大手調査会社のIHSマークイットは、7月26~27日にFPD市場総合セミナー「第35回IHSディスプレイ産業フォーラム」を東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)で開催する。本稿では、国内最大の受講者数を誇る同フォーラム内容について、講演アナリストに4回にわたりインタビューする。第1回は「中小型FPD&アプリケーション市場」を担当するシニアディレクターの早瀬宏氏に話を伺った。
―― 中小型FPD市場の現状から。
早瀬 2018年上期の出荷数量は前年同期比で5%前後の減少になりそうだ。スマートフォン(スマホ)市場が弱かったことが最大の要因で、特に中国市場の冷え込みが影響した。スマホは、ちょうどアスペクト比16対9と18対9以上の移行期に当たり、デザインや買い替えサイクルの谷間にある。だが、下期に18対9以上のモデルの仕込みが加速し、iPhoneの世代交代もあるため、年間需要はそう大きく下ぶれしないとみている。
―― iPhoneがどうなるか注目されています。
早瀬 2年サイクルのモデルチェンジを考えると、18年は液晶1モデル、有機EL2モデルともにアスペクト比が変わる「変化の年」にあたる。発売されて消費者がどう判断するかを待たねばならないが、技術とデザインを次に大きく変えるのは20年だろう。
―― スマホの有機EL搭載率が当初の見通しを大きく下回りそうです。
早瀬 フレキシブル有機ELを量産できるメーカーがまだ1社しかなく、他社がいつ量産するようになるのか。そして、価格をどのように下げ、プレミアム機種以外にどう普及させていくかがカギだ。フレキシブル有機ELの価格は、現状でLTPS液晶の2倍以上する。スマホ各社や消費者が求めているのは、コストと技術のバランスだ。
―― フォルダブル端末をどう見ていますか。
早瀬 もともとフォルダブルの概念は、スマホの主流が4インチ前後だった時代に「同サイズで6インチクラスに大型化できる手段」だったが、スマホの主流が6インチ前後まで大型化した現在は「タブレットの変化形」に変わってしまった。フォルダブル端末が既存のタブレットと同程度の価格で消費者に提供できるなら良いが、現状ではとんでもなく高価な端末になる。技術の発展には期待するが、果たして現時点で消費者の支持を得られるだろうか。
―― 車載市場は堅調に推移していますね。
早瀬 予測を従来から変えておらず、年率10%前後で堅実に成長する。アモルファスシリコン(α-Si)、LTPS、有機ELそれぞれに技術提案があるが、マザーガラスのサイズが小さくてもα―Siの製造ラインは稼働率がきわめて高いため、代わりにLTPSを使いたいというニーズが増えている。LTPSは省エネ性能の高さからも支持を得つつあるが、有機ELはまだ供給元が少ないこともあり、5~10年レンジで需要を見極める必要があるだろう。
―― 4G以下のラインも稼働率が高いですね。
早瀬 車載用は、生産能力の多寡や技術力だけではなく、徹底したサポート力と品質保証も重要になる。ティア1を含めて顧客数が多く、車種ごとに仕様が異なるため小ロット生産が求められ、顧客をどれだけ広げられるかはパネルメーカーのサポート力次第だ。
―― 車載用で注目されるアプリケーションは。
早瀬 長期レンジで考える必要があるが、電子ミラーだ。「FPD産業 最後のフロンティア」だと思っている。ようやく国ごとに安全規格が定まってきつつある段階で、本格的な普及は25年以降とみている。もし搭載が本格化すれば、車載市場は現在の予測を5割上積みしなければならない。
―― ブレーキやストップランプに有機ELを使う製品も出てきました。
早瀬 アウディやBMWに採用実績があるが、オプションで相当高価だ。だが、こうした市場から徐々に参入を図り、作り込みを重ねながら特性を上げていくのが正しい道ではないか。
―― その他の注目点は。
早瀬 IoTの普及で市場の裾野が広がっていると感じている。タクシー内のサイネージ、飲食店の注文端末、スーパーの電子棚札といったニッチ市場が有象無象に拡大しており、供給形態も多様化している。調査する側からすると大変になりつつあるのだが、裾野の拡大が中小型パネル市場の安定化につながると思って注目している。
(聞き手・編集長 津村明宏)
「第35回 IHSディスプレイ産業フォーラム」の詳細情報はセミナー事務局(E-mail :
technology.events@ihsmarkit.com、Tel.03-6262-1824)まで。