電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第77回

配線板技術ロードマップが描く将来のPWB


~技術難易度は増す一方、コスト競争も大事に

2014/12/26

 (社)日本電子回路工業会(JPCA)は、「2014年度版 プリント配線板技術ロードマップ」を策定している。国内の配線板業界にとって顧客先となる重要な市場、例えばスマートフォン(スマホ)や自動車など最終セット機器や半導体パッケージ関連などの市場をあらゆる角度から分析し、海外のトップ研究機関が進める最新の技術トレンドも盛り込んだ。単に必要な技術要求を羅列しただけではなく、既存材料や技術レベルを確認し、足元の技術の延長線上では難しい「ディフィカルト・チャレンジ」も掲げるなど、読み応えがある。今後の技術開発の方向性を知るうえでも、意義深い試みといえる。日系の基板メーカーにとって心機一転、巻き返しのチャンスにつながることを期待したい。

 国内のプリント配線板市場は、08年のリーマンショックを契機に当時の歴史的な円高も加わり、国内生産額は右肩下がりとなっている。台湾、韓国の急激な追い上げと中国市場の台頭で、国内配線板メーカーは窮地に立たされているといっても過言ではない。しかし、今後ともIoT(Internet of Things)といったあらゆる機器がインターネットに接続し、人々の利便性や快適性に貢献するこれまでにない電子機器が飛躍的に広がりを見せ、さらにはプリンタブル・エレクトロニクスやストレッチャブル・エレクトロニクス技術といった新たな製造技術と融合して、配線板市場はさらに拡大するとみられる。

スマホが今後とも基板市場を牽引

 プリント配線板(パッケージ基板含む)にとって引き続き重要なアプリケーション市場は、依然スマホであることは間違いないだろう。その主要アプリについて、スマホ、タブレットPC、自動車、医療用システムに大分類して、それぞれの市場や技術動向をまとめている。なかでもスマホは最も重要な電子機器と位置づける。スマホのなかでもエントリーモデルは、開発途上国市場での需要拡大を受けCAGR17%増、ミッドレンジは同14%増と高成長を描く。ハイエンドモデルは同4%増と伸びが鈍化するものの引き続き拡大する。この結果、18年にはハイエンドモデルが4.5億台(13年3.7億台)、ミッドレンジ5億台(同2.6億台)、エントリーモデル9.4億台(同4.6億台)にそれぞれ成長する。台数増の主役はエントリーモデルで、最大の牽引車となる。

 ちなみにスマホにおけるメーン基板への技術要求は、現在、全層数が8~12層となっているが、16年には8~10層に、22年には6~10層へと低層化かつ高密度化の流れにある。コストの観点から絶対層数の削減が不可欠となり、その分、配線密度の高度化が加速される。コア層もハイエンドは4層に、ビルドアップ層として3~4層を形成するプロセスが主体になる。基板材料は基本的にFR-4だが、高Tgや高剛性の特性が求められ、22年にはガラス素材のプリント配線板も登場するとした。基板の厚みは現行の0.6~1.0mmからより薄型化の流れとなる。また線幅も50μm L/Sから30μm L/Sに、ビア/ランドも100μm/200μmから50μm/100μmに高密度化が進む。

 こうなると既存の基板材料や工法では製造歩留まりの維持で対応できない事態も出てくる。その場合、1社単独での開発では早晩限界が来る。それぞれの得意の技術を持ち寄るなり、材料・装置企業とのアライアンスも含めて総合的に戦略的に事を運ぶ必要が出てくる。新材料や新技術を適用することでブレークスルーしても、コストが高ければ最終顧客の認定が取れる保証はない。顧客から信認の得られるリーズナブルな生産コストの実現が何よりポイントになる。本当はこれを実現するのが最も難しいのかもしれないが。

車の電装化も大きな飛躍のチャンス

 電装化が加速する自動車にも注目。市場は12年の8000万台強から19年に1.1億台にまで拡大する。なかでもエレクトロニクスコントロールユニット(ECU)では、代表的なものにエンジン、トランスミッション、エアバッグ、アンチロック・ブレーキシステム(ABS)などあるが、今後は先進運転支援システム(ADAS)、インパネ周りなどの数量拡大が大きいとしている。12~19年のCAGRは9%強とした。自動車の生産台数の伸び率よりも倍増する。

 HVやEVなどに代表されるパワートレイン系の大きな変化だけではなく、今後の電装化比率を大きく向上させる可能性のある分野として「テレマティクス」技術を取り上げている。周知のとおり、テレマティクスは、テレコミュニケーションとインフォマティクス(情報工学)から作られた造語で、通信機能やGPS機能を備えた車載用電子機器を車両内に搭載し、車車間や車外とリアルタイムで情報をやり取りできるサービスだ。また、カーナビゲーションシステムと融合することで、高度な双方向の情報通信サービスを享受できる。

 ヘッドアップディスプレー(HUD)も登場。フロントガラスにメーターやルート案内表示を行い、ドライバーは視野の移動を自然なかたちで行えるため、実際の交通状態を安全に把握できるシステムも急速に普及する。

