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第79回

2014年の太陽光発電10大ニュース


市場、技術開発で大きく飛躍

2015/1/16

 2014年の太陽光発電市場は、長年市場を牽引してきたドイツが縮小に向かう一方で、中国、日本、米国の成長に支えられ、引き続き大きな成長を遂げたようだ。また、14年は技術開発の面でも飛躍の年となった。パナソニックが15年ぶりに結晶シリコン(Si)太陽電池の世界記録を塗り替えたほか、CdTe、CIGSなどの化合物薄膜太陽電池も相次ぎ最高効率を更新した。今回は、14年の太陽光発電に関する10のトピックスを選出し、市場および技術開発の動向を振り返ってみる。

(1)14年の世界市場は成長持続、導入量50GWへ

 13年の太陽光発電世界導入量は38.4GW(EPIA調べ)で、12年の30GWに対し約3割の増加となったが、14年も引き続きプラス成長を維持したようだ。13年は欧州市場が縮小する一方で、中国、日本市場が大きく拡大するなど、市場の主役がアジアに移った。11.8GWを導入した中国は世界最大市場となり、日本(6.9GW)、米国(4.8GW)も導入量が増えた。


 14年の導入量については、EnergyTrend(台湾)が44GW、NPD Solarbuzzが50GWと予測しているが、いずれにしても、13年比で15~30%の成長を達成したようだ。
 15年以降も成長は持続する見通しで、EPIAでは18年の年間導入量を69GW(積極的な導入支援施策実行の場合)と予測しており、Lux Researchも年間成長率8.3%で成長が続くと仮定し、19年の導入量を65.5GWと算出している。当面は、中国、日本を含むアジア・パシフィック、さらに米国が市場を牽引していくことになるが、将来的にはインドが巨大市場に発展する可能性を秘めている。また、中南米、中東・アフリカといった新興市場の立ち上がりが、今後の太陽光発電の安定成長のカギを握っている。

(2)膨張する国内市場、新ルールで安定成長へ

 12年7月から始まった固定価格買取制度(FIT)を追い風に、国内の太陽光発電導入量が急増しており、14年8月の時点で認定設備容量は69GW超に達した。再生可能エネルギーの大量導入という国のエネルギー政策を考えれば、これは大変喜ばしいことだが、肝心の電力会社がこれに異を唱えたのが「接続保留問題」である。認定容量が接続可能容量を上回ったとして、九州電力を含む5社が太陽光発電の接続保留を表明したことで、太陽光発電の普及に暗雲が漂った。


 事態を収拾するため、資源エネルギー庁では、系統ワーキンググループで対応策の検討を進め、14年末に再生可能エネルギーの導入を最大限加速する新たな出力制御システムの導入や、調達価格の決定時期変更などを盛り込んだ見直し案をまとめた。新たな出力制御システムでは、太陽光発電の出力制御の対象範囲を、これまでの500kW以上から500kW未満に広げ、従来、日単位で行っていた無補償の出力制御を時間単位に切り替える。さらに、確実かつ迅速に出力制御を行うため、遠隔制御が可能なパワーコンディショナーを開発し、対象となる事業者に導入を義務づけることなどが盛り込まれた。

 これを機に、FITの運用も見直すことにした。従来、調達価格は接続申し込みの段階で決定していたが、これを接続契約時に変更し、接続契約締結後、1カ月以内に接続工事費用が入金されない場合や予定日までに運転を開始しない場合は、接続枠を解除できるようにする。コスト低減を促すことで、賦課金による国民負担を抑制するのが狙いだ。未着工案件の接続契約解除などで接続可能な枠が増加した場合には、地熱や水力の導入を優先し、非住宅用太陽光発電(10kW以上)については、入札などの新たな選定方法を検討する。
 新しいルールの下で太陽光発電の健全な成長が維持できるか、15年は国内市場の真価が問われる一年になりそうだ。

(3)PVメーカー、3GWの攻防

Trina Solarは出荷トップに
Trina Solarは出荷トップに
 市場の拡大に伴い、太陽電池の生産量が急増している。1994年にわずか70MWだったセル生産量は、04年に1GWを超え、09年には10GWに達した。そして、13年にはセル生産量が39.1GW、モジュール生産量が39.9GWまで膨れ上がっている。もっとも、この10年間でPVメーカーの顔ぶれは大きく変わった。05年には、シャープ、京セラ、三洋電機(現パナソニック)、三菱電機の4社が上位を独占し、シェアも6割以上を誇っていたが、現在、この地位は完全に中国勢に移っている。ちなみに、13年のモジュール生産の6割強を中国が占めており、Yingli Green Energyを筆頭に、上位5社はすべて中国勢だ。14年も上位5社は中国勢が独占しているが、トップはYingli Green EnergyからTrina Solarに入れ替わったようだ。

