電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第233回

6年前に比べ東証1部時価総額は2倍の571兆円となった


~それでも企業は大型投資にためらい、給料上がらず消費は爆発せず~

2017/5/12

 熊本地震の本震が来た時に、筆者はお隣の鹿児島県下のホテルで寝ていた。夜中であったからスマホにすさまじい警報が発信され、一晩中寝られなかった。それでも根性出して熊本企業のいくつかに電話して一定の状況は把握したのだ。ボケボケの頭で朝一番に東京編集部に電話し状況を伝えたところ、部下に冷たく「ところで何の用事があって鹿児島のホテルにいるんですか」と聞かれて慌てた。

 何もやましいことをしていたのではない。地震が起きることなど想定できないので、当初より鹿児島での講演および企業回りが入っていただけなのだ。それでも、部下の疑わしい声で「一人で寝ているのですか。まさかツインをとっているのではないでしょうね」などと言われれば、つい慌ててしまうのが人間というものだ。ツインではなく、ものすごく大きなダブルベットに一人で悶々と寝ていたのだから特に問題はない。

 東日本大震災の時には東京・西荻窪で、あの恐ろしい揺れに遭遇した。電柱が木のようにしなり、全く立っていることができず、商店街の路上に座り込んでしまった。その後何とか固定電話を探し、会社に電話したが、その時も部下は冷たくこう言い放った。「何で西荻窪にいるんですか。そこに半導体企業はいないでしょう。ちょっとおかしい」

 この時も何もやましいことはないのに胸騒ぎのする思いがした。とんでもないことが起きた時にどこにいるのかで人生は決まってしまうことがある。この2つの大地震の時にあやしいホテルに籠っていたカップルは、どんな思いをしたことだろう。

 それはともかく、東日本大震災に直撃されたわがニッポンは、この時に経済状況もどん底となった。2011年末の日経平均は8455円、円相場は何と1ドル77円56銭、東証1部の時価総額は255兆円まで落ち込み、いかにニッポンひとり負けの状況であったかがよく分かるだろう。それだけ東日本大震災の与えたインパクトはすさまじいものがあった。

 さて、東日本大震災から5年後の16年末に至って、日経平均は2倍の1万9114円となり、東証1部の時価総額も倍増し571兆円まで膨らんだ。それでも豊かさの実感があまりないのは、給料が目に見えて上がってこないからだ。そしてまた企業は、得た利益をひたすらに貯蓄し、思い切った研究開発投資、大型設備投資に踏み切ることをためらっているケースが多い。

安倍総理は「大幅賃上げ」をいつも要請するが企業の動きはにぶいのだ
安倍総理は「大幅賃上げ」をいつも要請するが
企業の動きはにぶいのだ
 金は天下の回り物であり、国や地方自治体がとにかく景気を刺激するのだ、という不退転の決意で公共投資を拡大すれば、必ず戻ってくるものは多い。そしてまた企業が何としてもデフレを脱出し、高度成長の時代に戻すという決意をすれば、数年間にわたる大幅な賃上げを断行するだろう。そうなれば、必ずや消費に火がついて日本は景気の正循環に突入する。

 まるでぬるま湯のような状況で、風呂から上がることができないのが現状のニッポン経済なのだ。もちろん個別企業を見れば、よくぞここまで、というぐらい思い切った投資と賃上げを実行しているところも多い。また上場企業の配当は16年度で11兆8000億円となり、2年連続で過去最高、リーマンショックを受けた09年度に比べ倍増した。6月決算が終わってみなければわからないが、おそらく16年度の企業業績は2年ぶりに過去最高を更新することは間違いない。

 こうした状況下で日経平均株価は2万円の大台を前にうろうろしているばかりだ。官も民も併せて「行くぞニッポン。ガンガン投資するぜ」という気合いを見せれば、海外投資家が牽引して株価は一気に上がっていくだろう。それができえないもどかしさがある。トランプ効果でニューヨーク株は1月25日の段階で史上初めての2万ドルの大台に乗せてきた。米国ダウ平均はこの18年間で2倍の水準に達したのだ。ああ、それなのに、日本の株価は上昇気流に乗り切れない。

 それでも、半導体設備投資の世界的拡大を受けて半導体関連株は実にすばらしい動きを見せている。5月初めの時点で装置大手の東京エレクトロンの株価は13.34%高を記録した。超純水大手の野村マイクロサイエンスも同じく15.42%高となった。内外テックも同13.11%高となり、市場を驚かせている。日本勢が強い半導体製造装置、半導体材料などの分野の有力企業の多くは、この1年半で株価が2~10倍に跳ね上がっている。この勢いを全産業に広げていってもらいたいものだと切に願っている。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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