 さらにはADASに代表される安全性能面の市場拡大も期待されている。このなかでは、CMOSイメージセンサー(CIS)が複数個、車の中に入ってくるとしている。次世代の安全システムでは、さらに各種センサーと路面安全性の機能が追加されるとした。またアダプト・クルーズコントロール(ACC)システムは、24GHzあるいは77/79GHzレーダーなどのミリ波レーダーの採用がメーンだが、将来的にはパルス・レーザー光を出す装置も登場すると見通して、大きな市場を形成すると指摘している。白線検知やレーンキーピングシステム(LKS)などには、CISをはじめとした画像センサーの優位性を挙げている。ミリ波レーダーを搭載する高周波対応基板などの新市場にも期待できそうだ。

 車載用基板においては製造コストへの意識が高い。現在6層板(リジッド)では14円/cm²だが、22年には8円/cm²の要求が出ている。年平均6%で価格下落が進む。また、車載用半導体パッケージコストも年平均7%減で下がる。メーン基板においても最小線幅は現行の100μm L/Sから22年には50μm L/Sに、ビア径200μm~150μmφへとそれぞれ高密度化する。

 これまでにない新ジャンルとしては医療用システムも紹介している。世界規模の高齢化や新興国の医療需要の増加などから、内視鏡やCTスキャンなどの医療機器の世界市場は年率8%ずつ拡大する。17年には4344億ドル市場を形成するとした。部品内蔵基板や高精細FPCの需要が期待できる。医療用分野では自動車同様に長期使用に耐え、高信頼性が要求される点で、スマホなどのデジタル家電の製品とは異なる設計思想が求められる。このあたりの勘所を押さえれば、自ずと競合他社とは差異化できる技術やマーケットが見えてこよう。

新時代を予感させるストレッチャブル・エレクトロニクス

 スマホやタブレットの普及などで社会の利便性が飛躍的に増してきているが、現代のエレクトロニクス機器は、生物学的あるいは医療用アプリケーション市場の要求などには満足に応えられていない。自由に折り曲げたり、折り畳んだりできる形状順応性はその要求の1つだが、そのためには基板もストレッチャブル(伸縮性)になる必要があるとする。

様々な次世代の応用機器が提案されている
様々な次世代の応用機器が提案されている
 これができると既存のアプリケーション市場を一変させるインパクトとなる。まるで普段着ている服や新聞紙のように折り畳んだり、丸めたりできる、そして、どこにでも持ち運びできるエレクトロニクス技術だ。基板や製造技術にとっても新時代の到来を予感させる内容だ。

 既存のエレクトロニクスシステムは、医療用アプリケーションや水中などで使える代物でないことは明白で、十分適用しているとは言いがたい。さらに社会や医療分野でエレクトロニクスが評価されるためには、信頼性の観点から従来にない発想や技術確立が求められる。日本の基板業界にはこうした新アプリケーションに柔軟に対応することが、今何より求められている。

体内埋め込みデバイスとしても様々なアイデアが登場
体内埋め込みデバイスとしても
様々なアイデアが登場
 欧州では、すでにこうした次世代の基板とも言うべき開発プロジェクト「STELLA」(Stretchable Electronics for Large Area Applications)が始動している。近未来のエレクトロニクス製品は、センサーをはじめ、データ処理、制御機能の集積化を広範囲な環境に適用することが求められているという。ユビキタス・コンピューティング、医療/健康機器のほか、過酷な環境下での小型・軽量化されたセンサー・ネットワークなどが期待される。特に医療・健康機器での新応用分野として、スポーツウエア内の電子心拍計、高齢者や身体障害者の転倒防止包帯、伸縮する体温計など、一昔前は想像もできなかったシステム、安全性や薄さを追求した製品が登場する可能性がある。

オムツの中に入れて尿もれなどのセンシングに
オムツの中に入れて尿もれなどのセンシングに
 これらの製品イメージは、比較的大面積の中に低集積度で部品実装されると見られている。サブシステム間の電気的、機械的接続は電力とデータの伝送を提供するだけでなく、システムのための堅牢性の提供が要求される。エレクトロニクスへの伸縮性の導入の最初の段階では、ウエアラブルのような人体に近いところでの使われ方、製品が期待されているとした。

 まだまだ技術の課題解決には材料探索を含めて紆余曲折が予想される。しかし、ある程度の方向性は見えてきているようだ。ストレッチャブル・エレクトロニクスでどこが主導権を取るかで次世代のエレクトロニクス覇権の趨勢が見えてくると言っても過言ではない。

 ポストスマホの最右翼の1つ、スマートグラスやスマートウオッチがもてはやされている。時計やメガネ形態のウエアラブル機器向けに高精細なFPCの生産が始まったといわれているが、まだまだ微々たる事例だ。大きな市場を形成するまでには至っていない。同分野では日台の一騎打ちとも目されていたが、台湾勢のFPCメーカーが受注したとの情報が伝えられている。勝敗を決したのは、どうもコストにあったらしい。

 いかに最先端の高精細な基板であろうとも、顧客の満足できる魅力的なコストを提案できないと実ビジネスにつながらないことを、国内勢は肝に銘じておくべきだろう。

半導体産業新聞 副編集長 野村和広

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