 12年度は主要PVメーカーの多くが営業赤字に転落したが、13年度以降は業績が回復している。売上高の増加、粗利益率の改善、経費削減などで、多くが収益改善を果たしており、14年度も業績は好調に推移している。事業環境が好転し、需要も増加していることから、多くのメーカーが生産増強を打ち出している。14年度の出荷計画は、Yingliが3.3~3.35GW、Trina Solarが3.6GW、JA Solarが3.1~3.2GW、Canadian Solarが2.73~2.78GW、Jinko Solarが2.9~3.2GWを計画するなど、各社が3GW超を見据えた販売戦略を進めている。今後は、3GWの生産・販売が競争に打ち勝つ条件になりそうだ。

(4)淘汰は続く

 市場の拡大に伴い、多くの企業がPVビジネスに参入したが、一方で、事業撤退する企業も増えている。市場の拡大に反して、生き残り競争は激化している。

 米国では、Evergreen Solar(結晶Si)、SpectraWatt(結晶Si)、Solyndra(CIGS)、Uni-Solar(Si薄膜)、Abound Solar(CdTe)、Konarka(OPV)、AQT(CIGS)、Solopower(CIGS)、Nanosolar(CIGS)、GE(CdTe)などが経営破綻もしくは事業撤退しているが、14年末には、DuPontの100%子会社のDuPont Apollo(Si薄膜)が事業を停止し、ノルウェーのREC Solar(結晶Si)は香港の投資グループに事業譲渡することを発表した。

 ドイツでも、Q-Cells(結晶Si)、Odersun(CIGS)、Soltecture(CIGS)が経営破綻したほか、Bosch、Schott Solarも事業撤退しており、日本では、モジュール専業メーカーのYocasolが経営破綻したほか、三菱重工業(Si薄膜)、ホンダソルテック(CIGS)、東京エレクトロン(Si薄膜)、富士電機(Si薄膜)が事業撤退した。

 「捨てる神あれば拾う神あり」ではないが、事業撤退もしくは事業継続に苦しむ欧米企業をアジア勢、なかでも中国企業が買収するケースが増えている。中国のHanergyグループがSolibro、MiaSole、Global Solar EnergyのCIGS企業3社を相次ぎ買収したほか、中国CNBMもAvancis(CIGS)を買収。また、台湾TSMCはStion(CIGS)と、中国TFGグループはAscent Solar(CIGS)とそれぞれ協業している。

 ただ、買収した企業も成長が約束されているわけではない。韓国のSKグループは長年、米国のHelioVolt(CIGS)を支援してきたが、PVビジネスに見切りをつけ、すでに事業から撤退している。

(5)変換効率の世界記録ラッシュ

HBCセル(パナソニック)
HBCセル(パナソニック)
 14年は、結晶Si、化合物薄膜で相次ぎ変換効率の世界記録が達成されるなど、技術開発においてエポックメイキングな一年となった。結晶Si太陽電池の変換効率は、99年に豪UNSWが達成した25%(4cm²、PERLセル)が長年世界記録を保持してきたが、15年ぶりに、パナソニック、シャープの2社がこの記録を更新した。いずれもバックコンタクト構造(IBC)とヘテロ接合を組み合わせたHBCセルを採用し、パナソニックは25.6%、シャープは25.1%を達成し、揃って世界記録を塗り替えた。しかも、パナソニックはセル面積143cm²という実用サイズのセルで25%の壁を突破した。

 CdTeやCIGSといった化合物薄膜でも変換効率の更新が相次いだ。CdTe太陽電池の変換効率は、01年にFirst Solarがセル変換効率16.7%を達成して以来伸び悩んでいたが、14年についに20%の壁を突破した。14年8月に21%を達成し、CdTe太陽電池の世界記録を更新した。CIGSもZSW(ドイツ)が21.7%の最高効率を達成するなど、20%超の競争が激化している。

 また、III-V族多接合やペロブスカイトでも世界記録が報告された。 Fraunhofer ISE、Soitecなど独仏の研究チームが、III-V族4接合太陽電池と508倍の集光レンズを組み合わせたシステムで46.0%の変換効率を実現したほか、ペロブスカイトもついに20%の壁を突破した。

(6)ペロブスカイトは5年で効率5倍に

 近年、急速に変換効率が向上しているのがペロブスカイトである。ペロブスカイトはバンドギャップが1.55eVで、高い光吸収係数、長いキャリア拡散長、全固体、塗布型、高電圧といった多くの特徴がある。400nmの膜厚で800nmまでの波長を吸収することができる。桐蔭横浜大が09年に世界で初めて色素増感太陽電池(DSC)の増感剤として提案したが、近年では、ホール輸送材と組み合わせた全固体型で高い変換効率が報告されている。現在、公認の世界最高効率はKRICT(韓国)の20.1%だが、材料や構造の最適化で27~30%の効率が狙える。また、他の太陽電池と組み合わせたハイブリッド型では40%の変換効率が期待できる。


