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第276回

デンソーの熱流センサー「Energy Eye」は画期的イノベーション


~内閣総理大臣賞受賞の技術が自動車のエンジン、電池セルなどにサプライズな効果~

2018/3/16

 「流れを読む」「空気を読む」などという言葉は、日常的にも会議、面談、さらには恋人たちの逢瀬においても良く使われている。とりわけ難しいのは「流れを読む」ということであり、固定しないものを移動する過程で測ることは、どうあっても至難の業なのだ。

 自動車分野においていつも問題になるのは熱マネジメント技術であるが、これまでは熱移動の結果である温度を測ることが主流であった。しかし、熱移動の過程である熱流を極微量の世界で正確に測ることができれば、とんでもないイノベーションをもたらすのだ。

 それをやってのけたメーカーがいる。自動車のティア1大手であるデンソー阿久比製作所(愛知県知多郡阿久比町大字草木字芳池1)の生産技術研究部PALAP事業プロジェクト室である。開発された製品名は熱流センサー「Energy Eye」という。

 「自動車の熱マネジメントをはじめ工場排熱回収、ゼロエネ住宅、さらには鉄道などあらゆる分野で省エネ技術が求められている。これを実現するために必要なのは、温度(熱移動の結果)の計測から熱流(熱移動の過程)の計測にパラダイムチェンジしていくことなのだ。熱流は熱の移動量、方向を示すものであり、単位時間、単位面積あたりを通過するエネルギー(W/m²)のことをいう。当社の開発した技術は、熱エネルギーが見える熱の顕微鏡であり、全くこれまでになかったものを創出したといえよう」

 熱い目線でこう語るのはPALAP事業プロジェクト室長の青山雅之氏である。青山氏はデンソーの拠点のある愛知県刈谷市の出身、信州大学工学部機械学科で流体力学を学び、迷わずデンソー入りした申し子のようなひとである。生産技術で15年間を働き、その後2001年から苦節18年をかけてこの画期的な熱流センサーの本格商業化にこぎ着けたのだ。

画期的イノベーションをもたらすデンソーの熱流センサー
画期的イノベーションをもたらす
デンソーの熱流センサー
 「熱流センサーの原理は、センサー上下の温度差から熱流を測定するものであり、いわばフーリエの法則を使ったものだ。また材料に温度差を与えると電圧が発生するゼーベック効果を利用したものだ。すなわち、起電圧を測定すれば温度差の検出が可能になるという原理に基づいている。もっとも重要なことは熱変換材料に半導体を使用したことだ」(青山氏)

 この熱流センサーの開発にあたっては、様々な技術が駆使されている。1回のプレスで電子部品内蔵基板を作り上げてしまう。これは内閣総理大臣賞を受賞する誉に輝いた。また何と129層まで1回のプレスで積める。これはギネス世界記録に輝いた。さらにプリント配線基板製造方法で、P型、N型半導体の直列配置で感度増幅に成功し実用化にこぎ着けた“極薄高感度熱流センサー”の開発で、JPCA(日本電子回路工業会)アワードを2回受賞している。

 このプロジェクト室にあって計測ソリューション課長を務める矢崎芳太郎氏は、半導体を使ったことで量産性に優れること、従来センサーの3分の1へと薄型化を図ったこと、さらには薄型でも従来比4~5倍の高感度化を実現していることを強調し、次のようにコメントする。

 「これを作り上げるにあたって必要であったことは、Bi-Te系熱電材料の微粉末合金化であった。これにより、熱電素子の低温低圧焼結が可能になった。Energy Eyeは高感度、フレキシブル、低熱抵抗、高耐圧を実現したわけであり、色んなところに組み込みができるため使い勝手が抜群に良い」

 この熱流センサーが威力を発揮するのは、エンジン表面の放熱計測がまず挙げられる。エンジン回りの表面に熱流センサーを40点搭載すれば、放熱分布を明確化し、すべてを可視化できる。省燃費化が図られ、信頼性は著しく向上するのだ。また今話題になっているEVについても電池、モーター、インバーター、ECUなどのあらゆるところに熱流センサーはフル活用できるのだ。リチウムイオン電池セルの内部状態解析にも十分に役立つ。

 「これまでの自動車の温度計測の主役はサーミスターであった。しかしながら当社の熱流センサーを使えばトータルコストパフォーマンスは間違いなく良くなる。つまり、センサーの数を減らせるわけであり、そしてまたワイヤハーネスも減るわけだから、自動車メーカーにとっては設計もしやすい。モーター、オルタネーター、シートヒーター、ステアリングヒーターなどに用いれば、温度変化よりも素早く対応できる快適性を生み出す」(青山氏)

 それにしてもこの熱流センサーの開発から本格商業化までには、18年の長い年月がかかっている。エンジニアも経営者もひたすら我慢と忍耐の日々であったろう。ただデンソーが追求したことはひたすら「このセンサーの開発で喜ぶお客様の顔を見たい」ということであり、そのためにはどんな苦労もいとわないというモノづくりのすごみを見せてもらい、筆者は胸が高鳴る思いであった。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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