電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第12回

再エネ向け大容量2次電池の本命はどれか


NAS電池、LiB、レドックスフロー電池が有力

2013/9/20

 2012年7月からスタートした固定価格買取制度(FIT)を背景に、太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーの導入が急速に進んでいる。資源エネルギー庁によると、12年7月~13年6月までで304.9万kW分が導入された。内訳は、太陽光発電が291.3万kWと96%を占め、以下、バイオマス発電(6.8万kW)、風力発電(6.5万kW)、中小水力発電(0.2万kW)、地熱発電(0.1万kW)と続く。また、太陽光発電の認定済み設備容量を加えれば2091万kWとなる。第1次安倍内閣は20年までに太陽光発電導入量を1400万kWにするという目標を掲げていたが、5年前倒しで実現できる可能性が出てきた。

 急速に需要が拡大する再生可能エネルギーだが、課題として叫ばれているのが系統接続問題だ。FITに認定された再生可能エネルギーは系統電力に接続されるが、出力変動により電圧および周波数が変化し、系統が不安定になることが指摘されている。
 太陽光発電は日の出とともに発電を開始し、正午でピークを迎える。その後は発電量が低下していくケースが一般的だ。風力発電は「風任せ」で発電量は常に変化する。こうした系統安定化に向けて本格導入が検討されているのが大容量2次電池だ。系統に送る電力を平均値に設定することで不安定を解消する。

特徴異なる3つ電池

 再生可能エネルギー向け大容量2次電池として期待されているのがNAS電池、リチウムイオン電池(LiB)、レドックスフロー電池だ。NAS電池は、唯一の取り扱い企業である日本ガイシ(株)(名古屋市)が03年に量産開始して以来、世界6カ国に合計174カ所以上、約30.5万kWh分以上設置しているなど、MWhクラスでの実績が豊富だ。用途も当初は変電所、工場、下水処理場などがメーンだったが、その後、国内/海外を問わず数々の太陽光発電所や風力発電所に導入している。一例を挙げると、日本風力開発(東京都港区)の二又風力発電所(青森県六ヶ所村/定格出力51MWh)に34MWhシステムを納入している。

主要2次電池の性能比較

 NAS電池の特徴は、(1)エネルギー密度が高い(鉛電池の約3倍)、(2)電解質が固体のため自己放電がなく、エネルギー効率が高い、(3)長寿命(15年以上)、(4)可動部分がなく保守が容易、(5)完全密閉型で排ガスや騒音が出ないことなどが挙げられる。

 一方で、10年2月、11年9月には同電池が原因で火災事故が発生したため安全性が懸念されている。前者は、(株)高岳製作所(東京都中央区)の小山工場(栃木県小山市)で運用していた200kWhシステムが火災を引き起こしたもの。一般的に使用されている電力負荷平準用の標準タイプとは異なり、瞬時電圧低下対策用の特殊な高出力タイプだ。高出力タイプとは、高出力を得るためにモジュール電池内のすべての単電池を直列接続したもの。後者は、三菱マテリアル(株)筑波製作所(茨城県常総市)に設置されている東京電力所有の200kWhシステムである。

 同社は、原因究明と対策に積極的に取り組み、火災事故の原因および延焼防止対策を実施した。そして、危険物保安技術協会を事務局とする第三者委員会の検証により妥当であると評価された。これを受けて12年下半期から受注を開始した。

 LiBは、スマートフォン、携帯機器、民生用機器、非常用電源、電動工具、電動バイク、電気自動車とあらゆる用途に採用されている、我々の生活に最も身近な2次電池だ。2次電池の性能としてはトップクラスで、最終的にはほとんどの用途がLiBでまかなわれるという見方もあるが、大型用途での導入が遅れている最大の要因が高いコストだ。現状、1kWh10万円程度と言われているが、単純に計算すると1MWhで1億円となってしまう。メガソーラーで数億円規模を投資し、さらに大容量2次電池として高額な投資を許容できる否かだ。

 レドックスフロー電池は、エネルギー密度は低いものの、サイクル数が1万回以上と圧倒的に高いほか、バナジウム、鉄、クロムなど燃焼性の低い物質を使うため安全性にも優れている。逆にエネルギー密度が低いため小型化には不向きで、もっぱら大型用途が中心となる。国内では住友電気工業(株)(大阪市北浜)が製品化している。
 同社は12年7月から横浜製作所(横浜市栄区)において国内最大規模の集光型太陽光発電装置とレドックスフロー電池を組み合わせた実証実験を開始した。また、今年7月には経済産業省の「大型蓄電システム緊急実証事業」に採択され、北海道電力の南早来変電所(北海道勇払郡安平町)に60MWhシステムを導入する。一方で、レドックスフロー電池の最大の課題はシステムが大がかりになる点で、基本的には都市部には向かないと言われている。

注目集める第4の蓄電システム

 このほか、秘かに注目されているのがフライホイールだ。電気的エネルギーを回転運動などの物理的エネルギーに変換することでエネルギーを貯蔵し、電力が必要な時に回転運動から発電するもので、「キネティック(運動)・バッテリー」や「メカニカル・バッテリー」とも呼ばれる。フライホイールは、高速入出力、充放電回数の制限がない(サイクル数は無限)、耐用年数が長い(20年以上)ことなどがメリットだ。一方、デメリットは低いエネルギー密度だ。
 参入企業としてはベンチャー企業が多い。例えば、テンポラルパワー(カナダ・オンタリオ州)は石油・天然ガス採掘におけるディーゼルエンジン発電機向けの補助電源などで実績を積み重ねているが、今後、参入を考えているのが再生可能エネルギー分野だ。そして、特に注目しているのが日本国内という。


(半導体産業新聞 編集部 記者 東 哲也)

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