 一般的なペロブスカイトは、電子輸送層に緻密酸化チタン層と多孔質酸化チタン層、ホール輸送層にSpiro-OMeTADが使われている。多孔質酸化チタン層がある方が効率は高いが、緻密酸化チタン層のみのプレーナー型でもよく発電する。高価なSpiro-OMeTADに代わるホール輸送材料としては、P3HTや銅チオシアン化合物(CuSCN)が提案されている。

 高いパフォーマンスを発揮するペロブスカイトだが、大気安定性や材料(鉛)の毒性、大面積化などの課題も多い。環境負荷の少ない鉛フリーペロブスカイトとして、スズペロブスカイトの検討が進んでいるが、効率はまだ低い。大面積&集積構造では、高精度なレーザースクライブの技術が重要となる。また、レーザーを成膜プロセスに応用(レーザー蒸着法)する検討も進んでいる。ペロブスカイトの高耐久&高寿命化には、ダブルガラスを用いた完全封止型が有望である。

 鉛の毒性が懸念されるペロブスカイトだが、鉛を積極的に使用する方が、結果的には環境負荷低減につながるという意見もある。将来、自動車用鉛電池がリチウムイオン電池に置き換わった場合、鉛の行き場がなくなる可能性がある。鉛の処理に頭を悩ませるより、太陽電池材料として有効利用した方が得策というわけだが、これについては見方が分かれるところだ。

(7)再来、ダブルガラスモジュール

ダブルガラスモジュール(三菱電機)
ダブルガラスモジュール(三菱電機)
 結晶Si太陽電池モジュールの長寿命化に向けて、2枚の薄型ガラスでセルを封止したダブルガラスモジュールの提案が増えている。裏面に樹脂製バックシートを用いた従来のモジュールに対し、ダブルガラスモジュールは水蒸気の浸入や劣化の懸念が少ない。近年では、1~0.8mm厚でも高い強度を持つ強化ガラスが登場したことで、ダブルガラスでありながら、軽量なモジュールが可能になった。ダブルガラスでは、水分の侵入抑制に加えて、採光も可能になる。さらに、軽量モジュールは、施工性が改善し、システムコストの低減が期待できる。また、セルの両面で発電する両面受光型モジュールではダブルガラスが必須となる。

 国内勢では、京セラが多結晶Si太陽電池セルを用いた高耐久ダブルガラスモジュールを提案している。また、三菱電機も旭硝子の化学強化ガラス「Leoflex」を両面に使用した軽量ダブルガラスモジュールを発表した。0.8mm厚の薄型ガラスにより、m²あたりのモジュール重量は9.1kgと、従来比で21%の軽量化を果たした。ダブルガラスモジュール用薄型ガラスを供給する旭硝子は、自社ブランドの超軽量モジュール「ライトジュール」を市場投入している。そして、Suntech Power、Canadian Solar、Trina Solar、JA Solarといった中国勢もダブルガラスモジュールを提案している。
 薄型強化ガラスを用いたダブルガラスモジュールは軽量&高耐久が期待できるが、さらに低コストが実現すれば、本格普及も見えてくる。

(8)躍進するCIGS

 CIGS太陽電池は現在、セル効率で20%超の競争が激化している。ZSW(ドイツ)が21.7%、Solibro(ドイツ)が21.0%、NREL(米国)が20.0%、EMAP(スイス)が20.4%、ソーラーフロンティアが20.9%、AISTが20.6%を実現している。また、ソーラーフロンティアは30cm角のサブモジュールで17.8%、大型モジュール(1228cm²)で14.6%を達成している。

CIGSの事業拡大を進めるソーラーフロンティア
CIGSの事業拡大を進めるソーラーフロンティア
 近年、CIGSの効率向上にK(カリウム)効果が注目されている。CIGS成膜後にKF(フッ化カリウム)を成膜・熱処理することでKが拡散し、CIGSにCu欠損層が形成されることで効率が向上するという。ZSW、EMPA、AISTはK効果を活用しているが、ソーラーフロンティアはK効果なしで高効率を実現している。

 CIGSは宇宙放射線に対する耐性も高く、放射線防護のカバーガラスをつけていない状態で、7年以上、放射線劣化しないことが実証されている。

 CIGSは米国、ドイツで多くのベンチャーが立ち上がったが、その多くが本格量産を前に事業継続を断念している。CIGSで唯一、1GWの生産体制を確立しているのがソーラーフロンティアである。15年には宮城で新工場が稼働するほか、海外でも量産工場を計画するなど、積極的な事業展開を進めている。

