減のマトリクスである。まず、PCやスマートフォン(スマホ)といった主要IT機器のシェア低下が取り沙汰されるこの頃でありながら、いわゆるIoTデバイスといわれる製品分野で日系企業のシェア上昇がみられたことは特筆すべき点といえる。また、ここから大きく以下の3点の特徴が読み取れる。


 (1)ニッチ市場での積極的な関与。この3年間で日系企業がシェアを伸ばした分野はいずれも、スマホやウエアラブル機器などの巨大市場、急激に台数が増加した市場ではなく、成長率ではどちらかというと堅調に伸びてきた監視カメラやスマートメーターといった製品群が多い。一般的な経営の立場からいえば、マトリクス右上の高成長市場でのシェア拡大が理想的なポジションにあたるが、マクロ的に経済が成熟局面に達した日本で、多くの企業が爆発的な成長市場よりも、むしろ「身の丈」にあった規模の市場で自社の優位性を最大限に活用し、地位を盤石にしようという戦略の表れとも捉えることができるが、海外企業とのスピード感の違いともいえる。

 (2)BtoB市場での強み。前回のインタビューでは、自動車とヘルスケア関連IoTデバイス市場が予想を上回って成長していると説明したが、(1)にも関連してアジアを中心に急速に数量が増加したウエアラブルやコンシューマーヘルスケアといったBtoC製品では、日本企業は市場の成長スピードに遅れをとってしまう傾向に見える。一方、産業用ロボットや監視カメラといったBtoB分野では、BtoC向けでは競争が厳しいとされるアジアでも、日本企業の売り上げは伸びている。

 (3)ノンハードビジネス。市場の成長度合いにかかわらず、日本企業がシェアを伸ばした製品に見られるもう1つの特徴が、消耗品、サービス・メンテナンスといったノンハードビジネスの重要性の高さである。IoT化することで色々な機器が所有から利用(Pay per xx)モデルに変わることが予想されるため、今後はこの強みが競争力につながる可能性がある。

 筆者は、これらの3点はまさに日本のテクノロジー企業の競争力の根源であると認識している。

 一方、これだけの強みを持ちながら、主要IT機器におけるシェアの低下から、今後拡大が期待されるIoT市場でも日本企業が取り残されるのではないか、という懸念の声も多い。筆者はここで2つの課題を認識している。

 (1)スピード感の違い。前段(1)で申し上げたとおり、日本企業は急成長あるいは変化の激しい市場への関与に積極的でない。現在のところ掴みがたいIoT社会だが、機器のストックベースでの増加とともに急拡大する可能性があり、対応が必要となろう。

 (2)プラットフォーム化の弱み。日本のテクノロジー企業の競争力低下が言われる背景として、プラットフォーム化の弱みが指摘される。もともとITの世界でプラットフォームといえばアプリケーションを動作させる基盤だが、IoTのレイヤーに置き換えると、デバイスから生成されたデータを分析・活用するための土台になる。グーグルやクアップルが強力なプラットフォームでスマホ市場を席巻しているが、今後は他の市場も強力なプラットフォームに総取りされる可能性は否めない。

 筆者はこれらの課題に対して、M&Aやパートナーシップによる成長分野での経営の加速を1つの解決策として考えている。また、IoTデバイスで好調に事業を拡大している日本企業、とりわけオートメーションやロボットといった産業機器メーカーではプラットフォーム戦略に成功している事例も見られる。ファナックが代表例として挙げられるが、その特徴として、オープンかつ人工知能(AI)を活用した先進的なものでありながら、既存システムとの親和性などはユーザーフレンドリーで、モデルケースとして学ぶべき点が多い。

 その他業種やアプリケーションについても、今後は国内外の事例について検証していきたい。




IHS Technology アナリスト ジャパンリサーチ 大庭光恵、お問い合わせは(E-Mail : Mitsue.Oba@ihsmarkit.com)まで。
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