電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第33回

ミリ波無線通信半導体の時代がやってきた!!


~広島大学は40nm CMOSで世界最小消費電力のチップ完成~

2014/2/21

 皆さんは電波は資源なのだ、というお考えをお持ちであろうか。資源といえば、ほとんどが自然界に存在するものと考えられているが、人工的な資源も実のところは非常に多い。人類がITの恩恵をこれだけこうむる時代が来た以上、電波資源という考え方も明確に持つ必要があるのだ。ちなみに数ギガヘルツ以下の低い周波数の電波については、既存免許人により世界的に逼迫状態が続いている。やはり今後のことを考えれば、高い周波数への移行を促進する技術を確立し、電波資源をさらに拡大していく必要があるのだ。


 さて、ここに来てM2M(Machine to Machine)という概念が半導体需要の急増を呼び込む、と期待されている。これは機械と機械がネットワークを介して互いに情報をやり取りすることにより、自立的に高度な制御や動作を行うことを意味するのだ。重要なことは、人間を介さないで機械同士の通信でほとんどが自動で進んでいく状況を想定しているのだ。

 M2Mはウエアラブルデバイスと深く結びつき、建築、医療、農業、メディカル、鉄道・道路、自動車などの社会インフラがすべて無線通信でつながる世界が来ることを意味する。米国においては、トリリオンセンサーの時代が来るといわれており、M2Mの進展により1兆個のセンサーを毎年使う社会が来るというのだ。

広島大学 藤島 実教授
広島大学 藤島 実教授
 「無線通信については、やはりミリ波を使いたいという要望が高まっている。2020年代はギガヘルツを超えてテラヘルツの時代に移るともいわれている。こうした時代に対応する無線通信半導体を作り上げることは、世界の急務となっているのだ」
 こう語るのは、広島大学教授の藤島実氏である。藤島氏は1993年に東京大学工学系で博士課程を修了し、1999年には東京大学の助教授となり、2008年まではベルギー王国のルーベンカソリック大学の客員教官を務めた。2009年から広島大学教授としてCMOS回路を用いた高速無線通信の新世界を切り開こうとしている。

 ところで、無線通信チップについては、これまで化合物半導体を使うケースが圧倒的に多かった。シリコンに比べ電子の移動度が高く、高周波には最適な特性を備えていたからだ。しかしながら、シリコンの微細化が進むにつれて回路集積度を上げるという目的とは別に、高周波の領域もシリコンでいけるという副次的な技術進展を生み出すに至った。

 「微細化がさらに進んでいけば、2020年には100Gbpsの無線が誕生することになる。我々もこうした時代に備えて様々なデバイス開発に取り組んでいる。通常ならば回路設計から入るのであるが、ミリ波レベルの無線通信半導体は、デバイスモデルからスタートしなければならない。要するにすべてのレイヤーで設計しなければならない。これが非常に難しいのだ」(藤島教授)

 さて、藤島教授率いる広島大学の部隊は先ごろ、132GHz CMOSトランシーバーを完成させている。3m離れても無線通信ができるという優れものだ。40nm CMOSプロセスで試作しており、通信速度は11Gbpsと速いが、一番重要なことは消費電力をわずか209mWに抑えていることだ。つまりは、世界最小の消費電力で132ギガヘルツの無線通信チップを作ったのだ。今後はテラヘルツのセンシングやミリ波のイメージングなどの分野に踏み込み、来るべき無線通信全盛の新時代を切り開きたいとしている。

 それにしても、こうした研究成果が国内での量産に結びつくというロードマップはまったく見えていない。ドイツや米国など諸外国においては、ミリ波通信の具体的なアプリを想定し、かなりの研究開発費をつぎ込み、ミリ波半導体の研究開発が行われている。藤島教授によれば、わが国はこの分野の開発と量産についてはなんら明確なロードマップが策定されておらず、これがボトルネックなのだと言い切る。このままいけば、数十年後に想定されるM2Mの時代において、重要な無線通信チップはすべて外国勢に独占されることになり、わが国の自立性は著しく失われることになるだろう。

半導体産業新聞 特別編集委員 泉谷渉

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