電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第242回

広島は「野球」だけではなく官民ファンドでもローカル最大


~100億円を超える資金投入で事業承継など支援~

2017/7/14

 ここ数年のセントラルリーグの野球シーンは、まさに広島カープ主役で進んでいる。2017年7月初めの時点においても、まさにブッチ切りの強さを見せつけており、貯金は早くも20以上を積み上げている。筆者は横浜生まれ、横浜育ちであるからして、当然のことながらDeNAベイスターズの熱狂的ファンであるが(現在は3位で大健闘中)、あまりに強すぎる広島カープの姿がまぶしく見えて仕方がないのだ。

 それはともかく、官民ファンドによるイノベーションの推進という点でも広島が抜きん出ていることを知らない人が多い。最近になり、産業革新機構のローカル版が出てきているが、広島はトータル100億円を超える規模でのファンドを立ち上げ、2023年末まで存続させることを決めている。広島の場合は最先端ベンチャー重視というよりも、中堅企業の活性化にかなりフォーカスしていることが特徴だ。

 「ローカル版の官民ファンドとしては、広島は類例を見ないほどのスケールとなっている。1号出資で40.55億円、2号出資で65.2億円を投入し、経営参加型の支援までカバーしている。また次世代の役職員への事業承継にかなり注力している」

広島イノベーション推進機構 代表取締役社長 尾崎 清氏
広島イノベーション推進機構
代表取締役社長 尾崎 清氏
 こう語るのはこの官民ファンドの運営会社である(株)ひろしまイノベーション推進機構の代表取締役社長である尾崎清氏である。尾崎氏は広島を代表する企業であるマツダにあって代表取締役副社長の重責を務められた方であり、フォードとの合弁事業の立ち上げ、財務やコストの革新などに活躍されたキャリアを持つ。

 「マツダはグローバル企業であるが、ひたすら自動車だけを追求してきた企業である。この官民ファンド運営会社の代表をやらせていただいて驚いているのは、広島には多種多様な企業が林立していることだ。そしてまた、たくましい多くの中堅企業の存在を知った。この人たちが日本経済の本当の強さを支えているのだと思えてならない」(尾崎社長)

 さて、広島にあっても全国の中堅企業が抱えている問題はやはり顕在化している。すなわち、人材不足、資金力不足、労働条件の低さなどが指摘されており、そして何よりも「跡取りがいない」、すなわち事業承継がうまくいっていないということだ。

 「広島県では75%の企業で社長後継が決まっていない。これは全国でワースト3という不名誉な状況なのだ。何としてもこれを解消しなければならない。外部からのサポートが今こそ必要なのだ」(尾崎社長)

 尾崎氏によれば、マツダの場合はフォードという外部から多くのことを学んだ。フォードは外部の目であり、変革の触媒になったという。そしてまた、ファンドも外部の目であり、思い込みや馴れ合いなどを極力排し客観的な戦略を推進できるというのだ。官民ファンドの持つ武器は何といっても資金力、人材提供、ネットワークであり、広島企業の前進的な継続を支えていくと明言している。

 思えば、万年下位球団といわれた広島カープは、熱狂的な広島ファンに支えられ、今や第2の黄金時代(第1はおそらく古葉監督の時代)を迎えている。横浜DeNAファンとして言わせてもらえば、広島球場はまさにフランチャイズの正しさを証明しており、人気球団の巨人が来ようと阪神が来ようと広島ファンの比率が圧倒的に多い(あああ、それなのに横浜スタジアムの巨人戦はホームゲームなのに70~80%が巨人ファンなのだ)。

 マツダがSKY ACTIVEという画期的な技術で復活成長してきたことは、誰もが知っている事実だ。広島の中堅企業に必要なのは、マツダと同じく選択と集中で新たなイノベーションを巻き起こし、広島カープの強さに学び、きっちりとした事業承継を達成していくことだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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