電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第181回

2017年の中国デバイス業界を大予測


デバイス市場と製造が全方面で大幅拡大!

2017/1/20

上海支局長が占う「今年の中国デバイス業界」

 2017年の中国のエレクトロニクス業界を展望すると、半導体やFPD、LED、太陽電池、リチウムイオン電池(LiB)の全方面で高い市場成長が予見される。製造については、先端半導体は世界トップクラスから2世代遅れで追いかけているが、その他のデバイスは世界トップ集団と競合するものが多い。LCDパネルや太陽電池、LED、LiBは完全に国産化し、日韓台メーカーを窮地に追い込んだものも少なくない。しかも、中国国内で大半の主要材料のサプライチェーンができており、技術力にさらに磨きがかかれば、日韓台メーカーはさらに厳しい状況に追いやられてしまう可能性も高い。

半導体

 世界のエレクトロニクス製品の工場となった中国は、大量のICを消費している。ICの輸入額は15年と16年に石油の輸入額を超えた。ハイテクシフトや情報セキュリティー技術の囲い込みのため、中国政府は先端半導体の国産化に多額の資金支援を与える方針を打ち出している。このような背景から中国で第2の半導体ブームが起きている。

YMTCの展示ブース(16年10開催のICチャイナ展示会)
YMTCの展示ブース
(16年10開催のICチャイナ展示会)
 半導体特需の波に乗って、中国最大のファンドリーのSMIC(上海市)は、20年に売上高3倍増(16年比)を計画している。そのために、上海市や北京市、天津市、広東省深セン市の全工場で設備投資を並行して実行する。北京では300mm工場のB2-Bを新設し、17年10~12月期に製造装置の搬入を始める。上海では300mm新工場のSN-1を建設(18年に装置導入予定)する。深センにも300mm工場を追加し、インテル大連工場から購入したとみられる中古製造装置を導入予定。天津では200mm工場棟を新設し、旺盛なCMOSイメージセンサーの需要に応えていく。
 中国の先端メモリー国産化を目指すプロジェクトも、依然として水面下で蠢いている。16年夏に紫光集団が合流して設立された長江ストレージ(YMTC)に国家メモリー計画は収斂されていくとものとみられたが、この他にも安徽省合肥市や江蘇省南京市、四川省成都市でも紫光集団やそれ以外の中国企業による300mm新工場計画が噂されている。マイクロン買収を一時断念した紫光集団は、サムスンや東芝とも接触しているとの業界関係者の談話もあり、中国の3D-NANDとDRAMの国産化プロジェクトはどのようなかたちでキックオフとなるのか、まだ一波乱ありそうだ。

FPD

 世界のテレビ市場は16年に2.2億台を超え、中国はそのうち1.7億台の液晶テレビを生産し、7000万枚弱の液晶パネルを供給したものとみられる。中国のテレビ市場は世界の3割弱の6100万台なので、中国は自国に必要な分量のパネルを国産化できているといえる。

 しかも、この中国のパネル製造の勢いは止む気配がない。今後3年でさらに複数の新工場が立ち上がる予定だ。モニター製造のHKC(広東省恵州市)は17年前半、重慶市に8.6G工場(月産能力7万枚)を稼働させる。BOE(北京市)やCSOT(深セン市)は、大型テレビ用に有利な10.5G工場を建設し、18年後半~19年前半に量産開始を予定している。

 中国勢が10.5G工場で製造するようになると、8.5G工場中心の台湾企業は不利になる。グループ傘下にパネルメーカーを持つフォックスコンは、広東省広州市に10.5G工場を建設する計画を検討し始めた。

上海市の大型スーパーのテレビ売り場の様子
上海市の大型スーパーのテレビ売り場の様子
 アップルが有機ELパネルを初めて採用するとみられる17年は、スマホ業界にとって有機ELパネルが普及する第2ステージともいえる。中国スマホメーカー各社も有機ELパネル搭載の意向を持ち、中国のパネルメーカー各社も「スマホ用有機EL特需」を狙った6G工場の建設計画を進めている。中国では今後、8件の有機ELパネル工場(月産能力25万枚)が立ち上がる予定がある。中国のパネル工場投資は20年まで休む間がないようだ。

