電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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電子化で自動車産業は「フラット化」


~11月30日 世界の5G&IoT産業分析セミナー(1)~

2017/11/2

プロジェクトマネージャー 杉山和弘氏
プロジェクトマネージャー 杉山和弘氏
 大手調査会社のIHSマークイット テクノロジー部門は、11月30日に東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)で5G&IoTをテーマにしたセミナーを開催する。今回から3回にわたって登壇アナリストに注目の講演内容を聞く。第1回は、自動車市場を巡る半導体業界の動きを追うプロジェクトマネージャーの杉山和弘氏に話を伺った。

 ―― 杉山さんは半導体メーカーのご出身ですね。
 杉山 半導体の製造から設計まで幅広く担当させていただき、前職ではIoTデバイスのネットワークからゲートウェイの構築にも携わった。その経験を活かし、現在はADASやインフォテインメントといった自動車の技術トレンドや車載半導体のサプライチェーンなどを調査している。

 ―― 自動車用半導体業界をどう見ていますか。
 杉山 携帯電話からスマートフォン(スマホ)への移行で起きたのと同じことが、自動車用半導体でも起きているとみている。モバイル市場では、スマホの登場でノキアからアップルに中心が移ったが、自動車用半導体市場では安全・安心機能の普及や自動運転の実現に向けて、インフィニオンやルネサス、NXPといった既存半導体メーカーに加えて、インテルやクアルコム、エヌビディアといった新興勢力が存在感を強めてきている。

 ―― 既存メーカーと新興勢力の違いは。
 杉山 既存メーカーはマイコンなどCPUの処理能力を高めたシングルタスクで自動車メーカーの要望に対応しているのに対し、新興勢力はメモリーを多用した並列処理をベースにした新たなアーキテクチャーで勝負している。現状では画像処理を取り込むアーキテクチャーを自動車向けにうまく生かしているという印象だ。
 加えて、新興勢力は、クラウドからエンドまでの全領域を垂直統合し、プラットフォーム化しようという意図が見える。例えばインテルは、もともと強いサーバーと通信に加え、持っていなかったセンシング分野をモービルアイの買収で補った。クアルコムのNXP買収もインテルと同様の戦略だといえる。LiDARメーカーなどセット側の買収によって、OEMとの協業スキームを構築しようとする動きも活発だ。

 ―― やはり新興勢力が強いのでしょうか。
 杉山 現状では必ずしもそうとは言えない。例えばルネサスは独自CPUを用いたフラッシュ内蔵マイコンで他社に先行し、アナログ専業のインターシルの買収によってモーター制御系の強化に努めている。インフィニオンはIGBTやSiCなどアナログ系で無類の強さを誇る。

 ―― そうなると、半導体メーカーのライバルはむしろティア1ですか。
 杉山 ティア1の売上ランキングは、1位がコンチネンタル、2位がボッシュだ。ティア1にはシステム全体を見ているという強みがあり、安全・安心機能を実現するうえで最も重要な役割を果たしている。グローバル調達力やECUのプラットフォーム化、ソフトウエアによるアップデートといった戦略面でも強い。
 一言で言うと、自動車業界は、従来のピラミッド型のサプライチェーンから、構造がフラット化しつつあるのだと思う。ただし、まだその過渡期だ。

 ―― いつか転換期が訪れそうですね。
 杉山 自動運転とEV化(電子化)の進展に伴い、自動車のシステムアーキテクチャーが今後大きく変わるはずだ。これには、半導体メーカーとティア1の競争だけでなく、5G通信の実用化といったインフラの変化も密接に絡んでくる。技術とコストのバランスをどう取るかも重要だ。
 IHSでは、自動車1台あたりの電子システム搭載額が現状の1000ドルから22年には1500ドルまで伸びるとみている。なかでもカメラ系のセンサーは2桁の伸びが続くと予測しており、画像処理に関しては最先端ノードを用いたロジックの所要が大きく拡大するだろう。

 ―― AIチップへの期待も高いですね。
 杉山 IBMなどの半導体メーカーはもちろん、グーグルやアップルなども開発に注力しているとされ、必ず世に出てくる。AIチップの概念は、現状では(1)クラウドAIと連携可能なリコンフィギュラブルASSP、(2)非ノイマン型アーキテクチャーを持つニューロモーフィックLSI、(3)量子コンピューターLSIなどに分類できるが、省エネ性能に最も優れる(2)に期待している。

(聞き手・編集長 津村明宏)



 「世界の5G&IoT産業分析セミナー」の詳細情報は同社事務局(E-mail : technology.events@ihs.com、Tel.03-6262-1824)まで。
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