 技術的な“伸び代”が多いのもCIGSの特徴である。新規成膜プロセスとして、非真空の超音波噴霧法(ミストCVD)が提案されている。また、PI基板やSUS基板を用いたフレキシブルCIGSも検討されており、すでに一部で量産が始まっている。
 Cdフリーバッファー層(Zn系)では、安全&安価で高速プロセスを実現するALD法やスパッタ法の検討が進んでいる。裏面電極については、Moの高温プロセスによる低抵抗化&薄膜化、さらには反射率の高い材料への代替による光閉じ込め効果の向上が期待されている。

(9)CdTe来航

 CdTe太陽電池の開発は長年、日本メーカー(旧松下電池工業)がリードしてきたが、最終的には、毒性が懸念されるCdTe太陽電池が日本で普及(90年ごろに一部製品化)することはなかった。一方、誰も手を出さないことを逆手に取って、アッという間に業界トップに登りつめたのが米FirstSolarである。02年から商業生産を開始し、09年には、太陽電池としては世界で初めて、年間生産量が1GWを超えた。

CdTe太陽電池(FirstSolar)
CdTe太陽電池(FirstSolar)
 CdTeは太陽電池としては理想的なバンドギャップ(1.4~1.5eV)を持つ材料である。CIGSなどと同様、直接遷移型半導体のため、光吸収係数が高く、薄膜化が可能である。理論変換効率は28%と言われている。ソースと基板の温度差を利用して成膜する近接昇華法という成膜方法が一般的で、分単位で数μmの薄膜が形成できる。ガラス基板投入からモジュール完成までの所要時間は2.5時間と短い。薄膜太陽電池としては変換効率が高く、高いスループットと低い装置コストにより、既存の太陽電池に対し圧倒的なコストパフォーマンスを示したことで、供給量が急速に増えた。FirstSolarによると、13年末の累積生産量は8GW(400万世帯の電力消費量に相当)に達しているという。

 CdTeの変換効率は、70年代後半に松下が10%弱を達成し、90年代には15~16%まで向上したが、その後、大きなブレークスルーはなく、効率は伸び悩んでいた。FirstSolarが11年7月に量産用の製造装置を用いてセル変換効率17.3%を達成して以来、効率の改善が進み、14年8月には21%を達成した。ちなみに、現在量産中のモジュール効率は平均14%である。

 Cd公害の苦い経験を持つ日本では、当然ながらCdTe太陽電池への拒否反応が強かったが、急拡大する市場がこうした既成概念を吹き飛ばしてしまった。FirstSolarは13年11月、日本の太陽光発電所建設に1億ドルを投入する計画を打ち出すなど、日本市場への本格参入を発表した。そして、第1弾として、北九州市の日本板硝子敷地内に1.3MWのメガソーラーを建設し、14年3月に完成・稼働を開始した。さらに、XSOLと年間100MWの供給契約を締結し、産業用だけでなく、住宅市場にも参入することを決めた。「リサイクルフローが確立され、将来の廃棄費用も計算できる」というのがCdTe太陽電池の利点の1つだが、果たして日本市場で成功するか、今後が注目される。

(10)価格下落に歯止め?

 14年は、PVメーカーの収益を圧迫してきた価格下落が一段落した一年だった。PV用ポリシリコンの価格は、13年初頭には、kgあたり14~15ドルまで下落したが、14年初頭には19~20ドルまで回復し、現在は18~19ドルで推移している。一方、結晶Siモジュールの価格(W単価)についても、13年初頭に0.65ドル、14年初頭に0.7ドル、14年末に0.6ドルとなっており、この数年間は0.6~0.7ドルの間で安定して推移している。価格が安定したことで、多くのPVメーカーが収益改善を果たした。

 ただ、PVのコスト目標はこれが終着駅ではない。NRELでは、PVのシステムコストは13~14年の2年間で、それぞれ12%程度下落したと分析しているが、16年ごろまでは下落傾向が続くと見ている。EnergyTrendも、15年はW単価が0.43ドルまで下落(14年比3割減)すると予測しており、Lux ResearchはBOSコストが20年までに15~30%下落すると推測している。

 NEDOも14年に策定した「太陽光発電開発戦略」のなかで、20年に14円/kWh(業務用電力と同等)の発電コストを実現する方針を打ち出している。急激な価格下落に歯止めがかかったものの、決してPVの発電コストが安くなったわけではない。FITをはじめとする導入支援施策に依存しない、自律的な発展を目指すには、さらなるコスト低減が不可欠である。

半導体産業新聞 編集部 記者 松永新吾

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