電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第177回

今、村田製作所が面白い


買収攻勢再び、「メトロサーク」など新規事業も立ち上がり

2016/12/16

 国内大手電子部品メーカーの村田製作所がさらなる成長機会を求めて、積極的な事業展開に打って出ている。2016年に入って再び企業・事業買収や外部企業との提携を相次いで発表するなど活発な動きを見せているほか、樹脂多層基板「メトロサーク」や新型SAWデバイスの「IHP-SAW」など戦略製品が続々と育ってきている。半導体・電子部品メーカーにおいて世界と渡り合える国内企業は以前に比べて少なくなっているが、そうしたなかでも同社は数少ないグローバル企業といえる――今、村田製作所が面白い。これまでの動きを振り返りながら、今後を展望する。

モジュール事業拡大の切り札

 村田製作所は積層セラミックコンデンサー(MLCC)事業を主力に、これまで事業を大きく成長させてきた。加えて、2000年代以降は圧電技術をベースにSAWフィルターが急拡大。MLCCと並ぶ事業の柱に成長した。スマートフォン(スマホ)が市場に普及して以降は加速度的な成長を遂げており、スマホのLTE化、多バンド化、CA(Carrier Aggregation)化によって、1台あたりの搭載員数は大きく拡大している。同社によれば、ハイエンドスマホのSAWデバイス搭載員数は20~40個(うちデュプレクサ7~13個、マルチプレクサ0~2個)となっており、年々その数は増えている。

 同社のSAWデバイス事業の今後の成長を語るうえで、同社が行ってきたM&Aは見逃せない。11年にルネサス エレクトロニクスからパワーアンプ(PA)事業を買収したほか、14年8月にはSOI(Silicon on Insulator)などシリコン系材料をベースとしたスイッチICを手がける米Peregrine Semiconductorを買収している(表参照)。現在、ハイエンドスマホなどでは部品単体実装でなく、PAやスイッチIC、フィルターを複合製品とするモジュール化が進展しており、1社でこれらRF部品を持っていることがモジュール事業を展開するうえで有利に働いている。ルネサスのPA事業買収やPeregrineの買収はモジュール事業を推進するための重要なピースであり、同社は当時から種まきをしていたことが分かる。


 スマホのFEM部におけるモジュール化はより一層進展しそうな勢いだ。これまで送信部はPAモジュール、受信部はアンテナスイッチモジュール(ASM)とフィルター/デュプレクサを複合化したFEMiD(Front End Module in Duplexer)と別々であったが、今後ハイエンドスマホではこれらFEMiDにPAを組み合わせたPAMiD(Power Amplifier Module in Duplexer)が主流になると見られている。

 同社のモジュール事業はこれまで、Low Bandと呼ばれる低周波帯域での採用にとどまっていた。Mid~High Band対応モジュールのRFフィルターにはSAWフィルターの競合製品であるBAW/FBARなどがメーンに使われていたため、モジュールの設計もこれらデバイスを持つBroadcom(旧Avago Technologies)など米系メーカーが存在感を放っていた。このことが、Mid~High Bandの高難度領域でモジュールビジネスを獲得できない理由の1つとされていた。

 こうした状況を打破するため、同社が16年後半から市場に投入しているのが新型SAWデュプレクサである「IHP-SAW」だ。従来のSAWデュプレクサに比べて温度特性や放熱性を改善しており、BAW/FBARの主戦場であったBand25やBand66での置き換えを可能としている。これによってMid~High Bandのモジュールデザインの獲得においても、米系メーカーと同じ土俵に立つことが可能となり、まさにモジュール事業拡大のための切り札的存在といえる。

3年後めどに1000億円

 IHPと並び、今後の同社の成長を担うものとして注目を集めているのが樹脂多層基板「メトロサーク」だ。メトロサークはMLCCで培った積層技術と、独自の樹脂シート技術を用いて、接着剤なしで一括積層プレスを実現した樹脂多層基板。薄型化に加え、接着剤層がないことから、耐腐食性にも優れる。さらに、通常のFPC(フレキシブルプリント配線板)と異なり、折り曲げた状態を保持できるため、コイルやコンデンサーなど機能を印刷技術で付加できることも特徴だ。これにより、単なる実装基板としてだけでなく、高周波特性を生かした伝送線としての役割も担えるほか、電池などをつけてシステム単体としても機能させられる。

 数年前からスマホに搭載されており、特定顧客への供給に限っていたため同社も外部への情報公開を極力控えていたが、今後は複数顧客への展開も可能となり、12月2日に都内で開催されたインフォメーションミーティングでも製品概要や事業戦略を披露していた。

メトロサーク商品部の皆さん
メトロサーク商品部の皆さん
 メトロサークの事業拡大に向け、これまで材料開発段階から協業関係にあった樹脂シート供給メーカーである(株)プライマテックを16年11月1日付で完全子会社化した。これは村田製作所の特色でもある垂直統合モデル実現のための施策であり、材料からデバイスまでの一貫体制をより強固なものとしていく。

 すでに年間で数百億円規模の事業になっているが、今後は複数顧客への展開が望めるため、3年をめどに1000億円の売上達成を目指している。

ソニーから買収の電池事業、産業・定置用に活路

 ここ最近のM&Aで唯一市場からネガティブな受け止められ方をしたのが、ソニーの電池事業の買収だ。16年8月に電池事業の取得を発表、10月末に両社で確定契約を締結した。17年4月上旬をめどに事業取得を完了させ、既存事業とのシナジーを追求していく。

 ソニーの電池事業はモバイル用を主力に事業を展開していたが、価格競争の激化から、収益が長年低迷しており、買収発表当時も業績の足を引っ張る存在になると懸念された。
事業取得後、今後は「電動工具など産業用、定置用を伸ばしていく」(藤田能孝副社長)考えだ。スマホなどモバイル機器向けも引き続き事業を継続し、同社の販売網を活用して有力顧客に入り込み、シェア向上を目指す。また、今後は次世代の電池技術として注目を集める全固体電池の開発にも力を入れていく。

 売り上げ面では産業用、定置用が大きく伸びる見通しで、20年度には非モバイル用が過半を占めるかたちとなる。年率10%の成長を目指し、20年度には売上高2000億円を狙う。損益面については、村田製作所が培ってきた生産技術のノウハウ活用や販売力を生かすことで、十分改善できるという。ただし、黒字化については、「17年度中の黒字化は厳しい」(同氏)と見ており、18年以降にずれ込む見通しだ。

 一連のM&Aや新規事業の立ち上げにより、さらなる成長を目指す村田製作所。半導体・電子部品需要はここ数年、スマホが牽引役となっていたが、その勢いにも陰りが見え始めている。同社の2010年以降のM&Aはまさにスマホのモジュール化を予見したものや、車載やヘルスケアなどスマホに依存しない多角化戦略に関連したものが多い。先手を打つ同社の一挙手一投足に今後も注目していく必要がありそうだ。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉雅巳

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