電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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アヴネットよりアローの戦略に注目


~変わる半導体商社の立場・役割~

2017/5/19

 チャートを見ていただきたい。2社の株価動向を1年分トレースしたもので、2016年12月からほぼ横ばいを維持しているのがアロー・エレクトロニクス(以下アロー)、下がっているのがアヴネットである。さらに、4月27日に発表されたアヴネットの四半期決算が芳しくなく、同社の株価は1週間で44.58ドルから36.80ドルまで下落。一方のアローは、5月4日に発表した四半期決算が好調で、株価は2日間で72.04ドルから76.54ドルに上昇した。

アヴネットとアローの株価
アヴネットとアローの株価

 筆者はこれまで「メガ・ディストリビューターが半導体商流のカギを握る。特にアヴネットの日本市場進出が日系半導体商社にとって脅威となる」と主張してきたが、そのアヴネットにも課題があることが浮き彫りになりつつある。

 もっともこれは「日系半導体商社にとってプラスになる」という都合の良い話ではなく、商社の立場・役割が変わろうとしていること、そしてメガ・ディストリビューターでさえも避けて通れない流れであることを示唆している。今回はその点について述べてみたい。

両社の相違点

 半導体メーカー同士のM&Aが多発していることは周知のとおりで、これが半導体商社にも少なからぬ影響を及ぼしている。例えば、アヴネットを代理店に持つメーカーと、アローを代理店に持つメーカーが合併したことで、新会社がアヴネットとアローの2社を代理店に持つようになった事例も多く存在し、このままの商流体制を維持するか、どちらか一方に集中させるか、新会社としては何らかの判断基準を持ち出して代理店戦略を再考することになる。

 ここで興味深いのは、アナログデバイセズ、サイプレス、スカイワークスなど、複数の半導体メーカーがアヴネットとの代理店契約を解消する動きに出ているという事実だ。アヴネットが切られたり、アローが切られたりというのではなく、明らかにアヴネットに逆風が吹いている、というのが現状のようだ。16年12月以降の両社の株価動向も、その現状を反映したかたちになっている。

 これまで数多くのディストリビューターが共存していた半導体業界で、M&Aを繰り返してこの2社が代表的なメガ・ディストリビューターとして君臨し、並び称される機会も多かったが、実はいくつかの相違点も存在する。

 例えば、どちらもM&Aを繰り返してきた点は類似しているが、アヴネットは買収した企業の組織を自社内に積極的に組み込もうとするのに対し、アローは買収した企業にあまり手を加えない、という違いがある。シナジー効果を早く求めるのであればアヴネットのやり方が効果的だが、買収された企業のモチベーションを維持できるか、といったリスクも発生する。一長一短あるので、どちらが好ましいかはケースバイケースだろう。

 ターゲット顧客として、アヴネットは大手顧客にこだわる傾向があり、アローは中堅顧客を重視する傾向が強い、という違いもある。概して、大手顧客は販売効率が良い代わりに高マージンを期待できない、中堅顧客は販売効率こそ良くないがマージンを稼ぎやすい、という差異があるが、一般に半導体メーカーから見れば、大手顧客は直販、中堅以下は商社経由、というスタイルが望ましい。つまり「アローの戦略の方が望ましい」と考える半導体メーカーが多いはずである。

Web戦略が影響

 これらの相違点は長年にわたって言われてきたことであり、今頃になってアヴネットの逆風要因になったとは考えにくい。では直近の逆風要因として何が考えられるのか。この謎を解くカギとして、半導体メーカー各社のWeb戦略に注目する必要がある。

 言うまでもなくWeb戦略は、マーケティング戦略の一環として極めて重要な役割を担っており、ターゲット顧客を自社のWebサイトに誘導するためにどうリンクを張るか、誘導してからどんな情報をどう見せるか、各社とも様々な工夫を凝らしている。Web戦略こそがマーケティング戦略の集大成、と言っても過言ではないだろう。そしてこの戦略の出来が良いと、自社および商社の営業活動の負担を大幅に減らすことも可能なのだ。

 例えば、テキサス・インスツルメンツはWeb戦略を充実させることで、どの顧客がどの情報にアクセスしたかを管理し、その際に行うべき営業活動をマニュアル化して、徹底的な営業活動の効率化を図っている。世界中に10万社の顧客がいて、商社を活用しないと営業活動が行き届かない、というかつての人海戦術型マーケティング戦略を大きく変えようとしている。

 Webの活用でマーケティング活動の効率化が図れるとなれば、商社に対する期待も徐々に変化する。「売り込み活動は不要だから、商社は物流業務に徹して下さい」という声も増えつつあるのが現実だ。物流業務に徹する商社に高マージンは渡せない。事実、アヴネットもアローも粗利率が低下する傾向にある。この状況下で商社が生き残るためには、販売管理費を最小限に抑えることが極めて重要なのだ。

 半導体メーカー各社の声を聞く限り、アヴネットに比べてアローの方がこの状況に対する割り切りが早く、物流業務の効率化を進めて低マージンの条件を受け入れることができている、という。アヴネットかアローか、どちらか一方を選ぶなら、答えはおのずと出てしまうのが現状だろう。

 世界最大のメガ・ディストリビューターとして半導体業界の商流をリードしてきたアヴネットでさえ、時代のニーズに対応し切れないとこうした問題に直面してしまう。しかし冒頭で述べたように、「日系半導体商社の存在を脅かすアヴネットに逆風が吹けば、日系商社にはプラス」などという話ではなく、すべての商社が直面している問題として考えねばならない。物流業務の効率化でアヴネットをリードするアロー、もともと低マージンで徹底的に物流を効率化しているWPGの体制から、各社は対応策を学び取る必要がある。

IoTの活用がカギ

 筆者はかつてこのコーナーで、日系半導体商社はこのままでは生き残ることが難しい、「規模」を追いかけて売り上げを増やすか、「深さ」を追いかけてマージンを追求するか、明確な戦略を掲げるべきだと主張してきた。規模を追求するにはM&Aが不可欠で、一部でそうした動きも見られるが、商社の方々と面談してきた限りでは、深さを追求しようとする商社が過半を占めているような印象を受けている。

 しかし、すでに述べたように、半導体メーカー側は「物流業務に徹してもらいたい。マージンは渡せない」というスタンスに傾いている。では商社自身が追求できる「深さ」には何があるだろうか。答えが簡単に見つかるとは思えないが、「IoTの活用」がカギになるのではないか、と筆者は見ている。

 IoTについてはあちこちで様々な事例が紹介されており、ここでの詳細な説明は割愛するが、「既存の資産を有効活用する」「手間を省いて効率化を図る」という着眼点が重要で、IoTで何らかの新しいサービスを提供できる人(会社)が利益を獲得できる、という事実に注目すべきだ。半導体商社は卸売業を主にしているわけだが、この業務だけで十分な利益を稼げない以上、独自のアイデアで新しいサービスを付加し、その価値を顧客に認めてもらう努力が必要だ。顧客が求めている情報をどう収集するか、それをシステマティックに行うにはどのような仕組みが必要か、といった発想を持ちながら、物流以外のサービス提供を実現することが各社に求められているのではないだろうか。




IHS Technology 主席アナリスト 大山聡、お問い合わせは(E-Mail : Satoru.Oyama@ihsmarkit.com)まで。
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