電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第234回

「ゴジラ」は人類悪の生み出したもの、永遠に不滅なのだ


~神の領域に踏み込むことはNo!という強烈アピール~

2017/5/19

新宿歌舞伎町にあるゴジラのレプリカ
新宿歌舞伎町にあるゴジラのレプリカ
 5月の連休に新宿の雑踏を歩いていたら、ビルの谷間の向こうにとんでもないものが見えてきた。近づいてみての衝撃はすごかった。何と「ゴジラ」が顔を出していたのだ。面白がっている人たちはみなスマホで撮影していたが、筆者はゴジラのいる風景が架空のものとはとても思えなかった。

 考えてみれば、どれだけ多くのゴジラ映画を観てきたことだろう。さすがに第一作のゴジラは昭和29(1954)年の公開であるからして、もちろんリアルタイムには観ていない。筆者が初めて観たゴジラ映画は小学校5年の頃で、タイトルは「キングコング対ゴジラ」であった。日米の巨大怪物の対決をあおる映画だったが、実に面白く超興奮したことを覚えている。ただ、ラストはキングコングの勝利に終わったかのように描いており、子供心にも「ああ、日米安保条約がある限り、日本のゴジラは米国のキングコングには勝てないのね」とませた考えを持ったものだ。

 一番強烈であったのは、84年に9年ぶりに製作された「ゴジラ」であった。復活したゴジラは原発を目がけて突進し、その放射能をいっぱいに吸い込み、おなか一杯で満足し暴れまくる。例によって自衛隊はまず勝てる見込みもないままにゴジラと対決し、惨々に打ち破られる。この時の主役の生物学博士を演じたのが夏木陽介であり、コーヒーを飲みながら深くうなずきこう語るのだ。

 「その化け物(ゴジラ)を創り出したのは人間だ。人間の方がよっぽど化け物だよ」

 実は、このメッセージはゴジラ映画を貫く根幹のテーマであり、子供の頃には分からなかったが、二十数本の作品を観た結果として、ひたすら「反原発」「反核兵器」を呼びかけている製作側の意図がはっきりと分かってくる。そう、すなわちゴジラ映画は子供を対象にした怪獣映画に見せかけて「原子力を活用しようという人類への警告」を繰り返し、繰り返し語っているのだ。

 84年版ゴジラでは、手のつけられないゴジラに対し、米国大使館、ソ連大使館から「戦略核兵器を提供するので、新宿エリアでやっつけてしまえ」という案が出され、時の日本の総理大臣(配役は小林桂樹)は深く苦悩する。そして、静かにこう言うのだ。「核は持たない。持ちこませない。作らない。この非核三原則は我が国の動かぬ方針である」

 これに対し、米国代表、ソ連代表から「原則論にこだわるな。今すぐ核兵器使用の決断を」と迫られるが、我が国の総理は決して首をタテに振らない。そして、米国の大統領、ソ連のトップを電話で説得し、タバコをつらそうに吸いながら、こうコメントする。

 「両国の首脳は分かってくれたよ。もしあなたの国で、ワシントンやモスクワで核兵器を使うとしたら、あなたはそれを容認できますか」

 こうしたゴジラ映画の強烈なアピールにもかかわらず、世界は核戦争の恐怖を抱えたまま、突っ走るばかりであった。米国のオバマ前大統領が反核の訴えを強く追及したものの、あのどうしようもない国、北朝鮮のトップは「いつでも核ミサイルを使ってやるぜ」と啖呵を切っている。朝鮮半島の軍事的不安は今もって消し去ることができない。

 「原子力発電は絶対安全」と言い続けてきた政治家、学者たちは、旧ソ連のチェルノブイリ事故、東日本大震災における福島原発の大惨事を前にして、最近ではほとんど口をつぐんでいる。原発大国フランスにおいても、その核弾頭ともいうべき会社、アレバが経営破綻し国営化されてしまった。そして、米国における新たな原発建設がいかに難しいのかを証明したのがウエスチングハウスの工事遅れであり、その煽りをくらった東芝は会社存続の危機にまで追い詰められた。

 ゴジラ映画が何回も発していた警告はまさに現実のものとなっていたのだ。シェールガス革命の推進により、化石燃料は少なくとも100年以上は延命できることがわかった。水素エネルギー、バイオマス発電、水力発電、地熱発電、そして太陽光発電という原発に代わるエネルギー推進の政策も各国で加速している。

 ゴジラはこうした事態を先読みし、今日も北極海の向こうで、生まれ故郷の伊豆大島で、またはモスラの住むインファント島で吠えまくっているかもしれない。「神の領域に踏み込んだ開発はNo!」というゴジラの雄叫びは、もしかしたら人工知能(AI)、遺伝子操作、さらには宇宙開発に対しても発せられているかもしれない。

 それにしても、最新作の「シン・ゴジラ」もまた超面白かった。何でも次の作品は再び「キングコング対ゴジラ」を作るともいわれており、今からこれを心待ちにしているのだ。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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