電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第97回

「ここ数年で結婚・出産・育児で退社した女性はひとりもいない」


~抵抗器生産世界トップクラスのKOAの考え方~

2014/8/22

 「2014年は創業者の生誕100周年という節目の年に当たる。会社設立は1940年であり、これまでの道のりには幾多の困難があった。私が知っているだけでも6回の大きな危機があった。戦後の混乱期には売り上げが途絶え、会社をたたむ会議の最中に大口受注の電報が舞い込み救われたという。そうした歴史の中で創業者が教えてくれたことは、1%の可能性がある限り決してあきらめない、ということだ」

 こう語るのは、長野県上伊那郡箕輪町に本社を構えるKOAの代表取締役社長である花形忠男氏である。同社の2014年3月期売り上げは448億9500万円、前年比15.2%増と順調に推移している。

 世界の固定抵抗器マーケットは2013年(暦年)で2900億円とKOAは自社推計している。KOAにおける抵抗器の売上高が384億円であることから、世界シェアの12%を握っていることになる。すなわちKOAは固定抵抗器の世界におけるリーディングカンパニーなのだ。

KOA 代表取締役社長 花形忠男氏
KOA 代表取締役社長 花形忠男氏
 最近では長野県上田市に子会社の真田KOAが、16億円を投じ新工場を立ち上げた。ここでは、要素技術としての薄膜形成技術、宇宙開発用部品で培った信頼保証技術をベースにバリスタ、白金温度センサー、高信頼性抵抗器の3つの製品群の量産を強化するという。一方、長野県阿智村には「七久里の杜」という新工場を立ち上げたが、ここにも35億円の投資を実行した。

 「KOAが本拠地を持つ伊那谷エリアは、かつて養蚕を中心とする農業地帯であった。しかし1929年の世界大恐慌の影響で生糸価格が暴落、以降養蚕農家の暮らしは急激に厳しくなる。創業者の向山一人もそんな養蚕農家の生まれであったが、何としてもこの伊那谷に工業を興し、現金収入の道を作り、家族がみんな一緒に暮らせるようにしたいと考えた。これがKOA創業の精神である『農工一体』へとやがて結実していく」(花形社長)

 花形社長は2013年に第3代目の社長に就任するが、創業家以外のプロパー初の社長である。花形氏が社長に就任した折に強調したことは、人と人とのつながりを大切にしようということであった。とにかく、KOAという会社は「人を大切にする会社」だ。

 「伊那谷エリアには十数カ所のKOAグループの工場があり、この団結力がモノを言っている。もちろん過去において当社も大きな景気変動の影響を受け、自宅待機や賃金カットなどの苦しい試練があったが、万策つきるまで雇用を守るという経営の強い意志のもと、社員すべてで痛みを分かち合い、一致団結してこれをはねかえしてきた。抵抗器業界でトップクラスの評価は、大変ありがたいと思っているが、これからも創業の精神と、現向山会長の考える信州伊那谷エリアの人たちをはじめとした、KOAを支えていただいている方々との信頼関係構築という企業使命を堅持していきたいと考えている」(花形社長)

 女性労働力の活用について伺ったところ、「ここ数年間にわたり結婚・出産・育児で退社した女性はひとりもいない」との答えが花形社長から返ってきた。要するに、女性にとっては超働きやすい会社なのだ。出産に伴う時短、さらには手厚い子育てのサポートなどの実態を見れば、もうこれ以上はないと思われるくらいの女性にやさしい社風を築いてきている。ただ、女性の登用については、このような「次世代育成支援制度」をはじめとする人事処遇制度構築や教育に中心的役割を果たし、現在も活躍中の深野香代子常務がいるが、それ以降については「まだ道半ば」とした。

 KOAという会社に流れる哲学は、今日にあって実にクラシックなものだといえよう。KOAは社員家族、地域社会、お客様、株主、地球に支えられており、このすべての信頼関係が何よりも大切だというのだ。地域の環境活動についても、「KOAグループおてんとうさま活動」を積極的に展開し、事業活動の中でCO2排出抑制をはじめ環境負荷低減に努めている。また、諏訪湖から遠州灘までの天竜川水系の自然環境をきっちりと守る、という活動を20年以上推進している。

 言ってみればKOAは、かつて農村というコミュニティーが崩壊していくなかで、一人の青年が農村の生活基盤作りと安定した暮らしをこの地で実現しようと起こした会社なのだ。以来、創業者の「伊那谷に太陽を」という夢をかなえるために「農工一体」というビジョンを掲げ、経営が実践されてきた。KOAは電子部品メーカーとして一流であるだけでなく、伊那谷というエリアに加えて、進出先各国の拠点においても、人々の幸せを追求するために、今日もまた新たな開発に取り組んでいる。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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