電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第419回

東南アジアのコロナ禍が車載部品供給を直撃


相次ぐ自動車メーカーの生産調整

2021/9/17

 国内自動車メーカーでは、東南アジア地域における新型コロナの感染拡大により、半導体ならびに車載部品サプライヤーの生産拠点が生産の縮小や工場の操業停止に追い込まれ、各社で生産調整が相次いでいる。

 2020年末ごろから徐々に顕在化した車載半導体の供給不足。当初は、ファンドリーにおける車載マイコンの生産キャパシティーの減少が主な要因であったが、21年に入り、2月には米テキサス州オースティンにおける激しい寒波でNXPやインフィニオンの半導体工場が一時操業を停止するとともに、3月にはルネサスの那珂工場で火災が発生し、供給不足にさらに拍車がかかった。

 ルネサスでは、自動車OEMや装置メーカー、付帯設備のサブコンなどからの支援を受けて急ピッチでN3棟の復旧作業を進め、6月末には火災発生前対比で100%の生産水準に復帰し、徐々に落ち着きを取り戻していくと思われた。しかし半導体や車載部品の生産拠点が集まる東南アジアで新型コロナの感染拡大に歯止めがかからず、マレーシアなどではロックダウンが行われ、多くの車載部品関連の工場が生産縮小・操業停止を余儀なくされた。このため、8月から9月にかけて、国内自動車メーカーでは生産調整が相次いでいる状況にある。

自動車メーカー各社における生産調整の状況

 このような状況のなか、トヨタ自動車では、「東南アジアでの新型コロナの感染拡大などに伴う部品供給不足により、9月に大幅な生産調整を行う」(8月19日付)ことを明らかにした。同社では、6月に国内の全14工場29ラインのうち、3ライン(トヨタ自動車東日本:岩手工場1ライン/宮城大衡工場2ライン)で数日間ずつ稼働を停止。7月は通常どおりの稼働としていた。

 その後、7月16日付で、国内完成車工場のトヨタ自動車 高岡工場 第1ライン、7月22日付でトヨタ車体 富士松工場 第2ライン、さらに7月27日にはトヨタ自動車 田原工場 第3ライン、トヨタ車体 吉原工場 第1・第2ラインの生産調整計画を順次発表していたが、8月19日、国内にある完成車の全14工場28ラインのうち、14工場27ラインでの生産調整を発表。8月24日から9月の期間中に大幅な調整(最大で22日間稼働を停止)を実施し、生産計画の約4割にあたる36万台もの減産に踏み切る。

トヨタ 元町工場(組立ライン)
トヨタ 元町工場(組立ライン)
 なお同社は、トヨタ・レクサス合計の生産計画(21年度通期)において、国内で320万台、海外で610万台の計930万台(前年度比111.7万台増)を計画しているが、今回の生産調整は織り込み済みで、今のところ計画の見直しは行わない見通し。また、21年度通期の連結販売において、すべての主要地域での販売増を見込んでおり、前年度比13.8%増の870万台を計画している。

 ホンダでは、5月に埼玉製作所の狭山工場、寄居工場ならびに鈴鹿製作所において生産調整を行ったものの、6月ならびに7月は生産調整などを行わず通常稼働。8月は鈴鹿製作所で数日間の調整を行った。9月は狭山工場で一部調整を行うものの、寄居工場、鈴鹿製作所での調整は今のところ予定していない。

 「4~6月期における半導体の供給不足の影響は17万~18万台程度。下期に挽回したい。当社では、21年度通期の販売台数見通しを期初計画500万台から485万台へ下方修正しているが、これは半導体の供給不足が想定以上に長引いていることに加えて、新型コロナの感染拡大によって東南アジアで半導体・車載部品の供給が滞っていることを受けて、修正したものとなる」と代表執行役副社長の倉石誠司氏は語った。

