電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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ZTE制裁「始まりの1つ」


~苛烈化する米中貿易摩擦~

2018/5/25

 米国政府が中国の大手通信機器メーカーZTEに対して今後7年間、米国企業の製品の販売を禁止する措置を打ち出しましたが、これは苛烈化する米中貿易摩擦の「始まりの1つ」に過ぎないと考えています。

 中国は、2017年の党大会以降、建国100年にあたる49年に「世界No.1の経済大国になる」と明言し、20年までに5G通信インフラの整備、25年までに自動運転の実現、30年までにスマートシティの構築といった目標を掲げています。これを「一帯一路」政策でつながる近隣諸国へ移植し、新たな外貨獲得手段とする考えです。ピークは4兆ドルあった外貨準備高が3兆ドルまで減少しており、これを再び増やしていかねばなりません。これを実現する手段が「中国製造2025」であり、半導体の国産化などにかつてないほど注力しています。

 一方で、米国はこの目標達成スピードをできる限り遅くしたい。ZTE問題を1つの契機として、今後様々な要求を中国に突き付けていくと見ています。中国は米国にとって最大の貿易赤字国です。米国はGDPの6割を個人消費が占めていますが、中国はまだ4割に満たず、内需の拡大余地があります。貿易赤字を削減していくため「ハイテク製品を米国からもっと買いなさい」と求めてくるでしょう。約30年前に日本に対して行ったのと同様の圧力を、今後は中国に対して徐々に強めていくと見ています。

 ZTEのスマートフォン(スマホ)事業は年間約5000万台の規模で、世界シェアは3~4%にすぎません。ですが、販売台数の地域別シェアでは米国市場が36%を占めており、中国国内向け(シェア15%)よりも圧倒的に多い。主に200ドル前後の端末に人気があり、米国市場ではそれなりのシェアを誇ります。スマホ用プロセッサーの半分は米クアルコムから調達しています。


 こうした点から、ZTEへの販売禁止は短期的に米国ハイテク企業の逆風となります。ZTEのもう1つの主力事業である通信機器に関しては、米国市場では17年以降、売り上げはほぼありませんが、米国の半導体メーカーやスマホ販売店は一時的に売り上げを落とすことになります。しかし、米国政府はそうした一時的な損失よりも、もっと大きな果実を今後の交渉で中国から引き出すことを重視しているのです。

 ファーウェイも制裁の対象に加えられるのではとの懸念も出ていますが、現時点では5Gの規格策定などを通じてうまくビジネスしている印象があり、対象となる可能性は低いと見ています。ファーウェイは米国の通信基地局市場で5%程度のシェアを持っており、ハイエンドも含めたスマホ市場にも参入しているため、ZTEとは比較にならないほど対米ビジネスの規模が大きい。ファーウェイに限らず、中国企業は今後、米国との貿易問題の解決を図りつつ、アフリカをはじめ米国以外の国との仲間づくりにより力を入れていくのではないでしょうか。

 ZTE問題は通信事業を発端にしていますが、今後は安価なウェブカメラなどのIoT機器やネットワーク家電にも波及していく可能性があります。監視カメラの映像などがハッキングされた場合などを想定し、「安全保障上のリスク」を盾にして「米国に製品を売りたいなら、半導体などを米国からもっと調達するように」と求めるでしょう。あと2年の任期がある間、トランプ大統領がどのようなディールを中国に仕掛けるのか、その真意をつぶさに注視していく必要があります。
(本稿は、IHS Markitの大庭光恵氏、南川明氏へのインタビューをもとに編集長 津村明宏が構成した)




IHS Markit Technology アナリスト ジャパンリサーチ 大庭光恵、問い合わせは(E-Mail : Mitsue.Oba@ihsmarkit.com)まで。
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