電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第203回

東芝 SDS社 社長 成毛康雄氏


3D-NAND「17年は勝負の年」
17年末めどに96層を製品化

2017/1/6

東芝 SDS社 社長 成毛康雄氏
 スマートフォン(スマホ)、SSD向けの需要拡大によって、好景気に沸くNANDフラッシュ業界。とりわけ、需要が強いエンタープライズ/クラウド向けSSDでは3次元構造の3D-ANDの採用が急拡大しており、当初見込みを大きく上回るスピードで、存在感を強めている。韓国サムスン電子と並び、大手の一角を担う(株)東芝も一連の事業構造改革を経て、いよいよ2017年からは攻めの姿勢に転じる。3Dにおいては「17年は勝負の年」と言い切る、ストレージ&デバイスソリューション(SDS)社の成毛康雄社長にNANDをはじめとする半導体事業の事業展望を語ってもらった。

―― まずは16年のNAND事業を振り返って。
 成毛 内外からボラティリティーが高いということもいわれていたので、当初は厳しめに見ていた。しかし、中国スマホが我々の予想以上に大容量化し、これが大きな上ぶれ要因となった。3Dについては48層品を量産化し、64層のサンプル出荷にこぎつけた。量産と言うが、「どこに載っているんだ?」という意見も頂戴したが、主要スマホの分解レポートで我々の3Dが搭載されていたことが認知され、大きな自信につながった。今年は3Dにおける「勝負の年」だと考えている。

―― 改めてNANDの需要環境は。
 成毛 需要は依然として強いが、供給がネックになっており、ビットはそれほど伸びない状況だ。我々のビット成長も現在は3Dの立ち上げに注力しているため、市場全体の伸びをアウトパフォームするのはこれからだ。足元は10~12月期が引き続き好調に推移した。旧正月明けは従来、いったん需要が落ち着くが、ユーザーの状況から今年はそんな余裕がないと感じている。

―― 64層の量産時期や歩留まりの状況は。
 成毛 すでに認定作業が始まっており、量産用ロットの投入も一部で始めている。アプリケーションはSSDを主軸に、もちろんスマホにも展開していく。量産立ち上げの途上なので、まだまだ歩留まりを改善していく必要があるが、予定どおりに進んでいる。2Dがメーンの時は経験則やノウハウをもとに業界でも微細化をリードしてきたが、3Dは未知な部分もあり、48層で「こんなことが起こるのか」というある種の驚きがたくさんあった。現在、3Dの開発には2Dで多くの実績・経験を積み重ねてきたメンバーが従事しており、48層に比べて64層の方がはるかに立ち上げはスムーズにいっている。

―― 3Dではコントローラーの優劣も重要です。開発状況は。
 成毛 スマホなどに搭載されるeMMC向けは、すべてのスマホメーカーの旗艦機種に搭載されており、実績を含めて自信を持っている。問題はSSD用コントローラーで、製品群が足りていなかったことだ。ハイエンド領域のSASでは強さを見せていたが、ボリュームゾーンのSATAやPCIeが不十分であった。3Dの立ち上げが韓国企業に比べて遅かったのは、2Dの微細化を重視してきたことに加えて、このSSD用コントローラーの競争力が足りていなったことが理由だ。

―― 対応策は。
 成毛 急ピッチでリソースを強化している。その一環として、ユーザーが集中するカリフォルニア州フォルソンにデザインセンターを新設した。16年5月時点で50人だったが、現在は200人体制と大幅に人員を増強している。200人規模になると一通りの仕事ができ、顧客の環境でSSDを評価できる体制を整えた。早ければ、16年度末から業績に寄与してくるものもあり、この拠点を軸にSSDは一気に競争力を上げられると考えている。これと並行して、大手サーバーメーカーなどとのあいだで、長期の供給契約も結んでおり、SSDとHDD双方を安定的に供給していく。

―― 16年度の設備投資額は2850億円ですが、進捗状況は。
新・第2製造棟の装置導入は16年度末に全体の7割にまで進捗する
新・第2製造棟の装置導入は16年度末に
全体の7割にまで進捗する
 成毛 間違いなくその分は使うが、上ぶれ余地も今後の需要動向ではあり得る。16年度の大きな投資案件であった新・第2製造棟(NY-2)への設備導入状況は、7月のタイミングで3割のスペースに製造装置が導入されており、現在は5割、16年度末に7割程度が埋まる見通しで、来期早々にはフルキャパシティーとなる。その後は今年2月から着工する新製造棟(Y6)への投資がメーンとなる。

