電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第182回

NEDIA戦略マップを読み解く(2)


~技術と市場の方向性~

2017/1/27

 日本電子デバイス産業協会(NEDIA)発行の「NEDIA戦略マップ2015」。今回はその読み解きの2回目となる。初回は“きづき”の作業について解説した。あらかじめ目標が設定された、かつてのロードマップからは新市場は浮上してこない。社会に貢献できること、多くの人が喜ぶこと、これらを模索することが“きづき”の作業であり、その延長線上に初めて新市場が姿を現す。

 ただ、この作業は目先の収益を追う中高年には不向き。柔軟な発想と時間の猶予が許された、若者への提言となる。若者は“きづき”の作業を実践する際、上司や先輩とマインドを同じにしてはならない。技術の方向性と市場の方向性を見定め、時代が「モノ」から「コト」に動いていることに注意を払う必要がある。モノとは製品もしくはハードの意味、コトとは付加価値もしくはサービスの意味合いである。

 今回は市場価値がモノからコトに移り変わっていることを背景に、“きづき”の作業で重要となる2つのファクター、技術の方向性と市場の方向性について解説する。読み解きを担当するのは、前回と同様、NEDIA戦略マップ作成者の1人である松本哲郎氏。松本氏は日立製作所の出身で、半導体産業研究所(SIRIJ)勤務の経歴も持つ。

ASICのしくじりとASSP

 技術と市場の方向性を見定めようとするとき、一番大切なことは、顧客とのコミュニケーションである。顧客からのニーズに対し、「なぜ」との疑問符を付け、その背景や理由も顧客と共有し合うことが重要になる。これを繰り返すことで方向性が目の前に浮上し、また同時に、市場が求めるコトの正体も姿を現してくる。

 かつて半導体産業は、How to make(メモリー)からWhat to make(ロジック)にビジネスの主軸を移した。このとき、日本陣営は「What」を「顧客の要求するスペック(仕様)」と解釈し、特注品であるASICの道を走った。顧客の求める仕様を遵守し、微細化技術を駆使して、ひたすらASICを供給し続けた。この結果、確かに顧客数は増えたが、大きな収益を得ることはできなかった。

 一方、外資系半導体メーカーは、「What」を「提案力」と解釈した。このため、採択した戦略商品は、特定用途限定の標準品であるASSP。用途は限定されていても、標準品のため、スペック完成度は100のうち90も満たせば申し分ない。残り10を、顧客が喜ぶ性能や機能、特性を付加することに費やした。
 これを実現するために不可欠なのが、顧客とのコミュニケーションであり、ニーズの背景を互いに共有し合うことが重要となる。この作業の連続の上に、新市場が見え、かつコトの姿も見えてくる。もちろん、数多くの顧客と会話を重ねることで、顧客からのフィードバックは膨大な量となり、ビジネス推進に大きく寄与してくれることは言うまでもない。

技術の方向性の基本

 今後、顧客とのコミュニケーションを重ねるにおいて、意識した方がよいのが、技術と市場の方向性のベースとなる考え方である。

 技術分野においては、4つの言葉がキーワードになると提案している。(1)無給電、(2)自己成長、(3)意味理解、(4)百年耐久。言葉だけで想像できるワードもあるが、意味不明の言葉もある。まず、無給電とは、電源の心配をほとんどなくすことを指す。自己成長とはアップグレードのこと。アップグレードで新品と買い替えでは、顧客は喜ばない。ソフトウエアで対応可能など、AI(人工知能)も活用する方向に向かう。

 3つ目の意味理解とは、ADAS(先進運転支援システム)に近い考え方。センサー情報や履歴情報から、状況をより詳細に理解する技術を指す。今後は様々なセンサー情報を組み合わせ、ワンランク上の情報提供を可能とするであろう。また、様々な行動や表情から、状態を推し量る技術も生まれてこよう。

 そして最後、4つ目の百年耐久は、文字どおり長寿命化を示唆する。長寿命化と切り離せないのがIoTである。今ではまだ特別視されるIoTだが、やがてはパソコンやスマホと同様、空気のような存在になる。あらゆる商品のIoT対応が当たり前となり、センサー類など、あらかじめ組み込まれた状態で市場に投入される。これまでのいつか壊れることを前提とした商品設計から、壊れないことを前提とした長寿命設計へと技術は進化する。


市場の方向性の基本

 市場の方向性に関しても、IoT(ネットワーク=つながる)を軸において、キーワードを3つ提案している。(1)驚き提案と(2)自分仕様、そして(3)隠れた機能である。

 驚き提案とは、文字どおり顧客をわくわくさせ、購買意欲を生む商品開発を指す。ドローンやお掃除ロボット、吸引力抜群の掃除機、特殊仕様のヘアードライヤーや扇風機など、昨今のテレビCMにも姿を見せ始めた。顧客に幸せを提供する商品群である。

 2つ目の自分仕様とは、電子機器メーカーが搭載デバイスに求めるニーズ。自社だけのチップ、自分仕様のチップを自前で作る傾向、顧客が自分向けを作る流れがある。3つ目の隠れた機能とは、もはや口にするまでもなく、組み込まれているべき機能を指す。IoTもそうだが、安心・安全、セキュリティーなど、あって当たり前のものが対象となる。ICTがますます社会に溶け込んでいく時代に、社会が絶対的に求める機能である。

 技術の方向性と市場の方向性を見定め、モノにコトを乗せれば、新市場を切り拓くチャンスが大きく広がるのではないか。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松下晋司

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