電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第553回

「中国の底力」は、太陽電池から半導体まで突き進む!


半導体製造装置の内製化率は40%、ひるむ米国の姿勢

2023/10/20

 2005年当時のことであるが、再生可能エネルギーの代表格である太陽電池の世界においては、日本企業のマーケットシェアは50%以上もあり、まさにフロントランナーであった。この頃の太陽電池のメーン企業は、シャープであり、パナソニックであり、今はもうない三洋電機であり、昔日の感がある。

 その後中国政府はバラマキともいうべき設備投資の補助金を中国企業に与え、太陽電池の分野においては、中国勢が世界シェアの80%を握るという情勢になっている。米国、日本、欧州はひたすらカーボンゼロを叫び続けて太陽電池の一気普及を図る政策を立ててはいるが、何の事はない。結果としては、中国企業が儲かるだけのことなのだ。そしてまた「グリーン経済安保」という視点から見ても、中国が優位に立ってくるのは間違いのないところであろう。

 その中国が総力を投入し始めた半導体産業についても、異変が起きている。米国政府が最先端の半導体製造装置を中国には渡さないと言う作戦を立て、中国における半導体の一大成長を阻止しようとしているが、どっこい「中国の底力」はそんなことでは落ちてはこないのだ。

 中国の半導体製造装置の国産化率は前年比15%も伸びており、ここにきてはいわゆる内製化率は40%を超えてきている。2年以内に80%になるという予想もあり、ただ事ではない状況となっている。PVDや酸化装置の国産化率については、実に50%以上にもなっている。もちろん、最先端プロセスの装置は海外から導入することが難しいため、12nm~48nmクラスのミドルレンジ、ローエンドの半導体に特化し、その分野においてのシェアは中国が世界トップを獲得する!という政府の方針が、この装置内製化率に結びついているのである。

 一方、中国内の半導体装置メーカーの研究開発投資(売上高比)も10%以上を維持していく方針だ。AMECは13%、Nauraは同11%となっており、新興企業については20~40%と言うのであるからしてサプライズといえよう。

 さらに言えば、中国はEUVリソグラフィーの光源として粒子加速器を半導体工場内に設置することを検討している。これがうまくいけば先端半導体チップの国産化と大量生産に結びつくということになる。米国政府はもはや、うかうかとしていられないだろう。

 こうした状況下で、米国商務省は、韓国の2大半導体メモリーメーカーであるサムスン電子、SKハイニックスが、中国の半導体工場内に米国製半導体製造装置を供給する時に特別な許可申請がいらないとの特別措置を発表した。これは米国の中国に対する半導体規制がゆるゆるになってしまうことを意味する。大体が今回のバイデン政権の対中半導体規制については、シリコンバレーの企業からは批判が多かった。「ビジネスチャンスを逃してしまう!」と言う声が高まってきており、まさに腰砕けという形で、この特別措置は発表されたのだ。

 バイデン政府のゴリ押しはいつまでも続かないだろう、と見る専門家やアナリストの意見は数多い。ひるむ米国政府の姿勢が見えてきたかたちではあるが、筆者の脳裏には1991年当時の日米半導体協定調印の時の様子が浮かび上がってくる。80年代後半に日本が半導体の世界シェア50%を超えてきた時に、米国政府がストップというか、要するに、イチャモンをつけてきたのである。強すぎるニッポン半導体に対し、日米間協定で「外国系半導体を、もっと日本市場に受け入れろ」と言う途方もほぼない内容だったのだ。それにしても、現状における半導体世界市場の日本のシェアはたったの8%しかないという有様であり、今は昔という物語なのである。

 米国政府があらゆるブロック策を講じても、中国の半導体投資は止まらない。これまでにも16兆円を投入しており、2030年までにはさらに13兆円を投入すると言われており「どうにもとまらない!!」(山本リンダのヒット曲)のである。

 日本勢が得意にしてきたパワー半導体の領域においても、中国企業の一気拡大投資が始まっている。いうまでもないが、中国は大国であり、日中交流は太古の昔からあり、日本にとって最大の輸出国は中国ではあるが、これまたうかうかしていられない。

 もっとも中国からのインバウンドは、最盛期の3分の1くらいであり、爆買いをする中国人は激減している。中国不動産バブルの崩壊は明らかであり、中国から多大の金が流失していくことは明確なのではある。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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