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第283回

シェールガスラッシュで米国の原油生産量は2018年末に世界トップとなる


~「勝ったも同然」という米国の思惑もあり日本企業には最大の追い風~

2018/5/7

 「とうとうアメリカの原油生産は、2018年末にロシアを抜いて世界トップに躍り出る。もちろんシェールガス増産がものを言っている。エネルギー大国になった米国は、エチレン増産にも動いており、基本材料を握ってしまうことの意味も大変に大きい」

 筆者が親しくする国内大手証券会社の幹部が冷静な口調で、しかし天を仰いで言った言葉である。国際エネルギー機関のIEAは、2018年12月には米国の原油生産量が1125万バレルまで拡大すると予想している。現在1位のロシアの12月の予想量は1098万バレルであるからして、45年ぶりに米国は原油生産で世界トップに躍り出ることになるのだ。もちろん、これまで中近東でトップであったサウジアラビアをも抜いてしまう。

 この最大要因は、米国の原油の半数以上がシェールオイルであり、541万バレルが現状で生産され、前年同月に比べ24%も増えたことだ。昨年くらいまで多くのアナリスト、評論家、新聞記者が米国のシェールガスなど成功しないと口うるさく騒ぎ立てていたが、全くそのとおりにはなっていない。

 シェールガスは現在の天然ガスに換算すれば世界すべてで750年分があるといわれており、米国だけでも250年分が埋蔵されている。少なくともここ100年以上は無尽蔵といっても良いほどのシェールガスが世界のエネルギーに与える影響は大きい。当然のことながら、石油輸出機構(OPEC)は協調減産をして石油の値崩れを徹底的に防いでおり、このため原油の価格はうなぎ登りとなってきた。すでに1バレル70ドルに近づき、3年ぶりの高値圏にある。

 エネルギーのほとんどを輸入している日本では、コスト上昇のマイナス要因と考える向きが多いが、一方で円安が進行するわけだからプラス要因でもあるのだ。さらに、シェールガス関連のプラント建設が活発化することで、これに関係する企業の株価が上がっている。例えば、天然ガスプラント大手の日揮が4月23日現在で3%高、同じくプラントや造船関連の三井E&Sホールディングスが6%高となっている。

 シェールガスの掘削に使われる樹脂・ポリグリコール酸の量産化を世界で初めて成し遂げたクレハにも追い風が吹く。シェールガスを採掘する場面では、熱で固まる性質を持つフェノール樹脂が用いられているが、これを得意とする住友ベークライトにも好材料となる。またシェールガス取り出し用パイプで新日鉄住金、JFEスチールが大きな恩恵を受ける。スリックウオーターの排水処理などでは栗田工業、三機工業、荏原製作所などが大活躍する。さらに空気深冷分離装置では大陽日酸、神戸製鋼所などが注目を浴びるだろう。

 さて、米国はこのシェールガス大増産をベースに、エチレンプラントを大量に建設していることにも注意を払う必要がある。米国がシェールガスから基礎化学品のエチレンを生産した場合は、コストが日本の10分の1にもなるともいわれている。思えばプラスチックをはじめナイロン、ビニロン、ポリエステルなどの化学繊維も石油を原料に使っている。それどころか、半導体材料や液晶材料、そして自動車材料にも多くの石油が使われており、米国がシェールガス由来の材料でこれを置き換えていけば、「世界の基礎材料そのものの動脈線」を握ってしまうことになる。

 「米国は巨大化してきた中国に対して多くの牽制球を投げ始めた。また、プーチン独裁ともいうべきロシアにもいつも注意を払っている。しかしながら、新たな化石燃料であるシェールガスを握り、そこから由来する基礎材料も手に入れるとしたら、実のところ米国は今後の経済状況下において勝ったも同然、と思っているはずだ。多くの人たちが米国の本当の恐ろしさを知らない」

 これは大手商社でエネルギーを担当するベテラン営業マンの談話である。それはさておき、前記のように米国のシェールガス革命が日本にもたらす好影響は数知れないのだ。シェールガスはLNGとして使われることも多くなるだろうが、大型のLNG船については現状で日本の独壇場となっている。三菱重工業、川崎重工業、IHIグループ、三井造船などに中長期的な利得をもたらすだろう。また、シェールガスのリサイクルプラントを作れる企業は世界にわずか2社しか存在しない。1社は住友精密工業、もう1社が神戸製鋼なのだ。

そのうちに女性のブラジャーもシェールガス由来材料で作られる
そのうちに女性のブラジャーも
シェールガス由来材料で作られる
 これからは女性の下着売り場においても、シェールガス由来のローコスト版のブラジャーがいっぱい出回るかもしれない。今時の女性たちは新しいもの好きだから「これってシェールガスで作ったブラジャーなの。シェールブラって呼んで。かわいいでしょう」とのたまう日本の若い女性たちのコメントがぜひとも聞きたいものだ。


 
泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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