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第261回

「日本の良いところは自分を犠牲にしても社会に奉仕する精神、世界一の平等社会」


韓国大統領選を戦った文國現氏の語る言葉は今の日本人をうならせてしまう

2017/11/24

 「世界は今、第4次産業革命の時代を迎えている。IoTを活用してすべての社会インフラが革新されようとしている。この時代にあって日本、韓国そして中国などアジア諸国はどのようなフューチャープランを構築すべきなのか。AI、ロボットをフル活用しながらも、人間中心の格差のない豊かな社会を作り上げていかねばならない」

ハンソルテキスタイル 社長 文國現氏
ハンソルテキスタイル 社長 文國現氏
 控えめで静かな口調であるが、明確な視線でこう語るのは、韓国でかつて大統領選挙を戦った文國現氏(Moon Kook-Hyun)である。文氏はハンギョレ新聞が主催する第8回アジアフューチャーフォーラムの座長であり、npi(ニュー パラダイム インスティテュート)という経営コンサルティングの組織を率いる人であり、ハンソルテキスタイルという繊維企業を経営するリーダーでもあるのだ。筆者はこのフォーラムに講演者/パネラーとしてソウルに招かれ、文氏と語り合う貴重な時間をいただいたのだ。

 文氏はソウル生まれ、父親は運輸関係の企業の経営者であり、京畿道の商工会議所のトップを務めた人であった。文氏はユハン・キンバリーという著名カンパニーに34年間勤務し、そのうち13年間は社長の任にあった。洗剤、女性用品などを扱うキンバリーは韓国で50%のシェアを持つ会社であり、日本の花王やアメリカのP&Gと同じような業態で勝負している。キンバリーはP&Gを抜いてこの分野で世界トップになるが、それを成し遂げたのが文氏の経営力であったのだ。

 「キンバリーを退任しハンソルテキスタイルという会社の経営に当たることになるが、これは高品質でありながら量産に向いたニット繊維に特化した企業である。韓国での売り上げはゼロ。現状は日本とアメリカの輸出が中心であり、日本ではユニクロ、アメリカではウォルマート、ピンク、GAPなどに納めている。2018年の売り上げは1600億円を見込み、デザイナーを中心とする韓国本社は850人を擁し、海外では4万人が働いている。中国への本格進出を狙っており、ここ数年では5000億円、中長期的には1兆円の売り上げを目標としている」(文氏)

 李明博氏と大統領選を戦ったことで知られる文氏は選挙で「一生懸命働く人が報われる職場を作り、新しい経済環境により貧富の格差を無くしていく」ことを訴え、これが若者たちには大受けしたものの、財界を牛耳る李明博氏に勝つことはできなかった。建設業をはじめ旧来のエコノミーを支持する人たちに負けてしまったのだが、文氏は「選挙の時に訴えた国作りの夢」は今も堅持しているという。

 「npiという組織においては、企業が環境に優しく、かつ社会の価値創造に向かうべきだという方向で指導している。最近は中国の若手経営者が私の書いた経営書3冊を読んで教えを乞いに来ることが多い。私はドイツや日本の超一流の100年企業を例に出し、持続可能なカンパニーを作り上げるために全力を挙げろ、と示唆している。」(文氏)

 文氏の教えに傾倒する中国の若手起業家たちは、100年以上続く強固な会社、従業員が自由闊達に働ける会社、そして何よりも一生涯をかけて1つの職場にいられる会社を目指す、というのだ。筆者はこうした話を聞いてかなり驚き、「ああ人間の幸せというものは、どのような国にあってもそう変わらないのだ」と思った。

 驚くべきことに文氏が目指す会社の方向性は、かつて日本が世界から異端視された「終身雇用」「年齢給ベースの平等賃金」と酷似している。中国は今や完全に格差社会となり、アメリカナイズされた拝金主義がはびこり、弱者切り捨ての社風が蔓延している、と多くの日本人は思っている。しかして、中国にあっても若手経営者達の中には日本がひたすら守ってきた「絶対多数の絶対幸福」を志向している人も多いのだ。

 「日本の良いところは、世間に迷惑をかけず自分を犠牲にしても社会のために奉仕するという精神だ。また平等観は世界一といってもよい。地域にも多くの気配りをし、都市美観を重視し、文化・歴史・伝統を大切にする。欧米ですら、この日本人スピリッツを学ぶ人が多い。最近は少しこの日本の美風が失われつつあるようで、これは大変残念なことだ」(文氏)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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