 日産自動車は、直近の稼働状況は非公開としているが、21年度通期の半導体不足の影響は50万台と見込んでおり、そのうち半分の25万台を下期に挽回可能としている。21年4~6月期の販売台数は、すべての主要市場でプラス成長を果たし、同63.0%増の104.8万台となった。

 米国では新型車が牽引役となり、前年から68%増加。日本では、軽自動車が供給不足で販売が伸び悩んだものの、新型「ノート」などの登録車が好調に推移したことでこれを相殺し、同7%増の9万台となった。「半導体の供給不足などがあるものの、その影響を最小限に抑えることができた」(社長兼CEOの内田誠氏)としており、こうした取り組みを7~9月期以降も継続していくことで、当初計画どおりに下期に挽回を図っていく。

 スズキは、東南アジアでの新型コロナの感染拡大に伴う部品供給不足で、国内4工場で生産調整を行うと発表した。同社では、6月の生産を計画から4万台弱引き下げており、「7月以降は、調達状況を見極めながらの判断となる」としていた。今後もサプライヤーと密に連携しながら、影響の最小化に努める考えだが、通期での台数影響は明確な数字が見えていないとしている。

 マツダは、中国での貨物積載場の再開見込みが不透明であること、東南アジアにおける新型コロナの感染拡大により部品調達に支障が出る見込みであることから、広島・本社工場の操業を8月30日、31日の2日間停止した。また、9月はタイ工場の稼働を数日間停止することを明らかにしている。

マツダ 本社工場(広島)
マツダ 本社工場(広島)
 同社は、7月30日に開催した21年度第1四半期の決算説明会では、「通期では半導体供給は依然として不安定な状況にある。取引先と日々協議・調整を行っており、流動的な状況であるため、通期の生産影響約10万台、出荷影響約7万台の当初の前提は変更していない。引き続き、在庫/販売/生産の状況を週次で確認し、迅速に対応することで、販売と収益への影響の最小化を図っていく」と常務執行役員の藤本哲也氏は語った。

 三菱自動車は、半導体の供給不足を受けて、9月にタイ工場の操業を停止。これにより、約4000台の減産となる見通しだ。同社は、6月に国内外の拠点で生産調整を実施し、計画より約3万台の減産となった。上期を中心に約8万台の生産影響を見込んでいるが、下期に4万台を挽回し、通期影響は4万台に抑える計画だ。

SUBARUの大泉工場(エンジン・トランスミッション工場)
SUBARUの大泉工場
(エンジン・トランスミッション工場)
 SUBARUは、半導体の供給不足、東南アジアでの新型コロナの感染拡大を受けて一部の部品で供給に支障が出る見込みとなったことから、9月1日に完成車工場の群馬製作所 本社工場、矢島工場および、エンジン・トランスミッション工場の大泉工場の操業を7~10日の間停止するとしていたが、9月6日に操業一時停止期間をさらに13~17日まで延長すると発表した。なお、同社では8月3日に開催した21年度第1四半期の決算説明会において、「21年4~6月期は、半導体供給不足の影響で約6万台の減産となった。7~9月期もある程度の影響は残るものの下期で挽回。21年度通期では約4万台の影響になる」としている。

 改めて各社の生産調整の状況を見ると、影響度合いに濃淡があることがわかる。その要因として挙げられるのが、製品戦略、コスト競争力に対する戦略の違いだ。車種を絞り込み、プラットフォーム(半導体、車載部品含む)を共通化することでコスト競争力を図るOEMは当然、半導体や車載部品の調達先を絞り込んでいる。このためリスク分散ができず、その調達戦略が裏目に出てしまうことになった。

 しかし、東日本大震災以降、代替品の評価時間の短縮や調達戦略の見直し・改善を継続的に行い、リスク管理能力に定評のあるトヨタでさえも、9月には計画の4割にあたる約36万台の減産を余儀なくされており、自動車メーカーには、さらなる調達戦略の見直しが求められることになる。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 清水聡

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