―― Y6以降の工場手当てについては。また、海外での工場建設の可能性は。
 成毛 Y5の裏手に土地があり、地権者とのあいだで現在買収交渉を進めている。海外工場は検討しているが、かなり難しいと思っている。海外に進出する場合、インセンティブなどのメリットもあるが、国内の場合は開発から立ち上げまでをスムーズに行えるというメリットがあり、その効果の方を今は重視している。

―― 次世代の96層の開発状況は。
 成毛 我々がBiCS4と呼んでいる96層品は、今から1年後の17年末をめどに製品化したい。次の120層台も射程圏内だ。100層以上になると、深穴形成などが問題となってくるが、要はどう作るかだと思っている。例えば、128層を作る場合なら、64層品を別々に作ってコンタクトしていくというアイデアもある。

―― 今後の設備投資については。
 成毛 すでにアナウンスしているとおり、16~18年度の3カ年で8600億円を投じる計画で、従来の投資水準に比べてもう一段ギアを上げなければいけないと考えている。

―― 資金調達の手段として半導体事業の分社化、IPOの可能性は。
 成毛 現時点でIPOは特に具体的に考えているわけではない。いろんな選択肢の1つに過ぎない。NAND事業だけをみれば、2000億円の投資サイクルであれば、投資キャッシュフロー(CF)と営業CFでしっかりバランスしていた。しかし、これを3000億円レベルに引き上げようとすると、足りない部分が出てくる。この不足分を何らかのかたちで補う必要がある。まずは収益力を高めることが先決で、稼ぐ力があればお金を借りやすくもなるし、あるいはコマーシャルペーパーのようなものもあり得る。IPOは準備を始めてから約3年が必要なので、目先の不足金額については、別の方法を用いる可能性が高い。あるいはオペレーティングリースをこれまで以上に活用することも手段の1つだ。

―― ロジックやディスクリート事業の今後について。
 成毛 ディスクリートについて小信号、フォトカプラ、パワーデバイスなどがあるが、小信号とカプラは利益を出せる体制に変えることができた。今はとにかくパワーデバイスで利益を生み出せる体質にするべく、製品開発を強化している。具体的にはIGBTやパワーICなどだ。

―― IGBTはモジュールも強化していきますか。
 成毛 ベースは素子だが、社内のISS(インフラシステムソリューション)社ではモジュールに近いものもやっているので、そことの連携も模索していく。自動車用IGBTは加賀東芝エレクトロニクスを主力工場として、すでに量産を始めている。ワイドバンドギャップ半導体を用いたパワーデバイス開発については、GaN(窒化ガリウム)は当面マーケットがないと判断し、一連の構造改革でLEDとともに量産を目指していたチームは解散した。ただし、開発は継続している。SiCはフルモジュールを17年から展開していく。

―― システムLSIは。
 成毛 今頑張らなければならないのは車載用画像認識プロセッサーの「ビスコンティ」だ。現在はティア1向けに「ビスコンティ 4」の展開が進んでおり、開発レベルでは5に着手している。そのほかではローパワーのブルートゥース用IC、モーターコントロール用ICなど、システムLSI事業は得意とする部分だけを残してスリム化を図っている。

―― 岩手東芝をベースに、ファンドリー会社も新たに発足させました。
 成毛 新会社のジャパンセミコンダクターの稼働率は現在7割で、残る3割をファンドリーで埋めていきたい。8インチの稼働が世界的に活況なので、話はたくさんもらっている。サードパーティー向けの試作に取りかかっているが、業績に寄与してくるのは18年以降になるだろう。また、どこかのタイミングで製造装置を追加して生産能力を高めていく必要がある。大見得を切ってファンドリービジネスをやりだしたが、まだ人材面で不足感があり、ここを手当てしていきたい。

―― 最後に今後のさらなる構造改革の可能性は。
 成毛 一連の構造改革でメモリー以外の事業も「お荷物の状態」から脱却できた。HDDについても市場が縮小するといわれながらも利益を出せる状況になっており、市場が伸びるといわれるニアライン向けについても大容量品で認定が進んでいる。これまで構造改革として大ナタを振るってきた部分はあるが、ここでネガティブな大ナタはいったん終わりだ。

(聞き手・本紙編集部)
(本紙2017年1月5日号1面 掲載)

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