電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第552回

我が国政府の国内半導体工場の設備投資支援策は本格拡大


半導体材料、パッケージ基板までカバーする異次元段階に入る

2023/10/13

 半導体を制するものは世界を制する!という合言葉の下に、世界各国は凄まじい勢いで国家的な支援対策を取り始めている。一番凄まじいのはバイデン大統領率いる米国であり、推定される支援金は20兆~30兆円以上にのぼると思われるのだ。次いで大きいのは中国政府であり、2030年までのスパンで12兆~13兆円は投入されると思われる。

 こうした状況下において、我が国政府も異次元とも言うべき半導体、さらにはプリント基板に至るまでの大型支援策を打ち出し始めた。この背景には、バイデン政権が掲げるチップ4をはじめとする中国、ロシアなどの台頭、および軍事防衛設備の新鋭化、さらには生成AIから宇宙工学に至るまでの最先端テクノロジーの開発促進などがあるだろう。いわば「半導体世界大戦争」とも言うべき様相を呈しているのだ。

 日本国内において、まず一番はじめに実行されたのが、サプライズとも言うべき台湾TSMCの熊本工場建設に対する支援である。約1兆円を投じる設備投資に対し、ほぼ半額とも言うべき4760億円を支援することを決めた時に、これはまさにサプライズだという声が巷に満ち溢れたのである。ところがどっこい、これは長い物語の序章でしかなかった。

 次いで我が国唯一の半導体メモリーメーカーであるキオクシアの設備投資2768億円に対し、国が929億円を補助金として支援することを決めた。これは一見少ないようであるが、キオクシアの岩手北上第2工場は、トータルで1兆円を超える設備投資が断行されるわけであり、さらに加えて三重県四日市工場の新工場プランを含めれば、2兆円以上の大型投資を構えているキオクシアに対して、数年間にわたって引き続き補助をしていくことが裏には隠されている。そしてまた、ソニーが熊本県下に27万m²の用地を取得し、CMOSイメージセンサーの新工場建設を構想しているが、これまた1兆円近い補助金が予想されるだろう。

 ロームの宮崎の40万m²に実行されるSiCパワー半導体に対する投資も大型のものになる計画であり、ここにも補助金が供出される可能性は高い。台湾の半導体ファンドリーの3番手であるパワーチップも、日本国内に8000億円を投じる新工場建設を打ち出しており、現在、建設用地の選定中。ここにも手厚い補助金が予想されるのだ。東広島に日本工場を持っているマイクロンについても、生成AI向けの超高速DRAM量産のための設備投資に最大1920億円を補助することをほぼ内定している。小ぶりの投資ではあるが、ルネサスのパワー半導体に対する投資額477億円についても、159億円を補助するのだ。

 驚くべきことは、こうした半導体デバイスに対する設備投資に加えて、半導体材料に対する投資についても大型の補助金を用意していることだ。シリコンウエハー世界2番手のSUMCOが佐賀県下に建設する新工場の設備投資2250億円に対し、これがアナウンスされた途端に、政府はなんと投資額の3分の1にあたる750億円を補助すると言い出した。そしてまた、世界の半導体材料ランキングで第3位に位置するレゾナックが建設する新工場の投資309億円に対しても、3分の1の103億円を補助するのである。同社は、SiCエピウエハーの強化を図っている。

 同じくSiCウエハーに300億円の投資を断行する住友電気工業に対しても3分の1の100億円を補助するというのであるからして、これはただ事ではない。三菱ケミカルグループもまた福岡県内に立地を検討する先端半導体材料の新工場があり、ここにも補助金が予想される。少なくとも、電子デバイスの材料分野に政府の設備投資補助金が実行されるのは、ニッポン半導体始まって以来の出来事なのである。この背景には、半導体材料の世界シェア62%を持つニッポンの強さをさらに高めるための力添えと言ってもよいだろう。

 さらに加えて、次世代パッケージ基板にも補助金を手当てし始めた。イビデンに対しては405億円、新光電気工業に対しては178億円の補助金を決めた。言うところのフリップチップ(FCBGA)の世界シェアの80%以上はこの2社が押さえているわけであり、さらにもっと強くなってもらいたいという日本政府の思惑が見え隠れするのだ。

千歳工場の完成予想模型を持つ、左からラピダスの東会長、ラピダスの小池社長、鈴木北海道知事、横田千歳市長
千歳工場の完成予想模型を持つ、
左からラピダスの東会長、ラピダスの小池社長、
鈴木北海道知事、横田千歳市長
 そして極めつけは、国家半導体戦略カンパニーのラピダスの北海道千歳新工場にも超大型の補助金が予定されることである。政府が発表している補助金は、現段階で3300億円であるが、これはあくまでも開発試作棟に対する補助金であり、本格的な量産工場の第1期分は5兆円が予想されるため、まさに総力を挙げての国家支援策が拡大することになる。

 ようやくにして、半導体世界戦争の先端に日本政府は立ったわけであり、もはや後ろに下がることはまったくできないのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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