LED

 LED業界は11年以降にMOCVD装置の過剰設備の状態が続き、業界企業の淘汰・再編の嵐が吹き荒れた。そのおかげでLED照明の価格は劇的に下がり、世界中で普及が加速度的に進行した。LED照明の値段は今も値下げが続き、15年と16年は年平均22%も下落した。しかし、16年8月に業界最大手のサンアンオプト(三安光電、福建省厦門市)がLEDチップの価格引き上げを発表。17年1月にも一部製品の8%の値上げを実施した。LED業界の再編は収斂に向かっているシグナルとも読み取れる。今後は勝ち残った大手メーカーが市場を寡占化する時代になっていくだろう。

街灯や信号、屋内照明などLEDの需要が拡大している
街灯や信号、屋内照明など
LEDの需要が拡大している
 17年は年間320台のMOCVD装置が出荷されるものとみられるが、そのうち200台(全体の62%)を中国企業が買い占める。MOCVD装置の買い占めにより、中国のLEDチップの生産能力は世界の8割近くに到達している。8年前にたった1割しかなかった中国のLED工場の生産能力は劇的な発展を遂げたといえよう。17年はサンアンオプトやHCセミテック(華燦光電、湖北省武漢市)、アウクサン(澳洋順昌、江蘇省張家港市)、虹藍光電(安徽省合肥市)などの勝ち組企業が計200台のMOCVD装置を新規導入する。

太陽電池

 16年の中国の太陽電池市場は、夏に実施された中国の太陽光発電設備の補助金の減額措置が原因で上期にビジネスが集中し、後半に激減するバランスの悪い年となった。17年も7月に補助金減額が予定されているため、上期は納期が厳しく、下期は工場の稼働が停滞する16年と同じようなことが起きる可能性が高い。しかし、中国の太陽電池市場は17年に25~30GWの導入が見込まれ、世界の3分の1の太陽電池を消費する巨大市場に変わりはない。

 中国政府は工場や家屋の屋根などに設置する分散型発電方式の拡大に注力しているが、依然としてメガソーラー向けが中国市場の主力だ。甘粛省や寧夏自治区などのゴビ砂漠地帯に巨大なメガソーラーを建設してきたが、系統連系で取り込む電力と消費する電力のバランスを考えると、これ以上のメガソーラー建設はできない。また、全国的に見ても建設コストが安い土地はだいぶ少なくなり、今後は新たな用地確保が必要となる。

中国政府は2020年に累計導入量150GWを計画している
中国政府は2020年に
累計導入量150GWを計画している
 メガソーラーの新たな建設候補地として注目されているのが、炭鉱の跡地だ。PM2.5の削減や老朽化した過剰設備の淘汰のため、中国政府は生産効率の低い炭鉱に対して閉鎖命令を出している。15年に6000社あった炭鉱企業を、20年には3000社以下に半減させる目標だ。炭鉱数も15年の9700カ所から20年には6000カ所に削減を計画している。今後4年間で大量の炭鉱跡地が発生することが予見され、その有効活用法としてメガソーラーを建設しようと中国政府は考えている。

LiB

 中国政府のエコカー補助金により、電気自動車(EV)やプラグイン式ハイブリッド車(PHV)の普及が中国で加速している。これまでLiBの最大用途はスマートフォンなどのモバイル端末やパソコンだったが、16年は電動車両用のLiBが蓄電容量ベースでモバイル用と並んだ。17年は電動車両用がモバイル用を上回るのは確実な情勢だ。

 電動車両用のLiB市場は16年に29GWhに達したものとみられる。急速な市場の伸びとLiB工場の生産能力の急拡大に対し、正極材や負極材、電解液などの材料メーカーの供給が間に合わず、16年中期にLiBの供給が需要に追いつかない事態となった。1~3月期のLiB出荷量の6.8GWhに対し、4~6月期は5.9GWh、7~9月期は6.3GWhとダウン。そこから10~12月期には9.6GWhに急増した。

中国の自動車メーカーはエコカー販売になだれ込んでいる
中国の自動車メーカーは
エコカー販売になだれ込んでいる
 16年は中国で50.7万台のエコカーが出荷された。このうちEVは40.9万台(前年比65%増)、PHVは9.8万台(同17.1%増)だった。17年のエコカー出荷は70万台との予測もある。中国は世界最大のエコカー市場、生産国となった。エコカー補助金が続く、20年には160万台の市場に拡大するものとみられる。

 このように中国では、17年はどの電子デバイスでも大幅な生産拡大が予測される。特に太陽電池やLEDは過剰生産能力の調整がつき、大手メーカーが勝ち組集団を形成している。LiBは20年に向けてまだ生産能力の増強が続くが、19年ごろには工場淘汰や業界再編の厳しい状況に突入していくものと考えられる。

電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善

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